インドに移住し、住まいが整い、旅行出張の日々から一段落して、気づけば無闇に、人に会っていると思う。それは決して悪いことではないのだが、どうも、妙なのだ。
米国時代、わたしも夫も、たとえば休日は、二人で過ごすことが多かった。月に一度ほど、共通の友人と食事をしたり、数カ月に一度、自宅でパーティを開くことはあったが、決して頻繁にではない。
近くに夫の遠い親戚が何人か住んでいたにも関わらず、滅多に会うことはなかったし、日印カップルの友人らとも、会うのは数カ月に一度のことだった。
ルーマニア人カップルのシルヴィアとアンドレイに出会ってからは、彼らがこまめに誘ってくれるので、よく顔を会わせていたが、こまめに誘ってくれる人がいないと、わたしも夫も、自分から積極的に誘う方ではなかったのである。
そもそも、わたしもアルヴィンドも、さほど「社交的」ではなかったのだ。
ところがどうして、インドに来てからは、週に一度は義姉スジャータ&ラグヴァンを誘って食事をしているし、それ以外にも友人らをしばしば招き、その上、自分も誘われればひょいひょい出かけ、更には料理教室などしたりして、いかにも千客万来なマルハン家である。
無論、米国時代は、二人で散歩がてら「ちょろっと出かけられる場所」があちこちにあったけれど、バンガロールにはない。家にいる時間が自ずと長くなる。だからこそ、人を招くのか?
いや、それは違うな。
移住前、インドを訪れるたび、しばしば親戚やら友人らやらが集まっている様子を見ていて、その社交性の濃密さに「楽しそうだけど、たいへんそうね」と思っていたのだが、インドに来て以来、すっかり、普通のことになってしまっている。
家政夫モハンがいて、準備や片付けをやってくれるから……? それは大いに理由となり得る。しかし、それだけが理由なのだろうか? インドには、社交の風が吹いているのか?
今朝、のんびりと目を覚まし、ヨガもせず、遅い朝食を済ませ、午後は少し、お互いやることがあるから、それぞれに過ごすとして、夜はどうする? と話し合いつつ、誰かを招いて夕食を、ということになる。
来月中旬にはニューヨークへ帰任するショーンとエミさん、それから、ヨウコさんとインド人ハズバンドのヴィッキー、お向かいのヴァニラエッセンスなIさんに声をかけた。Iさんは、あいにく日本人会の用事がおありだったが、他のゲストは予定もあいており、来られるとのこと。
いつもは、モハンの料理でおもてなし、だけれど、今日はわたしが主に、料理をしてみようと思う。冷凍室に常備している丸ごとチキンと、チキンの挽肉を取り出し、解凍しておく。あいにく、チキンしか、在庫がなかったのだ。
いつもなら、丸ごとチキンはモハンのカレーになるところだが、今日は丸ごとをグリルすることにした。それからチキンの挽肉は、グリーンピーを入れてドライカレーに、一昨日、Namudharisで買って来ていたエリンギは、バター醤油炒めに、その他トマトのブルスケッタ、ニンジンのグリルなど。
チキンのドライカレーは、インドのスパイスをあれこれ使いつつも、やはり、ほんのり、醤油の隠し味で、日印風味の融合である。
トマトのヘルシースープ、小振りの甘いポテト、ゆでトウモロコシは、モハンに調理してもらうことにする。そうだデザートには、お手軽なブレッドプディングを焼こう。
5時頃、モハンがいない隙に、キッチンに立つ。鶏肉を洗い、掃除をしていると、モハンが戻ってきて、我が傍らで、てきぱきと片付け始める。お願い。それはまだ、これから使うの。片付けないで。
「モハン。わたしに、あと1時間、ちょうだい。1時間後に、戻って来て」
と、頼んで、一安心。急ぎ準備にかかる。米国時代のオーヴンは大きかったから、なんでもドシドシまとめてグリルできたけれど、我が家のは日本的に小さいので、鶏肉1羽とニンジン数本をちらばしたら、もう一杯いっぱいだ。引っ越したら、大きなオーヴンを買いたいと思う。
大きいオーヴンなら、トウモロコシもジャガイモもニンジンも、まとめて全部グリルできて、手抜きワイルド料理が作れ、かつおいしいのである。二人での食事には不経済なサイズだが、大人6人くらいだと、米国サイズのオーヴンは非常にいい。
それにしても、キッチンの使い勝手が悪いこと! わたしが使用する米国時代購入のボウルやフライパンや鍋類は、毎度、収納棚の奥〜の方にしまわれていて、おまけに、モハンが使わないオリーヴ油や醤油類も、奥〜の方にしまわれていて、いちいち発掘せねばならない。
デリーに引っ越す際には、キッチンのレイアウト、収納をしっかりと考慮する必要があるな、と痛感しつつ、砂糖が見つからない、計量カップはどこだと、キッチンを行き来するのである。
さて、7時には、ゲストもやってきて、乾杯。インド的に、飲みながら、しばらくおしゃべりをしつつ、おつまみやブルスケッタを食べつつ、やがてモハンのトマトスープでひと呼吸。
インド的にを遂行すれば、夕食は9時過ぎあたりから、になるところだが、日曜の夜にそれでは遅すぎるので、8時過ぎには焼きたて出来立ての料理をテーブルに。
ちょっとだけ、サンクスギヴィングデー的なヴィジュアルではある。チキンが小さいけど。
いずれも、なかなかおいしかったと思う。わたしにとっては、「自分の好きな味自分の味」なので、満足であった。デザートのブレッドプディングは、パンを多めに入れすぎたのに加え、焼く際、鉄板に「湯を張る」のを忘れていたので、固めになってしまった。
ブレッドプディングをしっとりふわふわに仕上げるためには、湯を張って「蒸し焼く」のが決め手なのである。うっかり忘れがちなので、敢えて書いておこう。
さて、宴を終え、やはりモハンがてきぱきと片付けをしてくれるのは、いかにも助かる。この「後片付け」をせずにすむというのは、やはり、人を気軽に招ける大きな決め手だな。
それにしても、今日は、さほど飲んだ訳でもないのに、なんだか随分、酔っぱらった。それに、よく食べた。
明日、6時半起床で、ヨガに行けるんだろうか。行けない気がする。
……それにしても、今週の記録は、食べ物の写真ばかりだな。来週は、少し視点を変えてみようと思う。