今日はひとっ飛び、米国に行って来た。
とでも言いたくなるような、そこはコロニーであった。バンガロール市街の東、我が家から車で約1時間。ホワイトフィールズという地域にある、パームメドウと呼ばれる住宅街だ。主には欧米諸国をはじめとする駐在員家族が暮らしている。
移住前から噂には聞いており、写真なども見ていたのだが、訪れるのは今回が初めてだ。クッキングクラスを受講してくれているY子さん(ハズバンドは米国人)が、Coffee Morningのパーティーを開くというので、お邪魔したのだった。
まさに、そこはバンガロールの中のアメリカだった。いや、地中海沿岸都市を意識した米国の住宅地、と言うべきか。その名の通り、椰子の木が規則正しく並ぶ街路。綺麗に手入れされたガーデン。色鮮やかなブーゲンビリアやハイビスカス……。
ワシントンDCやカリフォルニアのご近所が懐かしく思い出される、そこはすでに、異国の地だった。
そんなわけで、パームメドウ。Y子さん宅は、天窓からの光がさんさんと降り注ぎ、とても開放的な雰囲気。テーブルにはY子さん手作りの、おいしそうなお菓子が並んでいる。
手みやげに、夕べ作っておいた杏仁豆腐を持参した。それは、「作った」と言うには憚られるほど、簡単なものである。実は先だって香港に行った折、MUJI(無印良品)で買って来ておいた「杏仁豆腐の素」を使ったのだ。
粉を湯で溶いた後、同量の温めた牛乳を加えて、冷まし、冷蔵庫で冷やすだけ。それだけで、朝にはトゥルントゥルンのおいしい杏仁豆腐ができているのだ。簡単過ぎるのだ。それにパイナップルのスライスやザクロ、自家製ミントの葉を散らしてオリジナリティを添え、持参。
ゲストはなじみのある日本人マダムの他、コリアン、シンガポーリアン、チャイニーズとアジア系の人々が多く、久しぶりに新しい人たちとの会話が楽しい。
何人かに杏仁豆腐のレシピを尋ねられて困った。一人のコリアン女性がものすごく気に入ったようで、事情を話したら、激しく落胆していた。インドにある材料で一から作ってみて、おいしかったら彼女に知らせなければなるまいか、とさえ思った。
インドは乳製品がおいしいから、素朴なお菓子をおいしく作れる。こんな簡単な菓子さえ、おいしい。
ところで、日本人マダムと料理について話すようになって、いかに皆がインドの乳製品に対して誤解を持っているかを認識した。
インドの牛乳は、スーパーマーケットのパック入りはまずいが、我が家のように配達してもらって、自宅で沸騰させ殺菌して飲む牛乳はおいしい。無論、低脂肪ではなく、全乳(Rich Milk)を選ぶのがポインドだ。米国時代の薄くて味気ない牛乳に比べたら格段においしい。
ヨーグルト(カード)も、おいしい。それからフレッシュクリーム(生クリーム)。これも少々酸味があるが、それもまたいい。これを果てしなく攪拌すると、水分が分離して、自家製のおいしいバターが出来上がる。
夕べは、このバターにすり下ろしたニンニクを少量落とし、豚肉の薄切りを軽く塩こしょうして炒めて食べた。そのシンプルな料理のおいしかったこと! ちなみに我が家では、はニルギリズ製を使用している。
我が家で作るムースやブレッドプディングやタルトやカスタードクリームなどなど、すべてインド乳製品のお陰で好評を博しているのである。なんだか大いに話がそれたが、機会を改めて、インドの乳製品について、我、語りたいと思う。
会がお開きになった後、Y子さんに、クラブハウスへ案内してもらう。プールサイドのレストランで、数名の友人たちとランチ。本当に、ここはインドにして、インドではない。どこにいるのだか、わからなくなる。
帰り道、次々に巨大なオフィスビルディングやアパートメントビルディングが建築されているあたりを通過する。
恒常的に砂塵が舞い上がり、恒常的に工事中。この町が、この国が、日ごとに激烈な勢いで変化しているのが目に見える。
さて、帰りは書店によるなど買い物した後、近所の郵便局に立ち寄った。2キロだか3キロを超過する荷物は、配達しないらしく、必然的に郵便局に受け取りに行かねばならないらしい。
それは予期していた日本からの荷物だったので、心弾ませ、受け取りに行った。ドライヴァーに我が家最寄りの郵便局まで連れて行ってもらう。とそこは、我が家の目と鼻の先だった。
その廃屋のような建物を、今日の今日まで、郵便局とは知らなかった。看板などない。そして、果てしなく、古い。
カウンターのおばさんに伝票を見せる。奥に入ってマネージャーと話せという。マネージャー、伝票を見る。IDを見せろと言う。カリフォルニアの運転免許証を見せる。パスポートはないのかという。そんなものは持ち歩いていない。
マネージャー、しぶしぶ担当者に紙を渡し、指示する。担当者、鍵を持って、巨大な木箱に近づく。そうして南京錠を開け、その木箱をあける。その中に、我が荷物は、あった。
なんて、クラシックな郵便局。なんてクラシックな事務設備。数時間前の世界とのあまりの格差に、頭がくらくらする思いだ。
頭がくらくらしながらも、のろのろと作業するおじさんにやれやれ、と思いながらも、なんだかひどく、安心した。
わたしはやっぱり、こういうインドも、好きなのだ。
さて、この日本から届いた箱。たくさんの本が詰められた、とてもうれしい贈り物。この送り主のことについて、また改めてゆっくりと、書きたいと思う。
ところで、昨日からの懸案、トナーである。
帰宅後、思い当たってスタビライザーを買った店に電話をした。即、不良品交換に来てくれた店だ。すると、指定のトナーがあるという。今日配達できるか、と問えば、これから1件仕事があり、昼ご飯を食べてから向かう、という。すでに時計は午後4時半をさしている。
「今からランチなの?」
などと聞いてしまうマダム、余計なお世話というものである。
果たして彼は1時間半後、トナー2本を携えてやって来た。ブラボー! ワンダフル! あなたはすばらしい!!
今度から、この店を利用することに決めた。夫にも勧めるつもりだ。