さて今朝は、例の「アメリカ郊外的住宅地」であるパームメドウへ行った。Y子さん宅で、妊婦なIさんのためのベイビーシャワーが行われたのだ。Y子さんの手作り菓子(おいしい!!)をはじめ、みなさん持ち寄りのお菓子やスナックがテーブルを彩っている。
午前十時を過ぎたばかりの、やはり「朝っぱら」にも関わらず、わたくしはもちろん、みなさん旺盛な食欲で、食べつつ、お茶を飲みつつ、おしゃべりしつつのひととき。
Y子さん曰く、インドでは妊婦さんにバングルを贈るのが習わしということで、参加者がひとりひとり、Iさんの腕にバングルを付けていく。
元気なベイビーの誕生を祈りつつ!
ところで参加している日本人マダムらの大半が、明日のサッカーの試合を観に行くらしい。実は我々、アパートメントの契約更新に先立ち、大家夫妻と明日か明後日、午後打ち合わせをすることになっており、彼らの返事待ちであったのだが、どうしても行きたくなった。
なので、大家に電話をして、なんとか明後日にしてくれと要請し、明日の午後は、出かけることに決めた。
従っては、チケットである。もちろん買っていない。が、日本人会から届いた情報によると、スタジアムに隣接するスポーツオーソリティーで販売されているとのことだった。従って、帰路、スタジアムに寄ることにした。
インドの国民的スポーツはクリケット。それ以外のスポーツは、ほとんど世間に認知されていない。従っては、観客は、在住日本人が多数ではないかと思われる。チケットは余裕で残っているはずだ。ちなみに500ルピー。US$12程度。
それにしても、がら〜んとしたスタジアムである。入り口が開いているので、中に入ってみた。やっぱり、がら〜んとしている。日本のメディアの人たちや、関係者らしき人たちの姿がちらほらと見える。
心なしか、彼らの表情が暗い。
「まじかよ」
「ここかよ」
といった、声なき声が、聞こえてきそうである。
聞いたところによると、選手たちが泊まっているホテルは、あまりにも、ぱっとしないホテルである。なにしろ昨今のバンガロールのホテル事情、極めて悪いからね。まともなところは、異常に高いし。
ちゃんと、シャワーの湯は出ているかしら。みんな、お腹の具合は大丈夫かしら。マダム、気が気ではない。モハンの手料理で、みなさんをおもてなししたいくらいである。
さて、そのスポーツオーソリティーと呼ばれる小汚いオフィスに入る。お姉さんと、おじさんが、ぽつねん、といる。
「明日のチケットを買いたいのですが……」
「チケットは、ここにはありませんよ。明日の朝なら、その入り口にブースが出て買えますけれどね。今日は、カルナタカ州フットボール協会でしか販売してません」
まじかよ。
ここじゃないのかよ。
あまりにも、案の定な展開にくらくらしつつ、その「カルナタカ州フットボール協会」の場所を尋ねる。それにしても、そんな協会が存在していたとは、驚きである。
「ガルーダモールのすぐ近くだから。すぐにわかります」
明日の朝、買いにくるのは面倒だし、ともかくはガルーダモールは近いし、出かけることにした。とはいえ、近いとはいえ、具体的な住所か通り名などが欲しいところだ。しかし、彼女曰く、「モールと病院の間だから。みんな知ってるから。すぐわかるから」と、それ以上の情報をくれない。
未舗装道路を近道して、ガルーダモール界隈に到着。が、案の定、見つからない。尋ねてみる。誰もしらない。ああもう! 一方通行が多い故、車から下りて、うろうろと歩く。排気ガスが猛烈だし、お出かけ用のサンダルだし、どこに行けばいいかわからんしで、ああもう!
とある店先で、おじさんが指差して、教えてくれる。
「ニュールック! ニュールック!」
おじさんの指先を頼りに、歩く。あった! NU LOOKS! あったけど、ちょっと待てよ。あそこにあるわけ? その砂山は、どうすりゃいいわけ? ああもう!
砂塵舞い上がる中を歩いて行く。どうしてこうなの? インドって。どうしてこう、いちいち、面倒なの? わたしは、いったいここで、何をしているの? どうしてわずか数十メートルを行くのに、障害物競走をしているような気分にさせられなければならないの? これってなんだか、オリエンテーリング?
ちょっとやだ、ここ〜? FOOTBALL ASSOCIATIONって書いてあるけど、シャッター、下りてるじゃないもう。油を売っている警備員の兄さんらが、シャッターを叩けば誰かが出てくるという。
どんどんどんどんどんどん!
と、握りこぶしてシャッターを打ち鳴らすと、中から眠そうなお兄さんが登場。
「ここはね、ジムなんだ。協会は、この裏」
裏……。昼寝の邪魔をして悪かった。
また足場の劣悪な道を歩く。うろうろしていて、ようやく見つけた。おう、ここもスタジアムなのか。知らなかった。
ここにもやはり、日本のメディアの人たちや、関係者らしき人たちの姿がちらほらと見える。
心なしか、彼らの表情が暗い。
「まじかよ」
「ここかよ」
といった、声なき声が、聞こえてきそうである。
「みなさん、遠路はるばるお疲れさまです。よろしかったら、我が家でお夕食でも、召し上がっていかれませんか?」
とでも、声をかけて差し上げたくなる。おもてなしをしたくなる衝動にかられる、そんな様子である。
それはそうとさ〜。なぜに、敢えて今日、ペンキ塗りをするかな。滅多に人が来ないであろうこの場所が、珍しく忙しくなるであろうこの日に。間に合わないなら、いっそ間に合わないままでいいのに。
中に入るのに、いちいちこのペンキが滴り落ちんばかりの櫓の下を通過せねばならんというのは、間違っとる!
今、この国に必要なのは、「計画性」。
そんなわけで、薄暗〜い、あやしい一室にて、ようやくチケットを入手。
「スタジアムでは、スナックや飲料の販売は行っていませんからね。どうぞご自分で持参してくださいね」
そんなこと、言われんでもわかっとる! ってなもんである。いっそ、ホットドッグの屋台でも開きたいくらいである。
ピーナッツの小袋でも投げたいくらいである。
そんなわけで、 無闇に体力を消耗した午後。
「サッカーの入場券を求める小さな冒険。」
何が冒険だ。
いくらサッカーに興味ないからってさあ。みんな、もうちょっと、なんとかしようぜ!
そんなわけで、明日、観戦してまいります。
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※本日、スタジアムで報知新聞の取材者を見掛けたので、ネットで記事を読んでみた。やっぱり、こんなことが……。「ガタガタ」ではなく、「ガッタガタ」。この小さい「ッ」に、記者の切実な感情(不満)が託されている気がする。
そしてこんなことも……。カルナタカ州フットボール協会のあったあのスタジアムが、本日の練習場になっていたのね。だから、日本人の姿が多かったのね。みんな、ペンキの滴にやられなかったかな。
「半ばインド人」の我としては、最早、なにかと、心が痛む!