さて、夜は博多駅へと向かう。高校時代の友人らと、今夜は再会するのだ。普段のわたしは学生時代の友人らとの付き合いが殆どない。中学時代、高校時代、大学時代……。常に連絡を取り合う人は皆無に等しい。
それは、わたしの性格の問題もあるだろうが、福岡、下関、東京、米国、インドと、住処を転々としてきたせいもあるだろう。
今回、高校時代の、しかも当時はあまり親しくなかった友人らに会うことになったのは、インターネットがきっかけだった。高校のときに同じクラスなったことのあるY子さんが、あるきっかけでわたしのホームページにたどりつき、『街の灯』を読んでくれ、メールで連絡をくれたのだ。
以来、何度かメールのやりとりをし、今回、23年ぶりの再会となった次第。彼女のことは覚えていたが、その他の参加者4名はRさんを除き、同じクラスになったことはなく、名前にかすかな記憶があるものの顔が思い浮かばない。
ところが、待ち合わせの居酒屋で顔を会わせた途端、
「あ〜、知っとう! 覚えとうよ〜! 久しぶり〜!!」
と、時の隔たりどころか、あらゆる隔たりを乗り越えて、普通なら有り得ぬ「親しさ」というか「慣れ慣れしさ」が炸裂するから不思議である。
「わたし、1年のとき、何組やったとかいな? 覚えとら〜ん」
「わたしたち、3年間、ずっと一緒やったとよ」
「1年と3年は女クラ(女子のみのクラス)やった。1年ときはつまらんやったけど、3年ときは、楽しかったよね〜」
「坂田さん、3年のとき、文系クラスやろ? わたし理系クラスやったけん、女子が少なかったと」
「わたし、高校んとき、悪かったっちゃんね〜」
「言われんでも覚えとうくさ! あ、そういえば、3年の体育祭のとき白組やったやろ? チア(チアリーダー)やったやろ?」
「そうそう! なんね、私たち、おんなじやったとね!」
「そうよ、あのハチマキやら法被(はっぴ)やら、みんながうちに来て、刺繍したっちゃが!」
「わたし、N君のこと、ずーっと好きやったとよ。」
「え〜、そうなん? わたしバンドで一緒やったよ。バレンタインデーとか、チョコレートやったと?」
「それが、な〜んもしきらんかったとよ。恥ずかしくて。6年前の同窓会のときに、初めて話したっちゃもん」
「うわ〜」
「わたしね〜、卒業間際くらいから、Y君と、ちょっとだけ付き合いよったとよ。」
「あ、わたし、Y君と同じ小学校やったと。実は、5年生のとき、初めてお互いが好きって言い合ったのが、Y君やったとよ」
「うっそ〜! ませと〜! 知らんかった〜! で、好きって言い合ってから、なんしたと? まさかキスやらせんかったろうね」
「せんせん。手もつながんかったもん」
「じゃ、なんしたと?」
「交換日記とか、ちょっとしよった」
「あ〜よかった〜。ちょっと安心した」
「わたし、○○高のハーフの女と、香椎アピロスのマクドナルドの前で喧嘩したっちゃんね〜」
「あ〜、なんか覚えとう、その人。きれいな人やろ? なんで喧嘩したと? なんしたと?」
「いや、眼(がん)付けたとか付けんかったとか、そんなくだらん理由たい」
「あんた、無免許で運転しよったろ〜?」
「一回だけって! 短大のときに付き合いよった彼氏が金持ちで、広い土地ば持っとったとよ。そこで運転したとって」
「うちの下の息子が悪いったい。成績も、もうほんと、頭痛いとよ。数学はいいっちゃけどね。国語が悪いと。偏差値14よ、14 !」
「じゅうよ〜ん!!? そんなの、あると〜? 有り得んやろう14げな。聞いたことないって」
「でも数学はいいとって。トップやもん。国語と世界史が悪いと。カタカナば覚えきらんとよ。人の名前とか、イコールで3つくらいにつながれとうやつとか。わたしも、カタカナが苦手と。ピンクレディー、とか書き切らんかったもん。でも、数学はよかったよ。あ、息子は英語も結構、いいよ」
「わかった。息子、インドに送り! インドに留学させればいいったい。数学と英語ができたらばっちりやん。これからのインドはいいよ。胃袋は強い?」
「強い強い。ボーイスカウトとかしよったけん」
「身体が強いんやったら、インド、問題ないよ。ま、責任は取れんけどね」
「NくんとH、付き合いよったとよね」
「あ〜、Nくんて、ここに大きいほくろのあった人?」
「そこやないって、ここ、ここにあったろう?」
「違うって、ここて。ここ」
「うそ〜、そうやったっけ?」
「Yくん、うちのクラスの*ちゃんと付き合いよってさ、よ〜、休み時間にうちの教室に来よったと。で、下敷きでこう、隠しながら、キスするとよ〜。もう、ほんと、みんな呆れとった。かわっとった〜、あん人たち」
「Mちゃん、漫才、好きやったよね〜。B&Bとか紳介竜助とか、おさむちゃ〜んとかさ〜!」
「空海の似顔絵、描くのうまかったよね」
「なんそれ?」
「あれたい、最澄と空海の空海たい。教科書に、顔がのっとったろ?」
「スキーの修学旅行、ひどかったよね〜。後発隊の列車が事故に巻き込まれたろうが」
「そうそう。踏切事故でさ! わたし見たよ、血、流しよう人。あの人、どうなったとかいな」
「わたしたちも、みんな具合悪くなったろ〜? でも、後発隊の看護婦がばあさんで、全然、役に立たんかったろ〜が」
「わたしたちが到着したとき、先発隊はとっくに到着しとってからくさ。夕飯すませて、もうお風呂にも入っとったやろ? あんとき、ほんとムカついた〜」
「あの修学旅行は、ひどかったよね」
「体育祭はすごかったよね〜。創作ダンスとか、本気やったもん」
「あんなすごいの、よ〜、高校生が考えたと思わん? あんときリーダーやった○ちゃんが、中国に凝っとってからくさ。喜多郎とかはやっとったやない。あの音楽で、テンシャン山脈がテーマとか言いながら、考えたとよ」
「テンシャン山脈〜?」
「わたし、地図帳で調べたとよ。天山山脈」
「勉強はあんませんかったけど、みんな体育祭は、燃えたよね〜」
「声出しもすごかったしね〜」
「でも、あんときね、宗教上の理由とかで、大声だせん人、おったとよ」
「うっそ〜」
……とまあ、こういう会話を4時間ほども、延々と続け、大いに盛り上がったのだった。
忘却の彼方にあった記憶、人の名前や情景や経験。その一つ一つの小さな扉を開かれて、飛び出してくるようだった。
これは、どういうことなんだろう。高校時代ですら、仲が良かったわけでもなく、それから20年以上も出会わなかった人たちと、こんな時間が持てるということは。
わたしの中学時代は、わたしにとって「闇」だった。ささやかな躓きから、それまでの自分が、がたがたと崩れていった。あまりにもわずかな期間の蹉跌が、大人となったときに省みれば取るに足らない出来事が、中学時代のわたしのすべてだった。
結局のところ、ドロップアウトをしたわたしは、自分の志望する高校に進学することができなかった。高校入学当初は、そのことを相当に辛く思っていた。
高校に入り、しかし、がんばってみたところで思ったほど成績上位者になれず、「あれ? わたしって……?」と自らをいぶかしく思い始めたと同時に、「開き直り」のような気分も加わり、高校2年あたりから、いい具合に「弾けた気分」になったように思う。
勉強よりも部活や体育祭やバンド活動や遊びに熱中できたあの環境があったからこそ、今日の、かようなわたしが出来上がったのは、紛れもない事実だ。これはこれで、ユニークな人生ではある。今となっては当時の自分を否定するつもりも、悔やむつもりもない。
むしろ、思い悩んでいた当時の自分を、不憫にさえ思う。
そもそも中学、高校の、わずか6年ほどの学習が、その後の長い人生の方向性を定めると決定づけられているのは、不条理である。学歴が、その後の人生に大きく影響を与えるのは事実だが、それがすべてではない。
そこで失敗したからといって、その後の人生が失敗に終わるわけがない。
わたしに関して言えば、決して上質の学生時代を過ごしたとは言えない。阿呆なことをしでかして、阿呆な悩みに身をやつし、思い返すに情けない。しかし、それが子供であり、ティーンエージャーであり、青春である、とも言えなくもない。
あいにく、わたしの中高時代、メンター(よき指導者)となる人物は周囲にいなかった。両親や教師との折り合いは著しく悪く、むやみやたらと壁にぶち当たっていた。無論、おおよその日本の子供たちは、そうであったし、今ではかつてよりもっと、状況は悪化しているだろう。
壁にぶつかっている子供たちに、親身になって助言ができる大人たちの存在が、いかに大切か、ということを思う。それがないから、わからないから、生か死かの二者択一になる。
……なんだか、無闇に長くなった。
ともあれ、ほんとうに楽しい夜だった。
In the evening, I met up with my friends from high school in Hakata. I am not regularly in touch with any of my school friends.
It's partly because of my personality, but it's more of the fact that I have been moving many times since; Fukuoka, Shimonoseki, Tokyo, U.S.A, India...
It's the internet that connects you with the old friends you weren't terribly close to. This time is no exception, one of the classmates Y-san happened to find my website, read my book and made a contact.
After exchanging several emails, we finally got together for the first time in twenty three years! I could hardly remember the faces of other four members who were also coming to tonight's reunion.
Nevertheless, as soon as we saw each other in the restaurant, we were all
screaming and shouting.
"I know you! Of course I remember! Gosh, Long time no see!!"
All of a sudden, beyond times, geographical distances, and whatever measurable,
we start acting so familiar or even overfamiliar.
We never stopped talking. Just carried on talking and talking about everything back in those days...who were doing what, who were dating/kissing whom, confessing big crushes or some silly fights, eventful school excursion, festivals ... and so forth for a good four hours!
All the old memories- name of places, people and detailed experiences that had fallen into oblivion long ago-are now coming back as if each of them was given a door to jump out.
I would have to say that it was my "dark days"when I was in Junior High School.
Triggered by a trifling failure, I had lost my confident and I was not the one I used to be anymore. A minor setback in such a short period which would mean nothing when you grow up, was literally the whole world to me at that time.
As a result, I couldn't go on to High School which I wished, and I had been
traumatized by this for a while after I entered this High School. But the reality was, I really didn't get ahead of others academically even though I studied hard. I started questioning, "Am I any good or... what??"
I then got involved and absorbed in other fun things like the extra curricular activities, sports festivals, band music.
It's not too much to say that these experiences have made today's me. I do not deny myself back in those days, and I do not have any regret either.I rather feel compassionate to that young me.
My schools days were not spectacular or high-class at all. I did the stupidest things, I was devastated by the silliest problems. Just pathetic, now I think back. However, in my opinion,
that's what kids are about, teen ages are about, and adolescence is about.
Unfortunately, there was no encounter with anyone regarded as a mentor. I wasn't good terms with my teachers and my own parents. I remember I was running to brick walls all the time. I suppose thought it wasn't only me that struggled like that, most of other adolescents were pretty much the same.
Apparently, the situation around young people nowadays have become much worse than before. I truly believe that the role of adults in today's society is significantly important then ever.
What necessary for those struggling kids is somebody they can entrust, somebody who gives them loving care. Sadly, too little young people can find any of those existences, and that's why they come to the conclusion "life or death".
At any rate, I had such a quality time this evening.
[Translated by Michi-san]