晦日である。
今年中に仕上げようと思っていた作業を、午前中にやり終えることができた。なんとか目標は達成である。ついては外へランチにでも出かけたいものである。
急ではあるが、友人を誘おう、と思いつつも、夫に本日の予定を尋ねるに、なにげなく休暇中な彼。
「僕も一緒にランチに行きたい!」と言う。
「ドサがいいな!」とも言う。
夫が一緒では、友人を誘いにくいではないか。
結局は、夫と二人で出かけることにした。近所の庶民派食堂、SAMRATである。
ここのドサは、外食らしくちょっと重めではあるものの、その分、カリッと香ばしく、とてもおいしいのだ。
ここでは毎度お気に入りの「ぶどうジュース」(砂糖なしでね、と頼むのがポイント)、それから「マサラドサ」を注文する。
マサラドサとは、ドサのなかにスパイシーなポテトが巻き込まれているものだが、「ドサをしっとりとさせたくない」我々は、いつも、「マサラは脇に添えて」と注文する。
ドサを最後まで香ばしく食べられるのがよい。
ちなみに、この店のドサは三角に折り曲げられているが、普通は筒状にくるくるっと巻かれている場合が多い。
インド料理はたいてい、手で食べるのだが、かなり脂っこいせいか、指先に残る香りもかなり強烈である。
カメラに向かって気取っている場合ではないのである。
ところでドサとは、南インドの、基本的には朝食である。すでに何度も書いたが、米粉と豆粉を混ぜた物を発酵させて作ったタネを、平たいフライパンで焼いたものだ。
南インド食とはいえ、国民的人気メニューでもあるようで、都市部のホテルではデリーであれムンバイであれ、ドサを朝食に出してくれる。ホテルのドサも悪くないが、やはり庶民派食堂の味がいい。
さて、上の写真左は、米粉の蒸しパン、イディリ(idli)である。具が入っている。普通は入っていない。そして右はヴァラ(vada)。これも米粉と何かが入ったものを揚げているはずなのだが、何気ない粘り気が「山芋」を思い起こさせる、我がお気に入りの一品だ。
わたしはイディリ(イデゥリ)はあまり好きではないが、こちらのヴァラは好きなのだ。
そんなわけで、おいしいランチであった。たっぷり食べて、ジュースを飲んで、食後にコーヒー(南インドの抽出コーヒー、デコクションがおいしい)を頼んでも、二人でUS$5程度というのがうれしいものである。
食後は一旦家に戻り、夕方から買い物に出かけた。
珍しく、ハニーも同行である。「コマーシャルストリート」に連れて行きたかったが、またしても拒まれた。彼はわたしの御用達商店街に、結局一度も足を踏み入れたことがない。頑固者だ。
さて、従ってはガルーダモールへ出かける。予想通り、たいそうな賑わいだ。
ここのSONYでDVDプレイヤーを買う。この1年間、米国のプレイヤーを変圧器を使って使用していたのだが、DVDによっては見られないものがあったので、今回インド仕様を買うことにしたのだ。
その後、DVDを買うべくミュージックショップへ。もう、頭が割れんばかりのBGMが流れていたので、店員さんに頼んで音量を落としてもらう。かなり勝手な客である。でも、耐え難いほどうるさいのだ。
それからマダム御用達のドラッグストアチェーン店"HEALTH & GLOW"でお気に入りインドコスメなどを調達。
アーユルヴェーダのレシピに基づいて作られた、ヘルシー系インドコスメやシャンプーについては、この1年間、自らを実験台にあれこれと試してみた。その結果を、近々報告したいものである。
夫も自分がお気に入りのBIO TIQUEブランドのフェイスローション(MORNING NECTAR)をご購入。しかも徳用巨大ボトル。1年は軽く持ちそうである。わたしがあれこれと物色している間にも、店員のお姉さんとあれこれおしゃべりをしている。
夫は、言うまでもなく、かわいいお姉さんとお話をするのが好きなのである。その間に、妻は買い物に集中できるので、願ったりでもある。
その後、最上階のスーパーマーケットへ。FOOD BAZAARで、醤油を調達しようと思う。が、中国だかシンガポールだかで作られているキッコーマンは、賞味期限が数週間前に切れている。惜しい。
ほかにインド製の怪しげな醤油もある。これは賞味期限まで、まだある。
味に予測のつく賞味期限の切れたキッコーマンか。
味に予測のつかない、しかし新鮮なインド製醤油か。
なかなかに究極な選択である。ボトルを見比べながら悩むことしばし。賞味期限切れキッコーマンに軍配があがる。しかし、賞味期限切れを定価で買うのはいやだ。マダム、店員に安くならんかと尋ねる。と、マネージャーを呼んで来ますと店員。
またしてもマネージャー沙汰である。
かくかくしかじかを伝えると、「おう、これは失礼しました。賞味期限切れは、いずれにしても、販売できないのです。これはお売りできません」とのこと。
「え〜、でも、このインドの醤油、試したことないし……」
わたしが悩んでいるうちにも、夫はマネージャーと醤油のラベルなどを細かに見比べ、無闇に真剣な二人である。
と、店員が、中国製のチンというメーカーの醤油を持って来た。これもラベルがはがれかけた、なんだか怪しいボトルである。結果、
「わたしはインド製をお勧めします。もしもどうしても、味が気に入らなかったら、持って来てください。交換します」
とマネージャー。
「それは助かります。ありがとう」
と、夫。商談成立である。その他、お気に入りのアイスクリームが割引されているのを夫はめざとく見つけてご購入。
レジで会計をしていたら、マネージャー、駆け寄って来た。
「ここに、シンガポールブランドの醤油がありましたっ! こっちの方が、いいはずです!」
たしかにそれは、ボトルもきれいで、液体(醤油)もきれいな気がする。でも、値段はインド製の3倍だ。でも、インド製が安すぎるだけだ。結局、そのシンガポール製を買うことにした。
醤油一本を購入するにも、なにかと人々とのコミュニケーションが深いインドである。
「みんな、親身になってくれるね。アメリカとは、ちょっと違うね」
ちょっとどころか、全然違うよ。アメリカだって、日本だって、親切なところは親切だけれど。
インドだって、町へ出れば、悪いこともあるけれど、いいことだってたくさんあるんだよ。普段は悪いところしか見えなくても、心に少し余裕があるときは、いいところが見えてきたりもするんだよ。
外へ出るとすっかり暗闇。
随分長いこと、モールで過ごしていたようだ。
2006年も残すところあと一日。
※サダム・フセイン処刑直前の様子を、CNNやBBCニュースを見比べつつ、非常に気が重くなった。ブッシュ、情報操作、宗教対立……。夫とも、しばらくこの件についてを語り合うが、憂鬱な気分になるばかりだ。
それはそうと、インド首相の来日ニュースはとりあげないくせに、デリー郊外のノイダで起こった猟奇的殺人事件を積極的にとりあげる日本のメディアにも腹が立つ。