先日、通信会社のAIRTELに、携帯電話支払いの件で憤怒した我々のエピソードは、まだ記憶に新しいかと思う。
数日後、夫の携帯電話にバンガロール支店のカスタマーセンター代表から電話があった。あの日、夫は苦情のメールをカスタマーセンターへ送ると同時に、デリー本社のナンバー2である人物(副社長かCFO)に同じメールを転送しておいたのだった。
効果があったのは、後者だったらしい。
「CEOオフィスから先ほど連絡があり、我々のサーヴィスが不行き届きだったということで……」
と、陳謝され、今後の再発防止を約束され、件のカニンガムロード・サーヴィスセンターのマネージャーからもわびの電話が入り、名指しで苦情を書いた担当者からは、「ちくってくれたな!」的な不満声の電話がかかりで、それはそれで、面倒なひとときを過ごしたようだ。
とはいえ、夫はご機嫌だ。日頃から、
「ミホ、インドにはKAIZEN(改善)のコンセプトはないんだよ」
と言っていたが、それがあるらしいことを予感させられ、うれしいようでもある。重役がカスタマーの苦情を無視せずに、すぐに下へ回す速やかさには驚いた。が同時に、カスタマーセンターにメールを送っただけでは効果がなかったのではないかとも思う。
幾度も書いていることだが、インドの経済は信じられない速度で成長を続けている。暮らしの「欧米化」が進み、それまでとは異なる価値観と速度が、人々の暮らしの間を、まるで竜巻のように巡っている。
たとえば、カニンガム・ロードの担当者が、とりわけ悪意があった、あるいは仕事ができないわけではなかったと思う。多分、良心的に解釈すれば、なにもかもが時代の速度に「追いついていない」のだ。
これから少しずつ時間をかけて、善し悪しは誰にもわからぬこの新時代の到来に、人々は足並みを揃えて行くのだろう。
ぴりぴりと、していなければならないことが増えるのだろう。
今日、オフィスから戻って来た夫の手に、蘭の花かごがあった。
「今日ね、AIRTELから3人の女性が、花を持ってお詫びに来てくれたんだ。バンガロール支店の副社長と、それから社員。不手際を謝ってたよ」
確かに、花束の2つや3つ、もらって然るべき、大迷惑を被ったのは事実だが、夫が重役に通じていたから手厚く対応する、ということではなく、真にまともなサーヴィスを提供するよう、社員教育をやってほしいものだと願わずにはいられなかった。
* * *
日々、インドの新聞に目を通しているだけで、この国の激変ぶりが伝わって来る。
現在、受けている仕事のレポートをまとめるにあたり、インドのさまざまな産業の情報を目にする。ここ数年の、数字の変遷を見ているだけで、ときに心臓を締め付けられるような感情に襲われる。
The Times of India紙には、"India Poised" の文字が踊る日々。We Love India, 自国に誇りを持とう、インドを愛そう、の文字がときに押し付けがましいほどで、まるで繁栄ばかりの様相だ。
しかし貧富の差はよりいっそう、広がっている。道で物を乞う子供はまだまだたくさんいる。
いつまでも、恩恵にあずからない人々がいることを、踊りに夢中の人々は忘れてはならないと思う。
*Poised (準備は整った、落ち着いた、態勢が整った)