バンガロール在住の友人、ユウコさんから先日、メールが届いた。それは、バンガロール在住の日本人女性グループ「さくら会」のメンバー全員に宛てられた、福祉ヴォランティア募集のおしらせだった。
OWC (Overseas Women's Club)のチャリティ活動に参加し、バンガロールにおける福祉活動の必要性を認識した彼女は、特別養護施設で折り紙を教えるグループの発足を考えているとのこと。
彼女の行動力、そして主旨に感銘を受けたので、ぜひともメンバーになりたいと思ったが、なにしろここしばらくは立て込んでいるので、少し時間に余裕ができてから、きちんと参加させていただきたいと思っていた。しかし、案内などは送ってほしいと頼んでおいた。
幸いにも十数名の賛同者があった模様で、第一回の学校訪問を控えた打ち合わせも終えたとの報告メールが届いた。
そして、その第一回目の訪問が、今日だった。実際に学校で過ごす時間は1時間余とはいえ、行き来の時間や前後の打ち合わせなどを含めれば、軽く半日はかかってしまう。
それでなくても新居関係でこまごまとした雑事が生まれ、思うように仕事が捗らない日々。ヴォランティアは、ひとまず時間的にも精神的にも余裕ができてから、と思っていたのだが、どうしても昨日の夜から気になって仕方ない。
朝、コンピュータに向かっていても、気になる。月に1回か2回だけのこと。赤福やらかすてらやらを食べてお茶している時間があるのなら、ちょろっと出かける時間も作れるだろう。あれこれと理由を付けていては、機会を逸するばかりなのではないか?
やっぱり、行こう。
パタン、とラップトップの蓋を閉じ、急いで着替えて顔を作り、「かぶと」用の新聞紙をバッグに入れて、家を出たのだった。
ちょっと張り切りすぎたようで、待ち合わせのLeela Palaceには30分前に到着してしまった。ショッピングモールを少々散策したあと、再び集合場所へ。本日は十数名のマダムが参加だ。
マダムの中には手話ができる人も何人かいて、早速、MIHOの指文字を教えてもらう。自己紹介くらいはできないとね。
その聾唖学校はLeelaの目と鼻の先にあった。SKIDという組織が運営している。バンガロールには、聾唖学校の数が多いらしい。
これは聞いた話なので、確証はないが、なんでもここカルナータカ州は近親婚が多いらしく、それが原因で聾唖障害を持つ人が多いというのだ。
さて、我々が今日教えるのはミドルスクールの生徒たち。聾唖障害のほかは、普通の生活ができる子供たちがほとんどだという。最初は20名ほど、ということだったらしいが、生徒たちは軽く30名以上はいる。いくつかの班にわかれ、それぞれ2、3人ずつのマダムが担当する。
本日の課題は、簡単な「コップ」それから「かぶと」に「金魚」。
日本人以外の人々は、特に欧米人は、大人ですら、なじみのない折り紙が下手である。角と角を揃えるのに一苦労、というのが普通だ。だいたい米国では、手紙を封筒にいれるときにしても、きちんとバランスよく折り畳もうと言う心意気がない。端と端をそろえることなく、いい加減な比率で折り曲げる。
ところが、ここの子供たちは、非常に飲み込みがよく、「角の処理」が的確だ。だからといって、インド人が全般的に器用とは言わない。なにしろマイハニーは、タオルを畳むにも、角と角を揃えられないからね。米国時代、何度か教育を試みたが、遂には匙を投げた経緯がある。器用そうな家政夫モハンですら、タオル畳みは下手だからね。
多分、この子たちが優秀なんだろう。
思えばミドルスクール。中学生。子供といっても、半ば大人。生意気盛りのお年頃。なのに、「これはコップで〜す」とか、「ここを切るとバッグになるよ〜」とか「金魚〜」とか言いながら教えるわたしたちに、白けもせず、一生懸命楽しげに作ってくれるあたり、むしろ目頭が熱くなる。
子供たちの優しさと懸命さに目頭が熱くなっているところに水をさしてくれるのが先生。恰幅のいいおばちゃんな先生が、生徒たちに向かって「ほら、あんた、そこ間違ってるよ!」といちいち横やりを入れて来る。しかも、間違ってないのに。たとえ間違っていても、そんな、指摘せんでもいいのに。
「この子は、聾唖だけじゃなくて、他にも障害があるから、物わかりが悪いのよ」
と、とある男の子を指差して、敢えて教えてくれるのだが、その子は上手に折っている。遊びの延長なのだから、気軽にやってくれて構わないのだが……。
金魚の目を書く段になって、先生、ダイナマイト発言。
「みんな、インド人の目を書いてね。チャイニーズはだめよ!」
と言いながら、片目の目尻を指先でつり上げてみせる。おい! なんなんだその物議を醸す仕草は! だいたいわたしたちはチャイニーズじゃなくて、ジャパニーズだぞ。そこんところも、どうやらわかっていないらしい。コリアンとジャパニーズの違いも、よくわかっていないようだ。
困った先生にも折り紙を与え、折るように指示する。するとまあ、先生の折り方の、下手くそなこと。
「先生、へたくそすぎ! ちゃんと折って!」
と、ここぞとばかりに突っ込みを入れる。先生、ワハハと笑っている。笑っている場合じゃないぞ!
子供と呼ぶには成長しすぎた、鼻髭までたくわえた、まるで「おっさん?」な、少年たちも。女の子たちは小柄でかわいいのだけれど。ところで、上の大きな写真の少年は、非常に独創的で、独自の作品を作り上げていた。そして、かなり得意げだった。
あっという間に1時間が過ぎて、とても楽しいひとときであった。彼らは音のない世界に生きているのだから、声を張り上げて説明することはないのだが、そして声を張り上げずとも彼らは速やかに習得していたのだが、気がついたら少々、喉が痛かった。
学校を引き上げたあと、BARISTA CAFEで反省会。というか、おしゃべりのひととき。
指文字や手話について、これまで知らなかった世界の断片を教えてもらい、ほほうと、感嘆することが多かった。それにしても驚いたのは、欧州だか米国だかが定めている手話では、日本人を表現するときに、件の先生のように、指先で目尻を引っ張り上げる仕草をするのだとか!
そりゃあ、あんまりやろう! 確かに日本人の目は、あなた方に比べれば細いですよ。でも、だからって、ねえ。
思うところいろいろあり、書きたいことも募るが、尽きないので、今日のところは軽くこのへんにしておく。
今後もできる限り、このような活動には参加して行きたいと思う。
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バンガロールさくら会の方で、ユウコさんからのメールが届いていない方があるとのこと。ヴォランティアは随時参加可能で、気軽に参加してほしいとのことです。英語力などはもちろん関係ありませんので、どうぞお問い合わせくださいとのことでした。ユウコさんの連絡先がわからない方は、わたし宛にメールをお送りください。転送します。
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