なんだかんだといいながら、わたしはなんと、内助の功な妻だろうか。と、自画自賛するカリフォルニアの空の下。
それにしても青い。カリフォルニアの空というのはどうしてこんなにも青いだろう。風は冷たいが日差しは暖かく、複雑な天候ではある。ジャケットを着なければならないようでもあるし、TシャツでもOKのような気さえする。
さて、何が内助の功かと言えば、わずか一週間ばかりの限りある米国滞在にも関わらず、今日の我は夫をアテンドする、まさに執事兼ドライヴァーだったのである。前日の記録にも残している通り、朝は5時半起床。二人とも運転は一年ぶり。で、どちらが最初に運転するかといえば、もちろん、わたしである。
自分の身は、自分で守りたいからね。
時差ぼけかつ早朝起床の寝ぼけ眼を吹き飛ばしつつ、少々緊張しながらステアリングを握る。
しばらくは「のろのろ運転」で身体を慣らす。
と、あからさまに後続車からホーン。ここはインドかい!
街を出て、ハイウェイ101に乗り、南へ走る。なんと速やかな走り心地だろう。
この、数ある「車線」のうちの1本でいいから、くるくるっと巻いてバンガロールに持ち帰り、パ〜ンと広げたいと思う。
目的地のPalo Altoに到着後は、最寄りのカフェにて夫の打ち合わせが終わるのを待ちつつ、ブログなどを書いたのだった。
打ち合わせは好調であったようで、夫、笑顔でご帰還。
なにしろ同じ街なので、中途半端に遠出ができない。
まずは、ベイエリア在住の方のブログを通して知ったELIZBETH GAMBLE GARDENへと赴いた。
赴くと言っても最初の打ち合わせ場所から車で数分という至近距離である。
この庭園が、本当にのどかですてきだった。
ワシントンDC時代のご近所の、ビショップスガーデンやダンバートン・オークスを彷彿とさせられるやさしげな場所。
久しぶりに大輪のバラの花を愛で、その甘酸っぱく香しい匂いと新芽の爽やかな匂いとを吸い込み、体内が洗われるようだ。
ポピーやキンギョソウやラナンキュラスも色とりどりで、見ているだけで、心が和む。
それにしても、なんと生き生きとした葉や花びらだろう。艶やかな花びらを、そっと触れてみるだけで、指先から美しい力が身体全体に取り込まれるような気分だ。
バンガロールの我が家の庭も、もっと花を植えたいと思う。
夫もまた、仕事に思いを巡らせているのか、花を見るともなしに、てくてくと、庭園を歩いている。
バンガロールへ移って以来、二人で散歩に出かけることは少なくなったが、マンハッタン時代はセントラルパークを、ワシントンDC時代は前述の公園やご近所を、よく二人で散歩したものだ。
進みゆき、移り変わることによって、得るもの、失うものについて、思いを馳せる。
それでも、少しでも、得るものの方が多いと感じることができれば、それはきっと「うまくやっている」ということであろう。
多分わたしたちは、「プラスマイナス若干プラス」で、うまくやっている。
庭園をあとにして、今度はスタンフォードショッピングセンターへ。ここでヨセミテ散策のためのスニーカーや、インドでは入手できないお気に入りのLucky Brand Jeans(1種類だけ、非常に履き心地がよく自分の体型に合うジーンズがあるのだ。ちなみに "Sweet N Low")、その他、やはり「履き心地のよい」サンダルを数足購入する。
インドには、お洒落なサンダルは米国よりもたくさんある。加えて最近ではClarkなど「健康によい」靴の専門店も見られるようになったが、米国の品揃えにはかなわない。
なにしろ我が日常の行動範囲は、コマーシャルストリートや市場その他、インド市井の足場の悪いところばかりだ。加えて腰痛気味なわたしは、長く歩いても足腰に負担のかからない、しかし格好悪すぎないサンダルが必要なのである。
そんな要望をかなえてくれるサンダルを、数足見つけることができた。お洒落なデザインだが、底がNikeのAirになっているものも数種類ある。
それにしても、このショッピングセンターもまた、いつ訪れても花々が美しい。
ランチを食べ、お茶を飲み、しかし打ち合わせの始まる4時までにはまだ2時間ほどある。疲れてきた。夫は車内で仮眠するという。わたしまで寝てしまうと、二人して寝過ごすことも考えられるため、わたしはただ、ふらふらとショッピングモールを歩く。
その後、ショッピングモールから目と鼻の先の、Menlo Park (メンロパーク)という町の、Sand Hill Road(サンド・ヒルロード)へ。夫曰く、この通り沿いには、カリフォルニアの主要ヴェンチャーキャピタル・ファーム(会社)の約9割が存在しているという。
夫がDC時代に勤務して会社のカリフォルニアオフィスもまた、ここにある。
と、ここまで書くと、ウォールストリートの高層ビル街のような光景をイメージされてしまいそうだが、さにあらず。
初めてここを訪れたときには、驚いたものだ。
「オフィスは、どこにあるの?」
というような、なにしろ呑気な通りなのだ。
オフィスの低層ビルは、道路の左右のやや低い場所に、ぽつぽつと、存在しているのだ。
またしても、夫の打ち合わせを待つ間、車内にて、どっか会社のネットワークを利用しつつネットで新聞を読んでみたりする。そのうち眠くなり、車内で小一時間ほど寝る。
わたしはインドのドライヴァーかい。と思いつつ、シートを倒して、寝る。
ようやく2時間半ののち、夫が戻って来た。すでに時計は6時半をさしている。
「ちょっと早いけど、夕食食べてからサンフランシスコに戻らない?」
「そうしよう」
「アルヴィンドは何が食べたい?」
「ん〜。寿司」
こういうとき、食の嗜好が一致する夫でよかったと、心底思う。そもそも諍いの絶えない我々の、もしも食の嗜好が著しく異なっていたら、多分結婚するに至ってなかったんじゃないかとすら思う。いやほんとに折に触れて書いていることだが。
そんなわけで、在ベイエリア時に一度だけ赴いた、マウンテンヴューにある評判の寿司店「豊味寿司」へと車を走らせる。
実はインドではお腹を壊すことなどほとんどないわたしなのだが、そして美しくない話題で恐縮だが、本日、少々「下り気味」なのである。そして夫もまた足並みを揃えるように、下り気味らしい。
にも関わらず、「寿司」。もう、お腹を壊したっていい! の勢いで「寿司」である。だって、ヨセミテに行ったら、もう、寿司を食する機会がないもの。そうしてインドに戻ったら、しばらくおいしい寿司はお預けだもの。
そんなわけで、食べた。
今日は、本当に食べた。
天ぷらの盛り合わせ(前菜)にはじまり、牛タン、炙りトロ、大根サラダにカンパチのカマ、寿司はハマチ、カンパチ、甘エビ、イクラにウニ、サーモン。
インド在住の日本人のみなさん、ごめんなさいね〜。というくらいに、食べた。
おいしかった〜。
運転せねばならないからと、日本酒をほんの少し口にしただけだったが、すっかり満腹で眠くなり、帰りの運転が辛かった。時に大声で歌い、時に自分にビンタを張りながら、ステアリングを握る妻。
夫は香港本社からの電話で打ち合わせ。
休みなんだか仕事なんだかわからない、奇妙な一日である。
が、夫はご機嫌である。
「今日はぼくたち、がんばったよね。車で寝たりしてさ〜。いいチームワークだったよね〜」
車内仮眠する自分たちが、夫はなにやら、楽しかったようである。
よくわからんが、幸せそうなので、それはそれはそれでいいのだろう。
いい、チームワークだったのだろう。
いい、一日だったのだろう。