●いつかは、ここで買わずとも。激変するインドのリテール(小売り)事情
このところ、幾度か記した通り、インドのリテール事情が変貌中である。スーパーマーケットやグローサリーストアが、まるで雨後のタケノコのように、次々に誕生している。
タケノコと言えば、ラッセルマーケットに今、タケノコが出ているという(スジャータ談)。近々買いに行こう。
ところで昨日は、やや近所の魚屋へ行った。インドの魚屋は、汚い。できれば一人で行きたかったのだが、母がついてくるという。汚いし、足場は悪いし、道路横断なんかも危ないよ。というのだが、見てみたいという。
元気のない魚に、元気のいいハエらがたかっている。魚の数は少ない。
マグロと、ポムフレットと、サバのようなアジのような魚を買った。
母が、無口であった。やはり、連れてくるのではなかったと思う。
やっぱり、早朝のラッセルマーケットが一番だ。と、今はそう思っているが、あと数年のうちに、きれいな肉屋や魚屋が登場するだろう。
ラッセルマーケットへ行かなくてもいい日が、きっと近い将来、訪れるだろう。それは果たして、便利でうれしいことなのだろうか?
改装するより、新しいものを作る方が、遥かに手早いのだろう。その結果、日本の都市の町並みのような、醜い姿になるのだろう。
自分勝手な看板や自販機やなんだかんだが溢れてしまい。
たとえ清潔でも、機能的でも、少しも美しくない。
ただ、うるさくて煩雑な様子。
* * *
旅するたび、大きな街であれ、小さな街であれ、その街の市場、マーケット、マルシェ、メルカード、メルカート、菜場を訪れてきた。
人々があふれかえるそこには、その土地その土地の日常生活が、キッチンの様子が、食卓の様子が垣間見える。
台北の西門市場の裸電球に照らされた鶏肉や豚の頭。
バルセロナのランブラス通りのメルカードの真っ赤に熟した力強い苺。
パリのマルシェの、オレンジやリンゴやアボカドの山。
ワイマールの市庁舎前の冷たい風とチーズ売りオリーヴの緑と黒。
バリ島のウブドゥの魚と南国果実と野菜のむせるような匂い。
メキシコのオアハカのカボチャの花の黄色と太陽の色したトマト。
上海の三角地菜場の饅頭せいろから立ち上る湯気。
フランクフルトの石畳市場香ばしく焼けるソーセージと爪楊枝で味見するザワークラウト。
ヴェネツィアの迷った先の小さな広場で曇天のもとに色とりどりの花々。
カリフォルニアのサニーヴェールの澄み渡る青空とよく熟れたプラム、ネクタリン、ピーチ……
市場を思うだけで、その旅の、その土地の様子が記憶の底から鮮やかに浮かび上がって来る。どの街にもある、似たような顔をしたスーパーマーケットのことは、思い出すことが難しいけれど。
●木漏れ日の午後は、庭の表情が豊かになる。
一昨日の、のっぺりとした曇天の様子とは異なり、昨日は光がゆらゆらと落ちていた。写真では、動く光を捉えられないが、その断片を記録しておこう。
柔らかな新芽という存在のかわいらしさ。白い花だけが持ち得る気品。
何種類もの蝶が、この庭を訪れる。
そして、ときどき、羽を落として、死んでいる。
いろいろの昆虫たちが、この庭で生まれて、死んでいる。
3週間ほど不在だったカーミットが、ロータスの葉を新しく買い求めて浮かべた直後に、戻ってきた。とてもうるさい。あんな小さな身体で、よくもまあ、一晩中、大音響で叫んでいられるものだと感心する。
夕べは我が家で小さな集まり。1カ月の長旅から戻って来たばかりの義姉スジャータ&ラグヴァンと、その父のドクター・ヴァラダラジャン。それからホワイトフィールドに住んでいるユカコさんとビル。
今回はポットラックのディナー。わたしはポークのスペアリブに、母に下ごしらえを頼んでの、もやしサラダやポテトサラダ、ホウレンソウのソテーなどを準備。
ユカコさんはコロッケにカリフラワーのサラダ、エビ&ライスにポンテケージョ、そしてバナナローフを焼いて来てくれた。たっぷりのメニューに感激す。スジャータもグリーンピーの煮込み風とルバーブのケーキを持って来てくれた。
久々の再会を祝して乾杯し、しばらくはリヴィングルームでワインを飲みながら、スナックを食べながらおしゃべり。
わたしは途中で、ポークチョップを焼くために席を立つ。オーヴン不調のため、フライパン2つを駆使して、焦げ目を付けつつ、焼く。料理が出来たらダイニングルームに移動し、今日はテーブルについての夕食。8人の集いというのはまた、コンパクトでいい感じである。
どちらのケーキも、とてもおいしくて、お腹いっぱいだったはずなのにぺろりと食べてしまう。
ちなみにスジャータはラッセルマーケットでルバーブを調達したそうだ。
二人とも、米国のクックブックのレシピから作ったという。お店では手に入らない、おいしさだ。いっそ、我が家で「カフェ」でも開いて、コーヒーとスイーツを出したいくらいである。
わたしも、早いところ「まともなオーヴン」を調達したいものだ。故障してからかれこれ半年以上。新製品の登場を待っているのだが……。
さて、スジャータたちが一足先に帰った後は、ユカコさんとビルと4人で庭に出る。我が家を訪れた人はみな、この緑に囲まれた庭を楽しんでくれる。風のそよぎや、葉が擦れ合う音、柔らかな芝生、表情豊かな緑……。
「バンガロールにいることを忘れる」
と、人は異口同音に言ってくれる。でも、昔のバンガロールは、いたるところが、こういう場所だったに違いない。
それにしても、星を仰ぐ宵の庭は格別だ。
ところで近々、バーベキュー設備を整えようと思う。ユカコさん曰く、マーサ・スチューワートの庭にあるレンガ造りのバーベキュースタンドがとてもすてきなのだとか。やっぱり、マーサか。またレンガを調達して、バーベキュースタンドを自作することになるのだろうか。
ぼちぼち、やろうと思う。