今日は、「ピンポ〜ン」の数も少なく、夫が出社したあとは、静かな一日。久しぶりに「中断されることなく」仕事に専心できた。
母がインドへ来て1カ月。少々遊び疲れが出たのか、今日は本を読んだり横になったりしている。従っては、より一層、静かである。
地元の新聞が、バンガロールの、排ガスや建築ラッシュによる空気汚染のひどさを伝えている。外と内の著しい格差。書斎の窓辺からは、無数の木の葉を揺らしながらのPeoples Treeと、それに絡み付いて空を目指すブーゲンビリアの鮮やかなピンク。
オレンジ色の長い尾を持つ大きな鳥が、わたしの裏庭を気に入ったようで、毎日遊びにくるようになった。舞い飛ぶ蝶の数も、心なしか増えた気がする。
一日外に出ないと、夜の動きから隔絶されたような心持ちにさえなる。
しかし視界の片隅には、現在建築中の白い高層アパートメントビルディング。今日もかすかに、槌音が響いて来る。
夕暮れ時、「ピンポ〜ン」と鳴る。3階のニヴェディタが仕事帰りに。8月にはパリへ引っ越す彼女とその夫アルヴィンド。観葉植物の土が余っているから要らないか? とのこと。ちょうど欲しいと思っていたところ。早速取りにおじゃました。
彼女たちの家は、わたしたちと同じ位置のちょうど3階。バルコニーから、わたしたちが見上げている樹々が、水平に見渡せる。遥かMGロードの、唯一の高層ビルも見える。
わたしが見上げているブーゲンビリアもまた、手が届きそうな場所に。ここはここでまた、すばらしい眺めだ。我が家の庭も、見渡せる。
絵画を描くことが趣味の彼女の、壁にかけられた油彩や水彩の作品を見せてもらいながら、「わたしも黄色が好きなのよ」といいながら、お茶をいれてもらい、緑を眺めながら、日暮れどきのおしゃべり。
ご近所さんとこうやって、なんの約束もなく、ただふらりと会ってお茶を飲む、なんてことは、今までの人生に一度もなかったことだったと、なんだかおかしな感覚だ。1時間以上も、仕事や家族や、今のインドのことなどを語り合う。
薄暮の7時すぎとなり、家に戻り、夕飯の支度をする。タマネギのみじん切りで涙を流しつつ、グラスに赤ワインを注いで飲みながら、バターとオリーヴオイルとタマネギが混ざり合うおいしい香りに包まれたキッチンで。
鍋で炊く米の、ガラス蓋から見えるふつふつと炊きあがる様子の。野菜やひき肉を炒めるときの、油と水がはじき合う溌剌とした音と。
やがては今日最後の「ピンポ〜ン」が鳴り、夫の「ただいま〜」の声。