相変わらず、気候がいい。涼しく快適な気候ゆえ、今がどの季節に属しているのか、わからなくなる。それもまた、茫漠と時間を流しているような錯覚に陥る原因だろう。
母は相変わらず元気で、弾けがちである。今朝もアーユルヴェーダのトリートメントへ連れて行った。写真は、Grand Ashokの裏庭の、木にとまった小鳥だ。
さて、母とアルヴィンドのコミュニケーションの間に立つことに疲れたので、このごろは好きにやってもらっている。お互いに、もうちょっと相手の言語を学んで欲しいところだが、双方、まったくやる気がない。
母は、日本語を英語風に発音して、「通じ合っている」という錯覚に陥っているし。だからそれは、日本語なんだってば。通じてないんだってば。
一方のアルヴィンドはといえば、どうでもいい日本語ばかり覚える。
「ホウレンソウノゴマアエ」とか、「ハマチカマ」とか、「アゲダシドーフ」とか、「トロ」とか「アマエビ」とか、相変わらずの日本料理店メニュー用語が主流。
たまに、わたしの口癖であるところの、
「モ〜! ヤメテ〜!!」
とか、
「イイカゲンニシナサイ!」
とか、
「モ〜! ホントニ!!」
など。
夫婦関係の危うさがうかがえる会話ではある。もっとスイートな日本語を叩き込む必要があろう。
それはそうと、母が長々といても、まったく意に介する様子なく、マイペースで暮らしている夫はなかなかにスイートである。
インドにも売っていた。
スペイン産のグレープシードオイル。
なんでもコレステローロが高い人に好ましいヘルシーなオイルらしい。
わたしは正常だが、夫は家族性高脂血症(遺伝的なもの)につき、薬を常用している。
食べ物には全く問題ないのだが(我が家は極めてヘルシーな食卓)、この十年来、薬を欠くと異常にコレステロール値があがるのである。
そんなわけで、小さなところからこつこつと、グレープシードオイルを試してみようと思う。
●ラジオ取材:来週の月曜から金曜の朝
文章を力一杯書く人の中には、その情熱とは裏腹に、おしゃべり控えめな人も少なくない。が、わたしの場合、書くし、しゃべる。多分、文章と人物像の間の隔たりは、さほどないと思われる。
「片隅の風景」的な散文に関しては、少々違和感があると思われている節もあるが。
人と一緒のときは、かなり話す。が、一人のときは、無口だ。あたりまえか。
たとえば今のように、母が常時家にいるときなどは、主には「一人のとき」と判断して、基本的に無口である。
そんなことはさておき、今回、RKB(福岡地方)のラジオの取材を受けた。昨日がその「収録」であった。これまでも別の局からの依頼が何度かあったが、予定やコンセプトがあわなかったことがあり、お受けしなかった。
今回が、初めてである。
1回の放送が7分程度。それをまとめて5回分。
いい経験だった。
たくさんある言いたいことを、質問に応じて限られた時間内でまとめることの難しさ。日頃いかにいい加減にしゃべりまくっているかを、認識した。
「ここのところ、もっとしゃべりたい! でもしゃべりはじめたら、10分は軽く超える!」
というな状況が何度もあり、自分としては、不完全燃焼である。が、それはそれとして。
福岡地方にお住まいの方、来週の朝は、わたくしの爽やかな声で、一日を始めてください。
●地図が読める女と地図が読めない男
わたしは、「地図が好き」な方である。訪れた土地の地図を眺めれば、過去の自分が眺めたその土地土地の光景が蘇り、それは非常に感慨深いものである。
従っては、当然ながら、地図が読める。
一方、アルヴィンドは読めない。そのことで、米国時代、どれだけトラブルが発生したことか。
ニューヨーク時代は、二人でよく欧州をドライヴ旅行した。当時夫は運転免許証を持っていなかったので(インドで「コネにて発行された」免許証は持っていたが、運転したことはなかった)、わたしがもっぱらドライヴァーであった。
わたしは主には訪れたことのあった街ばかりだったが、運転するのは初めてだ。地図を見ながら運転するわけにもいかず、ナヴィゲーションは彼に任せるのだが、任せられんことやまのごとし。
たとえばベルギーのアントワープ。円環になっている街をぐるぐるとまわるばかりで中に入れず、同じところを行ったり来たりで、いったいどれほど彷徨ったか。
たとえばスペインのアンダルシアのどこか(一日一過去の[39]参照)。地図に見つけられない偏狭な場所で、言葉も通じず、トイレに行きたい、お腹はすいた、どれほど彷徨ったか。
彼がワシントンDCの郊外で働き始めて、運転免許証を取得し、車を購入し、運転に慣れるまで、どれほど死ぬ目に遭ったか。我ながら、チャレンジャーな日々を送っていたものである。詳細を綴りたいが尽きぬ。
本当に、二人でいろいろな苦境を乗り越えたものである。
チャレンジャーといえば、「一日一過去」の47は、ニュージーランドでバンジージャンプをやっている我。我ながら、よくやるものである。この一日一過去。まだまだ写真はたっぷりとあり、過去の記録をとどめておきたいと思うのだが、毎度「現在」だけでもあふれるほど。
最早「老後の作業」として取っておくべきか。
また話が横道にそれたが、地図の読めない男。というか、人々。それはマイハニーでだけではなかったことに、インドに来て、気がついた。わたしが接したところのインドの人々。大半が、地図を「苦手とする」もしくは「読めない」のである。ホテルのフロント、ドライヴァーなど、まったくもって、だめである。
土地感覚を「雰囲気」で掴んでいる人が、なんと多いことか。
これまで一時的なドライヴァーを含め、各都市で20名以上とは接して来たと思うが、頭の中に「縮尺の正しい地図」を描いて移動している人は、ほとんどいないと察せられた。みな、独自の距離感と土地勘で、走るのである。
ところで現在、我が家のラヴィは来月の結婚を控え、忙しい。しょっちゅう、故郷のケララへ帰るため、代替ドライヴァーがやってくるのだが、もうそのたびに、「振り出しに戻る」が繰り返されて、たまらん。
今回は24歳の少年みたいな青年。バンガロール運転歴2年というが、とてもそうは思えん。
昨日の「片隅の風景」にも書いているが、先日はインディラナガールへ行くのに、近道といいながら、信じられないほど意味のない迂回をさせられた。たとえば正三角形の底辺A地点からC地点へ行きたかったのを、なぜかB地点経由でC地点に行くのである。
渋滞を回避しているなどの理由は、ない。しかも、B地点からC地点に至る道は、「未舗装路」で、乗り心地劣悪。最早、「いやがらせ」としか思えんルートの選択である。
我が家はタクシー会社との契約(まだ車を買っていない。無駄をしていると思う)で、月ごとに一定額を支払っているためガソリン代も込みであるが、これがガソリン代も自分で管理しているとなると、よりいっそうの腹立たしさを味わえることだろう。
それはそうと、本日発見したところのインディラナガールにあるM.K. RETAILというスーパーマーケットは結構役立つ。
食品以外に、ちょっとした食器や調理器具、家電、電球や工具などが売っていて、まさにコンビニエンスストア的でもあるのだ。
上の写真がそれだ。
バンガロールが本当に、便利になっていく。
さて、今日も今日で、母をホテルに連れて行くのに、信じられない迂回をしてくれた。途中で車を停めさせて地図を見せようかと思ったが、それもそれで時間の無駄なので、ホテルで車を降りるときに地図を彼に渡し、
「バンガロールの地理を勉強しなさい」
と言っておいたが、しているはずは、ないだろう。きっとわたしは胡散臭がられているだろう。
帰りは帰りで、またしてもユニークなルート選びである。
「○○通り経由で北上してよね」
「ノープロブレム」
と言いながら、全然違う道を行くのは、なぜ?
願望により道路が伸縮され、点と点が結びつけられ、ぐにゃぐにゃとデフォルメされた、彼ら独自の地図が、存在するのに違いない。
「モ〜! ホントニ!」
と、言わずには、いられないのである。