夕べ、ムンバイ出張から戻って来た夫。このごろは、夜のフライトが毎度1時間、2時間と遅れ、実にお疲れさまである。
さて、本日土曜日。今日も今日とて二人とも仕事だが、夕方からはスパに予約を入れた。わたしは毎度おなじみ、GRAND ASHOKのREJUVE。今日はオイルマッサージとフェイシャルを。一方の夫は、カニンガムロード沿いのSPA.CE。ヘアカットとマッサージ。
方向が同じなので、一緒に車で出かけ、終わって合流する。
久しぶりに、二人で夕食に出かけることにする。「しょっちゅう二人で出かけてない?」と思われるかもしれないが、朝昼晩、3カ月にわたって母も一緒である。やっぱり、ときには夫婦水入らずも必要なのである。
行き先は、一昨日行ったばかりの南京酒家。やっぱりハニーにも、一度食べておいてもらいたいと思ったのだ。日本の中華が、こてこて日本的に進化していると同様、インドのチャイニーズはインド的に進化し、つまりは「煮込まれ過ぎている」ものが多い。
従って、インドでチャイニーズは数えるほどしか食べに行ったことがないのだが、わずか二日後に「もう一度食べたいかも」と思えるということは、やっぱりこの店、おいしいんだと思う。
さて、メニューから、前回食べておいしかったものを選ぶ。夫にも、同じスタートラインに立ってもらった方がいいからね。しかるに、エビのすり身のサトウキビスティック、チンゲンサイの炒め物、魚のクレイポット。
やっぱり、おいしかった。アルヴィンドも、予想以上においしいと喜んでいた。
帰り際、店頭にいたオーナーらしき国籍不明な風貌の巨漢のおじさんと立ち話。
夫「料理、おいしかったです。ここはいい店ですね。どこかのチェーンなのですか?」
店主「ありがとう。ここはチェーンじゃないが、ムンバイに、俺の親父がやってる店があるんだ。そこは、本当に人気でねえ。週末ともなると、いつも予約でいっぱいなんだが、ここはだめだ。やっぱり、ショッピングモールってのが、まずかったなあ」
妻「ひょっとして、そのムンバイの店って、LING'S PAVILLIONじゃありません?」
店主「おう、よくわかりましたね。そうですよ」
妻「TAJ MAHAL HOTELの裏にありますよね。わたしたち、何度か行ったんですよ。あの店の料理もおいしかった。こことメニューがどこか似ているし、ご飯を出している器も、同じでしょ? ところで、あなたのご出身はどちらです?」
店主「俺の親父は、1939年に上海からインドに来たんだ。ムンバイでおふくろと知り合ってね。おふくろはマンガロールの出身。俺はムンバイで生まれたんだ」
夫「ムンバイと、バンガロールじゃ、違うでしょうね。商売のやり方が」
店主「君たちはどこから来たの? アメリカ。それじゃあ、バンガロール、きついでしょ。ここは、商売がやりにくいったりゃありゃしないよ。店を始めるのに問題ばかり。内装工事も進みやぁしない。ま〜だ、やり残しがあるんだよ。どいつもこいつも、人をだまそうとしてさ。俺はもう、すっかりくたびれちゃってるところなんだ」
妻「確かに、ムンバイに比べたら商売はやりにくいでしょうけれど、バンガロールには他にいいチャイニーズはあまりないし、わたしたちとしては、この店がオープンしてとてもうれしいし、他にも喜んでくれる人はいると思いますよ」
店主「確かになあ、本物のチャイニーズをわかってる人に食べてもらう分にゃいいんだが、まだまだ少ないんだよ。駐在員やNRIってったって、人数、限られてるでしょ? 地元の人間に出してみなよ。新鮮な野菜をざっと炒めた料理なんて、これ生です、とか火が通ってません、な〜んて言われちゃうんだから。まいっちゃうよ」
妻「ああ、そうですね〜。インド料理はじっくり煮込むから、素材が柔らかくなってないと調理されていないと思う人もいるんでしょうね」
店主「いるもなにも、大半がそうだよ。魚介類だって、新鮮なものをムンバイの魚市場から空輸してるんだ。イキのいいのをね。ちょっと待って、今、持って来させるから。(内線をかけつつ)おい、ちょっとカニ一匹、持って来てくれ」
妻「わあ! 大きいカニですね! しかもイキがいい!」
夫「ほんと、大きいね! この次はぜひ、このカニの料理を試しますよ!」
店主「俺はね、東京にも行ったことがあるよ。東京の魚市場を見て、魚の値段の高さに驚いたよ。確かに東京の方がぐ〜んと魚の種類も豊富だけど、ここでも結構おいしいものが食べられるんだ。このカニは、グジャラティで穫れたものを、ムンバイ経由でここまで持って来てるんだけどね。確かにうちは、値段はちょっとは高いかもしれんが、素材は間違いないし、良心的な値段だと自負してるよ。だけどなあ、なにしろ、根気がいるなあ」
妻「ぜひとも、このまま、味を変えないでくださいね」
店主「もちろんさ。絶対に変えないさ。味を変えるくらいなら、俺は店を閉じるよ。でもねえ、まだここに来て3、4カ月だけど、実際、うんざりしているんだ。なかなかうまくいかなくてさ。今、デリーのディフェンスコロニーに店舗が借りられそうだから、そっちに店を出そうかと思ってるんだよ」
妻「ちょっとまだ待ってくださいよ。ここは閉めないでくださいよね」
店主「そうだよな。しかしまあ、モールの中ってのは、失敗だったな」
妻「それはそうかもしれませんね。ちょっと安っぽいイメージがありますからね。でもそれも、口コミと宣伝次第でしょ?」
店主「10月あたりに点心をはじめようかと思ってるんだ。中国からシェフを呼び寄せてね。ま、うまくいくといいんだがね」
夫「点心は、楽しみだな! ぜひやってくださいよ」
妻「友人たちにも勧めておきますよ。まだ、撤退しないでくださいよね! それじゃ、この店の健闘を祈ります。また来ますからね!」
そんなわけで、店主であるところのMR. BABA LINGは、海外からの駐在員並みにカルチャーショックを受け、ちょっぴり、いやかなり気落ちしているのだった。インドは広いからね。業種にもよるけれど、ビジネスセンスで言えば、ムンバイの方が遥かに洗練されているからね。
ちなみにBABA氏の中国名は、「林森典(典は草冠つき)」である。なにかと「木」の多いお名前である。
カニンガムロード沿い、シグマモール2階の南京酒家 NANKING CHINESE RESTAURANT。舌の肥えた日本の方々のお口に合うかどうかは保証できぬが、一度、お試しになってはいかがだろう。
チャイニーズの夕食の後は、フードコートに行き、やはり一昨日と同様、ジェラートを食べて、帰宅したのだった。まさに、デジャヴな夜であった。
いい夜だった。
……がんばれ、ババ・リン!