土曜の夜、義姉スジャータ&ラグヴァンと4人で、カニンガムロード沿いにあるシグマモールの南京酒店(ババ・リンの店)で夕食をとることにした。このごろは互いの家を行き来することが多かったので、4人での外食は久しぶり。この店に4人が揃ってくるのも初めてだ。
スジャータたちは数週間おきに来ているとかで、すっかり「常連」である。無論、わたしたちも何度か訪れていて、すでに店の人たちからは顔を覚えられている。
4人が家族だと知った顔なじみの中国系のウエイターは、いつもより以上に歓待してくれる。
この店が入っているシグマモールには、つい先日、最上階に映画館がオープンした。そのせいか、モール全体が非常に賑わっている。この店も繁盛しているに違いないと思ったが……話はそう簡単ではないようだ。
すでにスジャータたちがウエイターらから聞いたところによると、映画の時間に間に合わせるため、早く料理を準備しろと急かす人が多いのだという。
加えて、上映されている映画がつまらないと、「八つ当たり」されるらしい。
現在、ここで上映されているのは、わたしも近々見ようと思っている、シャールク・カーン主演の "Om Shanti Om"、それから "Saawariya"というボリウッド映画。他にもやっているかもしれないが、その2本が注目を集めている。
"Om Shanti Om"はさておき、"Saawariya"の評判が、至極悪いらしい。
インド庶民にとって映画は一大エンターテインメント。家族そろって出かける娯楽の筆頭である。週末、おじいちゃん、おばあちゃんに、おとうさん、おかあさん、そして孫たちと三世代が一斉に、映画館へ向かう光景は珍しくない。
だからこそか、インドの映画は娯楽性の高いものが多い。踊って歌って、ハッピーエンド。皆がにこやかに映画館を立ち去るのが理想的だ。
ところが、"Saawariya"はそうではないらしい。幻想的で麗しいシーンが展開される広告には、「ぜひ見に行きたい」と思わせるほどの魅力があるのだが、まず、ハッピーエンドではないらしい。加えて、ストーリーがわかりにくく、なんだかよくわからないうちに映画が終わってしまうらしい。
つまりは、既存のボリウッド映画とはかなり毛色の違う「個性的な」映画のようなのだ。従っては、"Saawariya"を見終わった観客たちのご機嫌が、著しく悪いらしい。
「この間、君にあの映画こと聞いただろ? 君がよかった、って勧めたから見に行ったのに、散々だったぞ!」
と、詰め寄る客もいるという。以来、客から映画のことを聞かれても、「わかりません」と言うよう、ルールづけられたらしい。
映されている映画によって、店の売り上げばかりか、従業員の「精神状態」に影響がでるようである。気の毒というか、おかしいというか、なんというか……。
ところで、料理は相変わらずおいしかった。
4人だということで、主菜は大きめのレッドスナッパー(赤鯛)を丸ごと揚げてもらう。ガーリックとチリのさっぱりとしたソースが決め手だ。それから、ポークの煮込みに野菜入りの炊き込みご飯、チンゲンサイの炒め物。そうそう、いつものサトウキビスティックにエビ肉をくっつけて揚げた前菜も。
人数が多いと、いろいろな種類が食べられるのでいい。
ともかく大きなレッドスナッパーだったので、残りはお持ち帰りになるだろうと思っていたが、主にはアルヴィンドが張り切って、きれいに食べ尽くしてしまった。おいしかった。
ところで、あの夜以来、ババ・リンを見ない。バンガロールに愛想を尽かして、デリーだかムンバイだかに、行ってしまったのだろうか。
飲茶を、始めてはくれないのだろうか。気長に待とうと思う。