今朝、どなたかRKBラジオを聴いてくださっただろうか。収録時、電話線を通してしかし、日本の空気は伝わってこない。ムンバイが、強烈すぎる。
インターネットを見れば、「鍋」とか「クリスマスツリー」といったキーワードが見える日本のニュース。しかし、ムンバイは、今日も暑い。年中飽きもせず暑い。日本とは、まるで異次元の世界である。
さて、昨日はユカコさんと「南ムンバイツアー」に繰り出したのだった。北ムンバイ在住の彼女は南を巡る機会があまりなく、わたしはといえば、立ち去る前にあちこち訪れておきたいところもあり、案内を兼ねてのツアーである。
まずはクロフフォードマーケット近くのテキスタイルショップへ。彼女もわたしも、粗い質感がいいロウシルクのマテリアルを色違いで購入した。
それぞれ、どんなデザインの、どんな洋服に仕上がるのか楽しみだ。
その後はクロフォードマーケットへ。相変わらずの喧噪の界隈を通り抜け、新鮮な野菜や果物からいくつかを選び、購入。
ところで右上の写真。一番上はうずら。一番下は七面鳥。サンクスギヴィングデーが間近の今、この七面鳥は食用か、と思いきや、どれもペットらしい。それにしても、紛らわしい。
うずらなど、こじゃれたフレンチにでも使えそうである。うずらといえば、映画『赤い薔薇ソースの伝説』を思い出す。ストーリーはさておき、料理のシーンが見事だった。あの映画、また見てみたいものだ。
その後、食べ比べの結果、わたしが最も気に入っているグジャラート・ターリーの店、SAMRATへ。ユカコさん、店内に入り、注文して、しかしまだ料理を食べていないうちから、においのよさを気に入って、
「わたし、またここに来ます!」
と宣言していた。いつもながら、料理はおいしい。甘みと辛みが濃厚な、独特の味わい。どうやって作るのかわからない感じがまた、魅惑的。
今度はビルとジェイクをつれて、ぜひ来てね。
食後は、サリー専門店が立ち並ぶ界隈へ。中でも豊富な品揃えを誇るKALA NIKETANへ。わたしもこの店に訪れるのは久しぶりのことで、久しぶりにその品数の多さに圧倒される思いだ。
サリー以外にも、洋服用のマテリアルも豊富。もっと早い時期に来て、ここで常々生地を買い、テイラーで仕立てればよかったと、今更ながら思いつつ、布の海に目が泳ぐ。
布を選び始めるときりがないので、今日は見学にとどめ、その後、オベロイ・ショッピングセンターへ。ここでもジュエリーや工芸品店をのぞき、最後にタージ・マハル・パレスへ。
スワロフスキーのクリスタルが鏤められた派手なサンダルを見たり、土産物に好適なインド高級雑貨店を覗いたり、ジュエリーショップであれこれと眺めたりしているうちにも、瞬く間に時間は過ぎる。
インド。ポイントを絞って巡れば、物欲を刺激するすてきなショッピングポイントがたくさんなのだ。なにしろ、インドらしいもの、質が高いもの、手作りの味わいがあるもの、しかしお手頃なもの……といった商品が多いのが魅力。
何が必要なのかをきちんと考えてのぞまなければ、あれこれと衝動買いしそうで危険である。それにしても、久しぶりにあちこちを一気に巡れて、とても充実したいい一日だった。
さて、本日。今朝は9時に家を出て、チャーチゲートとマリンラインの駅に向かう。今月の西日本新聞『激変するインド』の記事に添える写真の撮影が目的だ。
ムンバイの通勤電車の描写を織り込んだので、ドアから溢れ出て通勤している人たちの様子を撮影しようと思うのだが、これが写真にすると、今ひとつ迫力が伝わらない。
ホームで人の波に逆らいながら、ときにベンチの上に立ち、ときにホームの反対側から、ときに階段の上からと、二つの駅にて、あちこちのアングルから撮影してみたのだが、難しかった。
女性たちの衣服のカラフルさがきれいだったが、モノクロ写真なのでそのあたりが伝わらないのも残念。東京とは別の意味で、迫力満点なのだが……。東京とは別の意味で、体力&精神力を要するムンバイ通勤電車である。
ところで気になったのが、右上の写真。身体障害者専用車両というのはわかるが、それに加えてキャンサーの人(癌患者)専用の車両とも記されているのが興味深い。しかもそのマークがカニ。
カニ座を英語でキャンサーというが、がん患者とカニとの間に関係があるのだろうか。なにがなんだか、よくわからない。インドだもの。
さて、汗だくでの撮影を終え、帰路。うっかり昨日のKALA NIKETANの前を通りかかる。10時過ぎだから、まだ開いていないだろうと思いきや、開いていた。せっかくだから、じっくりとサリーを見て行こうと店内へ。
開店間際でまだスタッフも揃っておらず、もちろんお客もいない。静かな店内をゆっくりと見回しつつ歩く。こんな色の海の中から、自分の好みのサリーを的確に選び出せるインド人女性たちの審美眼には、本当に敬服する。
生まれたときから豊かな色に包まれているがゆえの、結果だろうか。富める女性も、貧しき女性も、その質は異なれど、華やかな色に対する積極的な姿勢はかわらない。自分に似合う好みの色柄を、きちんと把握している。
見事なものだと、つくづく思う。
この上の写真はサリー。今日見つけた中で、最も印象的だった一枚。サリーというよりは最早タペストリー。これ着てどこに行くよ。と突っ込まざるを得ない重厚感だ。
これはパルシー(ゾロアスター教徒)の伝統的なワークらしい。この店がデザインを発注し、グジャラート州の職人村で作られたものとのこと。1枚のサリーを、一人の職人が7〜8カ月かけて仕上げるのだという。
左下の写真がその拡大。透かしのようなシルクに、細かな刺繍が施されている。結構な質感だ。
「これは次の世代にも引き継げる逸品です」
とのこと。それはよくわかる。思えば以前、INDUSのサリー説明会で、パルシーの女性が祖母から受け継いだアンティークのテキスタイルを参考資料として持って来てくれていた。
この時の写真の、一番右下の赤い布がそれであった。
彼女曰く、本当はボーダーがきれいなサリーだったらしいが、祖母の背が低く、一部を大幅に切ってしまったとのこと。もったいないことよね、と笑いながら話していたのを思い出す。
質のいいサリーは、ジュエリー同様、祖母か母、母から娘へと引き継がれる家族の絆の象徴である。
右上のサリーも、パルシーの刺繍。色合いが微妙に難しいが、似合う人には似合うのだろう。
左上はミラーワークやビーズが施された「キラキラ系」。右上はバラナシ刺繍。買う買わないは別として、興味があるものを羽織ってみる。
店の人も、他にお客がいないので暇なのか、丁寧に対応してくれる。
都合10枚ほどをあれこれと試した結果、左の2枚が、自分に似合う気がした。
赤いサリーはパルシーもの。ボーダーの部分が手刺繍だ。
赤と黒はこの店オリジナルデザイン。
こうして見ると、なんだか変だが、着てみると妙に似合ったのだ。赤い方はさほど気負わずに着れる上品さがある。
どっちにしようか迷う。店の人は、「どちらも買えばいいじゃないですか」と常套句を投げかける。しかし、どちらも欲しいかといえば、いや、それほどでもないような気がする。最後のところで「ピン」とこない。
散々試した挙げ句ではあるが、
「やっぱり今日はやめておきます。あなた方が勧めるパルシーワークは、まるでタペストリーで、芸術が歩いているみたいだし、一方この2枚のサリーはちょっと、物足りないし。中間ぐらいの値段と華やかさのものがあればいいのだけれど」
そう言ったが早いが、お兄さん。
「じゃ、これはどうですか?」
と棚の下の方から取り出して見せてくれたそれがもう、ビンゴ!!
一目見た途端、試す前から購入即決。感動的なほど、わたし好みの色柄デザインである。こういう一枚に出合えるということは、まさに「一期一会」である。これを買わずにいられようか。いや、いられまい。
そもそも「洋服を買うこと」にさほど情熱がなかったわたしが、インドに来て以来、「お買い物好き。かも?」に変身しているところが、恐るべしインドである。なんのことやらである。
どういうサリーであったかは、また後日ということで、ともあれ、サリー世界は毎度、奥が深い。