青空澄み渡る土曜の午後。ここ数日、新メイドはチェンナイへプージャー(儀礼)に赴くとのことで、おやすみだ。従っては、朝のエクササイズ代わりの掃除を行う。
旧メイドのプレシラが放置していた隅々の汚れを、ここ数日は、こまめに掃除している。すっきりとする。
いったい彼女は、何をしていたのだろう。
とまたしても思うが、看過していたわたしも、何をしていたのだろう。という話だ。
ともあれ、家がよりきれいになった気がして気分がよい。こうなったら週に1度、いや月に一度、掃除専門の業者に来てもらい、あとは自分でやったほうが効率がいいようにさえ思える。
さて、一昨日は、毎年恒例の「シルクマーク・エキスポ」へと赴いた。当初はひとりで赴く予定だったが、思い立ち、ミューズ・クリエイションのメンバーにも声をかけた。
テキスタイルに関心のある5名ほどが集まり、場内を巡る。数年前に比べ、規模は縮小しているものの、それでも無数の布の海に、目が泳ぐ。
バンガロールで、ムンバイで、それはもう幾度となく訪れて来たこの手の展示会だが、毎度毎度、目が泳ぐ。
そのときどきで、自分が心ひかれる技術が異なるのにも、面白い。
あるときは、バンダーニと呼ばれる絞り。
あるときは、ゾロアスター教徒の伝統刺繍、パルシー刺繍。
あるときは、カシミールの刺繍。
あるときは、生成りの風合いが肌に心地よいタッサーシルク。
あるときは、バングラデシュはダッカの行商人から求めるモスリン。
あるときは、イカットと呼ばれるアッサムの絣(かすり)。
あるときは、博多織を思わせる、金糸銀糸が麗しいバナラシ・シルク……。
さて、今回、目にとまった数点の写真をいくつか載せておこうと思う。
なお、このブログでは過去に数回、このシルクマーク・エキスポの様子を記してきた。毎回、ヴォリュームたっぷりにつき、今回は比較的あっさりと残しておく。
■シルクマーク・エキスポ2011年の記録 (←Click!)
■シルクマーク・エキスポ2010年の記録 (←Click!)
毎年恒例、シルクマーク・エキスポならではの、「絹」について学ぶコーナー。今回も、蚕や繭、そして「蛾」の展示が見られた。
去年、サリーを購入した先のお兄さんが、わたしのことを覚えていて、声をかけてきた。
さて、今日のところは「細身で小柄な日本人女性にも着こなしやすい生地」を敢えてピックアップして、写真を撮ってみた。
同じシルクでも、シフォン、シフォン・ジョーゼット、クレープなど、透ける素材、柔らかな素材の方が、薄くて着こなしやすい。
約5メートルもの布を身体に巻き付けるわけだから、質感がありすぎると、細い人ほどウエストの前のプリーツの数が増え、即ち折り返しが団子状になってしまう。
派手! と思われるかもしれないが、これらは派手な部類には入らない。
サリー選びとは本当に難しく、しかし楽しいものである。自分の好きな色柄が、自分に似合うとは限らない。思いがけない色柄が、自分に似合うこともある。
また、布を見ているだけではピンとこないのだが、まとった途端に、布の魅力が引き立つものも少なくない。従っては、これは、と思うものは、とにかく身体にあててみることが大切だ。
今回「かわいい!」と思ったサリーの一つ。カラフルながらも派手すぎず、◎のデザインが愛らしい。チカンカリ手刺繍が素朴で味わい深い。
わたしには似合わなかったが、これは若い日本人女性に着こなしやすいと思われた。
写真をしみじみと見るに、かわいい……。
左上はヴィヴィッドな黄色と巨大ペイズリーが強いインパクトを放っている。強めだが、これも若い女性によさそうだと思った。
右上はウッタラカンド州のタッサーシルク。こういうシンプルなデザインも着こなしやすい。
このあたりはすべて機械刺繍だが、素材はもちろんシルク。デザインも比較的上品なので、着こなしやすいと思われる。
この辺りは値段もすべて1万ルピー以下。そこそこにお手頃な値段で、パーティ用にも着こなせる。
なお、このシルクマーク・エキスポでは、業者や職人から直接の購入につき、当然ながらブティックで購入するよりも割安である。店によっては値引きもしてくれる。
さて、今回、目が釘付けになったのは、この作品。商品と呼ぶよりも、作品である。写真をクリックすると、かなり大きな写真が出てくるので、どうぞじっくりとご覧いただきたい。
当然ながら、手織りである。
これは以前からも記していることだが、「ここは!」と思った店では、「一番、高品質のものを見せてください」と頼むようにしている。
買う買わないは別として、一番いい物を見せてもらうと、その店の実力のようなものが、伝わってくるのだ。
他の国では、こういう客は嫌がられるかもしれないが、インドの場合、こちらが関心を示すと、次々に見せてくれることもある。
ちなみにこの商品は、バングラデシュ、ダッカのモスリン。店のおじさんは、ミステリアスなほどに、とてつもなく愛想がなく、商売をする気は皆無に見えた。
しかし、そんなことはどうでもいいと思えるほど、このサリーはすばらしかった。
ダッカのモスリンを巡る話は下記にも記している。
■サリー商人、ダッカからバンガロールへ。 (←Click!)
■ダッカ発エコロジカル柄のサリー、初着用 (←Click!)
■英国統治時代、モスリンの職人らの指が切り落とされた話 (←Click!)
これは、買っておくべきだったか。と今、写真を見ながら思う。これは、すばらしい……。
こちら、カシミールの手刺繍のサリーも圧巻であった。しかし、こんなにもみっしりと刺繍を施すこともなかろう、というくらいの密度である。
今年、カシミールを訪れ、工房を訪ねたときも思ったが、もう少し、軽やかな刺繍にして、その分、お手頃価格にしてほしいというものである。
ぎっしり。作品としては、圧倒的に迫力があるが、身にまとえば、重い。
今回、気に入ったのはこのサリー。「パシュミナワーク」と呼ばれるもので、パシュミナに施す刺繍のテクニックを、サリーに生かしているのだとか。
先ほどの全面刺繍とは異なり、軽い。サリー全体に手刺繍が施されているのだが、それにしては、値段がお手頃。5、6年前の相場がそのまま、という感じである。
わたしが移住して以来、わずか7年の間のことだが、サリーの値段も驚くほど上がった。そして、職人の手仕事が反映されたサリーが減った。
その分、ミシンによるコンピュータ刺繍が激増した。
そんななか、この店は、時代に取り残された価格設定の感有り、である。こちらにとってはありがたいが、彼らも技術を存続し、仕事を続けて行くのはたいへんなことだろうなと痛感する。
これからも、サリーを買うときには、できるだけ手作業で作られたものを買い求めようと思うのだった。
なお、このシルクマーク・エキスポ。バンガロールのHOTEL LALIT ASHOKで24日まで開催されている。