自分は今、呼吸をしている。その呼吸を「意識」するだけでいい。
自分は今、音を聞いている。その音を「意識」するだけでいい。
瞑想をするに際して、「無」になることも「空」になる必要もない。そもそも、「考えまい」とすればするほど、考えてしまうものなのだ。
1日のうち、どんな時間でも、どこででも、数分間でもいい。生きている自分を意識するだけで、それが瞑想になる。
ネパールのカトマンズを拠点として活動する僧侶、ミンギュル・リンポチェ(Mingyur Rinpoch)に、それを教わる好機を得た。一昨日のことだ。
その話を聞いた時、わたしはひどく、楽になった気がした。瞑想をするには、なにかしらの心理的な準備や静寂という環境が要され、静かに、「空」であらねばとの先入観があったからだ。
しかし、そうではない。昨日も記した通り、わたしは「わたしらしいやり方」で、自分を意識すればよい。それが心の平穏に結びつくのだということを、再確認できた。
自分の心を鎮めるためにやってきたこと。それらの「不完全だった部分」を、指導者にきちんと言葉にて、補っていただけた気がした。
わたしは、パンデミックの最中「手書きの大切さ」を再認識した。ノートとペンは常にわたしのそばにあった。しかしパンデミック以降は、それらが「筆記具」という存在を超えて、意味を持つ道具になった。
「不易流行」を自らのライフのスローガンの一つに定めたこともまた、すべて同じ線上に在る。
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人間が、浮世で生きるに際しては。喜怒哀楽は常にあり。
「喜楽」ばかりじゃない。「怒哀」に苛まれるもまた、人生。
人生は陰陽。陰があるからこそ、光が見える。囚われちゃだめだ。日々を慈しみ生きよ。
……そうは思っても、心は軽やかに、負に囚われやすい。
苦しみ、悲しみ、怒り、焦燥、混乱、不安、嫉妬、尽きぬ欲……。
人間の脳みその処理能力や、人間の身体の運動能力は、人類誕生以来、さほどかわっていないはずなのに。
産業革命〜テクノロジーの変革〜を経て数百年。ことにここ数十年の、人間のライフスタイルは、かつてない速度で変貌し続け、人類の脳みそも、感情も、多分、追いつけていない。
特には、約30年前に、ソビエト連邦でペレストロイカが起こり、社会主義が崩壊し、世界が資本主義的価値観に席巻され始めてからというもの。
わたしたちは、経済的な側面から、人生に「勝ち負け」をつけるようになった。国々に「先進/後進」あるいは「先進/新興」をつけるようになった。
1996年に日本を離れ、ニューヨークに暮らし始めた直後から抱き続けてきた違和感。2001年9月11日の米国同時多発テロ、それ以降の資本主義世界の動きをぼんやり眺めながら、わたしの違和感は頂点に達していた。
アルンダティ・ロイ (Arundhati Roy)の著書『帝国を壊すために―戦争と正義をめぐるエッセイ― 』 (War Talk)にも、少し通じる。
諸々の要素が絡み合って、わたしはインドに移住したいと切望した。
そして、この国に暮らして17年。17年間、そこそこに高感度のアンテナを張り、この国の断片を感受しながら生きているが、まだまだ序の口を否めない。そんな、歴史深く尽きぬ世界に浸る中で、違和感は続くのだ。
このインド世界が「新興」ですか?
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わたしたちは、軽薄な価値観に自分を嵌め込み、流れに乗れないが故の苦しみに囚われる。自分が見えない。自分の軸がわからない。
だから、病みやすい。特にCovid-19が地球を席巻してからは、心が不安定になった人が増えた。わたしもまた、その一人であった。
だから、人は「瞑想 (Meditation)」や、「マインドフルネス」に関心を持ち、救いを求める。
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ミンギュル・リンポチェ。彼は1972年、ネパールに生まれた。父親のトゥルク・ウゲン・リンポチェは、チベットから亡命後、欧米にチベット仏教の教えを伝えた第一世代で、著名な瞑想指導者でもある。
ミンギュル・リンポチェは、幼少期、パニック発作に苛まれていたが、父の指導による瞑想で克服した経験を持つ。
彼は子ども時代から、僧院で仏教を学び、やがて北インドやネパールで僧院を開設。多くの人々を導き救済するための活動を行ってきた。
今から約10年前の2011年、彼は約4年間「身一つ」で僧院を出、放浪のヨギとして、4年間を過ごした。放浪の序盤、彼は「施された食事」を食べたことによって重度の食中毒となり、臨死体験をする。
瀕死状態の彼の姿を見た旅行者が、彼を病院に運んだ。その旅行者がいなければ、自分は生きてはいなかっただろうとのことだった。その臨死体験は、その後の彼の人生に、大きな影響を与えた。
彼の話し方は非常にカジュアルでフレンドリー、笑顔も絶やさず、朗らかなお人柄を感じさせてくれた。
ミンギュル・リンポチェの最初の著書『The Joy of Living』は20カ国語以上に翻訳されているという。日本語版は『今、ここを生きる──新世代のチベット僧が説くマインドフルネスへの道』として出版されている。
また昨年、彼はミンギュル・リンポチェはNetflixのシリーズの『The Mind, Explained』に出演、マインドフルネスの利点に関するエピソードを紹介している。今週末、わたしも見てみようと思っている。