このたびの、大災害。「天災面」が圧倒的に強かった当初。しかし、日増しに強まる「人災面」の問題。
ブログで、書くまいと思っていたことだが、あまりにも耐えかねる現状。せめて今の思いの「一部だけでも」ここに、吐露したい。
まず、上の写真。今朝のインド経済紙「mint」の、ロイター発の記事。日本語版の要約は下記の通りだ。
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インドは5日、福島第1原子力発電所の事故に伴い、日本の全地域からの食品輸入を3カ月間、全面的に禁止した。放射性物質が日本の他の地域にも広がっている恐れがあるとしている。日本からの食品輸入を全面禁止するのはインドが初めて。
インド保健・家族福祉省は声明で「日本からの食品輸入を即時停止する」とし、輸入禁止の期間は「3カ月、または放射性物質の危険性が許容範囲まで低下したとの信用に足る情報が得られるまで」としている。
声明は「放射性物質が日本の他の地域にも拡散しており、日本の食品輸出のサプライチェーンで汚染が深刻化する恐れがある」と指摘した。インドは日本から主に少量の加工食品、果物、野菜を輸入している。
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いくつかの新聞の、同内容の記事を読んだ。「日本からインドへの食品輸出は年間約3億円規模で、貿易全体に与える影響は小さいとみられる」と、極めて軽症であることを示すものもあった。
果たして、そうだろうか。
これはあくまでも、氷山の一角に過ぎない。日本だけでなく、海外に無数存在する日本料理店、日本食料品店、日本人海外生活者……非常に大きな打撃である。
今、ここで個人的に思い入れのある店舗や人々の先行きを気遣うようなことは書かない。
最早、放射能汚染云々を超えて、日本の信用が失墜していることがまた、非常に重い事実だと思われる。
まず、インド政府のこの決断をして、日本は決して、批判できないということを、記しておきたい。この先、このような事態が世界各地に拡散することは、間違いないだろう。
日本のリーダーが、明確な声明を世界に発しない限りは。
インドに対して、「核保有国なのに」とか、「発展途上国なのに」とかいう声が上がっているのも目にした。
最早、そういう問題じゃないだろう。他国のことを云々している場合ではない。
そもそも日本よりも遥かに電力消費量が少なく、需要が供給に追いついていないインド。
2007年、米国とインドとの間で民生用原子力に関する協定が結ばれた。インドは現在、核拡散防止条約に加盟していないことから、物議を醸したものの、翌2008年9月にはフランスも原子力協力協定に調印した。
現在、原子力発電への期待が高まっている矢先のこの大事件。インドの今後の電力問題にも、少なからず影響を与えているのだ。
今、インドが日本に対してこのような対応をするということは、一方で自国の首を絞めていることにもなる、という見方もできるのだということを、書き添えておく。
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それにつけても、だ。被爆経験国であるはずの日本の、その原発対策の、おぞましいほどのお粗末さは、いったいどうしたものなのだ。
日本のリーダーは誰なんだ?
誰が原発問題を取り仕切るのだ?
世界に向けて、日本はどう釈明するのだ?
これはもう、小さな島国の問題には留まらない。たとえそれが風評であったとして、拡散は免れない。なにしろ信頼できる筋からの、信頼できる情報が、ないのだから。
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4月に入ったころから、インターネット上のニュースの見出しが、級数(フォントのサイズ)も従来通りとなり、重大なニュースも、小さいローカルのニュースも、同じように、並べられるようになった。
日本での報道や新聞はまた、異なるメリハリというものがあるだろう。しかし海外に住むわたしにとって、インターネットを通してしか、日本語のニュースを知ることはできない。
だから、あらゆるニュースが、同じインパクトで、活字となって並んでいる。
各新聞のサイトを読みながら、日々、堪え難い思いを募らせている。見るなと言われても、これは知る権利があると思うので、見ている。
これは天災ではなく、人災なのであるから。
さて、4月に入ってからの、汚染水に関する記事の見出しを、下に並べてみる。
■読売新聞
・基準1万倍の放射性物質…福島第一原発の地下水
・汚染水見えぬルート…海と地下水、関連薄く
・水深が深い海水から放射性物質…基準は下回る
・官邸サイト汚染水データ誤掲載、11時間後削除
・汚染水漏出は深刻、遮断の見通し立たない…東電
・汚染水に着色、流出ルートの調査開始
・放射性廃液の排出、午後7時過ぎに開始…東電
・小魚から放射性物質…影響ない程度・規制値なし
・汚染水1万トン超、海に放出…やむを得ない措置
・汚染水放出、農水省に事前報告なし
・汚染水封じ込め難航、海中に鉄板の囲い設置へ
・汚染水放出「止めて」地元漁協抗議、補償も要求
・汚染水流出経路、作業トンネル下の砕石層か
・汚染水で省庁連携悪く…農水、厚労省と調整なし
・「先は真っ暗闇」茨城の漁協、値崩れで漁自粛
・汚染水放出、事前の説明必要だった…枝野長官
・「許し難い行為」全漁連会長、汚染水放出に抗議
・東電に水かけたい…平潟の魚、買い手なし
・インド、日本からの食品輸入を全面禁止
・汚染水放出、中国紙「周辺国の同意得るべき」
■朝日新聞
・地下水の放射能汚染、監視強化へ 法定の1万倍検出うけ
・汚染水、徐々に外へ 海への経路は不明 福島第一原発
・福島第一から40キロの海、基準2倍のヨウ素
・汚染水、壁面の亀裂から海へ 流出場所を初確認 2号機
・英の放射能海洋汚染半世紀…健康被害なくても拭えぬ不信
・ポリマー投入、汚染水漏出止まらず 福島第一2号機
・投入したポリマーって? 水吸い膨らむ粉、おむつにも
・汚染水閉じ込めへフェンス検討 東電、流出止まらず
・「隣国に通報なし」韓国が放射能汚染水放出に反発
・放射能汚染水放出 農水相「事前報告なく大変遺憾」
・水産庁、検査強化 「魚の体内で濃縮せぬ」の見解再検討
・魚も出荷停止へ 茨城沖のコウナゴ、高濃度ヨウ素検出で
・年間の被曝限度量、引き上げを検討 原子力安全委
・汚染水のルートほぼ特定 止水工事で流出量やや減少
・汚染水の放出「情報公開不足」 近隣諸国に不満広がる
・高濃度放射能汚染水、海への流出止まる 福島第一2号機
・全漁連会長が東電に抗議 汚染水放出に「怒りと憤り」
・福島第一、汚染度低い水の放出続く 処理施設分は終了
当事国において、こんなに曖昧な、場当たり的現状を伝えるニュースばかりが、流れているのである。諸外国が懸念を抱かないわけがない。
日本からの食品に関して言えば、異国の者にとってそもそも、必要不可欠なものではない。先進国には、そのような「必要不可欠ではない、しかしあると楽しいもの」があふれている。
異国における日本料理もまた、そのひとつだろう。
例えばフランスで原発事故が起こったと仮定する。フランスが今の日本のような対応をとっていたとして、わたしたちは、フランスのワインを、敢えて飲むだろうか。フランスのチーズを、敢えて食べるだろうか。
対インドの数億円ですむ話ではない。
すでに事態は国境を超えて、あらゆる産業において、途方もない数の人々の生活に、影響を与えているということに対し、島国日本の為政者たちは、一刻も早く手を打ってほしい。
インドの新聞記事を読んでも、ECONOMISTの記事を読んでも、最早、日本に対する不信感ばかりが強まっている。
ひょっとすると、日本に住んでいれば、違った視点からの、もっと信頼のできる情報が、見えやすいのだろうか。だとしたら、海外に住んでいるが故の、情報不足から来る懸念であるとも言える。
ただ、いずれにしても、世界に向けて、何かしらの明確な対応を取らねば、外部の人間には不透明な部分が多いのだということを、しつこく、書き添えておく。
日本は海に囲まれた島国である、という条件のもとに、民族性や精神文化が育まれてきた。
陸続きに国境を接する国を持たないということにより育まれた慣習には、善し悪しがあろう。今回、その悪しき部分が、露呈しているとしか思えない。
汚染水を流すのに、自国の、いや、自国の一電力会社の判断だけですませているという事態。
「日本は地球という一つの惑星の一部である」ということに、思いを馳せる余裕のある人は、決定権を持つ人の中に、多分いないだろう。
隣国である中国や韓国が腹を立てて、当たり前である。台湾やロシアだって、すぐそばだ。
たとえ微量だろうが人体に影響がなかろうが、なんだろうが、危険なものが海に流されているらしいとあっては、誰が平気でいられよう。
名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ
故郷の岸を 離れて 汝はそも 波に幾月……
と、椰子の実ですら、海に流されれば、異国まで旅をするのである。汚染物質だって、何をか言わんや、である。
上の写真は、20年前にわたしが編集した小冊子の一部だ。小さな広告代理店で編集者として勤務していた20代半ばのころ。
昭和シェル石油のクレジットカード情報誌を作るべく、隔月で海外2カ国を連続取材していた時期があった。
行き先は、「シェル」のある国。当時、「ボーダレス」とか「エコロジー」といったキーワードが流行していたこともあり、国境を車で通過する旅を、積極的に盛り込んだ。
その、「国境を越える」という感覚に、同行したライターもカメラマンも、そしてわたし自身も、非常に高揚したものだ。
それは、欧州人にとっては日常であり、島国生まれの我々にとっては、あまりにも物珍しい、非日常であったからだ。
欧州へは、取材だけではなく、その後も、列車で3カ月放浪したり、夫と出会ってからは、何度かドライヴ旅行に出かけた。
その都度、国境を接する欧州大陸と、島国日本と、あるいは大陸米国の、地理的な異なりのさまざまに、思いを馳せた。
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さて、20年前に話を戻す。上の写真は、ピータビューレンというオランダ北部のワッデン湾沿岸を訪れたときの記事。ここにあるアザラシセンターを訪問した。海洋汚染で病んだアザラシの保護センターである。
記事の一部を抜粋する。
「北海の海流は、南から北へ流れているの。ライン川とマース川がハーグの南で海に流れ出て、その汚染物質が海流に乗って、こっちまで来てしまうのよ。ここにいて、アザラシを見ているだけで、あの川の上流で何をしているか、世界の海がどうなっているかがわかるわ。でも、悲観してばかりはいられない。入院患者は増える一方だから」
当時、オランダとベルギーを続けて旅をした。主には麗しい風土の、美しい景色ばかりを眺めて来たのが、しかし、国境沿いを走っていたときの光景を、今でも忘れられない。
国境沿いの、無辺の大地。原子力発電所が、夕映えに映えていた。
国境沿いにはまた、煙突から煙が上がる、工業地帯も見られた。その光景はかなり、衝撃的だった。これもまた現実なのだ、と思った。
現在、欧州では原子力発電を縮小しようとの動きがある国もあるようで、当時の光景が今、見られるかどうかはわからない。
たとえば、今回の日本の惨事を受けて、スイスの2州がフランスに対し、国境に近い原発の作動一時停止を求める要求を出しているとのニュースも見られた。
世界の至るところで、原子力発電に対する不安感は高まっている。
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国境が目に見えない。けれど、海はつながっている。その汚染水の廃棄は、なんとかならないのか。
いったい、この先、どうなるのか。
ここに何を書いたところで、何にもならんことは重々承知の上だが、今日はもう、書かずにはいられなかった。
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