夕刻、ムンバイに到着。今回は夫の出張に同行で、久しぶりに北ムンバイのバンドラに滞在だ。昨年、何度か利用した、海を望むTAJ LANDS END。
ホテルをそのものを見れば、南ムンバイのTAJ MAHAL PALACEが好きだが、このアラビア海を望む、リゾートテイストのあるこのホテルも気に入っている。
コンプリメンタリーのハイティーやカクテル、プールサイドでのマッサージなど、あれこれと特典がついている。
ホテルにずっと滞在していたい衝動に駆られるが、そうもいかない。
二都市生活を終えてみると、この街に来る頻度が減り、物足りなく思う。短い滞在期間に、訪れたい場所をしっかりと訪れておこうと思う。
さて、本日は早朝起床で、一足先にムンバイへ飛んだ夫を見送ったあと、なかなかに濃厚な時間を過ごした。
芝生の植え替えをメインとした庭改造工事。やはり予定通り物事が運ばぬのがインドである。
本日午前中に芝生が届く予定だったのが、夕べからの雨で道路がぬかるみ、芝生を積んだトラックのタイヤが途中でスリップ。身動きが取れなくなった。
午前中に届く予定が、結果的には午後となった。非常に「インドらしい展開」である。
芝生の搬入を見届けて、あとはメイドのプレシラに任せ、午後のフライトでムンバイに来る予定だったのが、間に合わず。
右上の写真のような、作業まっただ中な状況のなか、家を出たのだった。
わたしが業者に苦情を言うよりも激しく、プレシラはわたしの言いたいことを代弁してくれる昨今。
一時は厳しく接したこともあったが、それもこれも、彼女に「責任を持って」我が家を守ってほしいからこそのこと。
このごろは、その自覚も芽生えてくれたのか、多様な雑務をこなしてくれるようになった。
ムンバイ空港に到着して電話をすれば、
「よい芝生が届きました。(我が家の)庭師にも確認してもらいました。問題ありません。でも、植え込みは明日までかかるそうです」
とのこと。
身体障害者の従業員が作業をしているわけで、健常者に比べればペースも遅いだろうし、体力もあまりないだろうから、予定より日数がのびることは予測していた。
季節外れの雨が時折降る、このごろのバンガロール。
夕べもしとしとと、雨が降り続いていたのだ。
それは静かにやさしい雨で、樹木を洗い、家々を洗い、埃の路上を洗い、夜の空気を静まらせ、高原の朝の清澄な空気を運んでくれる。
雨のせいで芝生の搬入が遅れたとはいえ、状況のよいものが届いたということであれば、それでよし。雨で地盤が緩み、庭を耕すのが容易だったのは幸運だった。
なお、このナーサリーを運営する組織、The Association of People with Disabilityはじめ、ナーサリーについての記録は、下記『キレイだったブログ』に残している。
■身体障害者支援のナーサリーでハーブを (←CLICK!)
●左上写真:作業員の一人。義足を置き去りにしてランチを食べに行った。 ●地中に埋められていた電線を傷つけた。ランダムに埋める方も埋める方だが、これ、インドでは普通。ありがちな光景。アパートメントビルディングの電気工事人を呼び、修理してもらう。
2008年からの2年間、二都市生活をしていたこの都市。空港から街への行き来は慣れている。
慣れているとはいえ、そのときどきで、状況が変化するのもインド。慢心は許されぬ。
今回、北ムンバイにある空港からホテルまでは、MERUと呼ばれる無線タクシーを利用することにしていた。
南ムンバイまで下るなら、時間制のタクシーをチャーターするほうが、途中でどこかに立ち寄るにも便利。しかし今回の滞在先は北ムンバイ。バンドラのタージランズエンドだ。
到着するのは夕刻だからホテルへ直行、従っては割安のMERUで十分だと思っていた。
かつてはタクシー乗り場へ出て、並んで待つところ。今回は、あらかじめ空港内で50ルピーのチケットを購入し、車のナンバーを記した紙を受け取って、タクシー乗り場に赴く仕組みにかわっていた。
いつものように、しかしニューヨークで新調したばかりの「四輪でスイスイ」なスーツケースを気分よく引っ張りながら、毎度おなじみ大瀧詠一の『白い港』の一節、
♪スーツケースくらい 自分で持つと 君はいつも強い 女だったね〜
と、自らを鼓舞する定番ソングを口ずさみつつ、ご陽気に外へ出た。と、いつものごとく、ちゃらちゃらとした青年が数名、
「タクシー?」「マダム、タクシー?」
と近寄ってくる。インド在住5年超とはいえ、見た目、外国人。いつまでたっても、ターゲットである。しつこい白タクの兄さんたちをかわしつつ、
「MERUだから。邪魔しないで」
と言ったところ、
「僕らはMERUです」
と言う。
「あのシルヴァーのタクシーもMERUです。MERUには2種類の車があるんです」
そういいつつ、わたしのスーツケースを運ぼうとする彼ら。
「触らないで。一人で持てるから!」
と、牽制しつつも、巧みな話術に、だまされそうになる。
「わたしはMERUに頼んだの。ここにチケットがあるんだから。ライセンスプレードのナンバーも書かれてるから」
半券を示しながら言えば、
「あのシルヴァーの3409、あの車に変更になったんですよ。来てください」
このように言われれば、初めてムンバイを訪れる人ならば、軽くだまされるだろう。わたしとて、旅の多い人生。これまで各地でだまされてきた。
もっともひどかったのはロンドン。インドならまだしも、あの都市で、誰がだまされると思うだろう。
旅慣れていると思っていた29歳のわたしを打ちのめすに十分なだまされ方だった。あれは、事情が事情なら「拉致」されても不思議ではなかったと思う。
それ以外にも、上海、バリ、各地で、だまされて来た。だからこそ、このような「だます奴ら」をのさばらせておけない。
まあ、インドはそんな人だらけだから、わたしが張り切ったところで焼け石に水なのではあるが。
「あんたたち、いい加減にせんと、警察呼ぶよ! 外国人だと思ってだませると思ったら、大間違いだからね!」
鼻の穴を膨らませてシャウトするおばさんに、ようやく彼らもまずいと思ったらしく、逃げてしまった。
こうなったらもう、警察を呼ばずにいられようか、いや、いられまい。
同じような被害を他の日本人はじめ外国人が受けるのを、みすみす許したくはないというものだ。
その辺でうろうろしていたポリスを呼ぶ。ちんたらちんたらと歩くポリス。頼りないとはいえポリス。事情を説明し、シルヴァーの車のナンバーを告げる。
その間にも集まる野次馬。どこぞのホテルの送迎を担当している黒服のお兄さんが、親身になってわたしのことをケアしてくれる。
「マダム、リラックスして。MERUはあちらの乗り場です。僕が付き添いましょう」
「マダム、リラックスして。ここで待っていれば、車は来ますから」
「マダム、リラックスして。何かあったら、僕は向こうで待ってますから」
やたらめったら、「リラックスして」を連発される。
どんだけ、火を噴いていたか我。という話だ。
高級ホテルに勤めるお兄さんたちはまた、あまりにも、ご親切な対応で、自分のゲストでもないのにもかかわらず丁寧に接してくれるのだ。涙ぐましい。
タクシーを待っていたら、向こうからポリスと二人のおじさんがやって来た。長身のおじさんは無口だが、丸っここいおじさんは、やたら饒舌だ。
「マダム、嘘の告発をしないでください。我々が何をしたというんですか。僕らは善良なドライヴァーです」
丸っこいおじさんが長身のおじさんを差しながら言う。何よ、薮から棒に。
「彼は3409の運転手です。彼はなにも悪いことはしてません。なのに、なぜ3409がだましたなどというのですか」
「いや、彼じゃなくて、若造二人が、その車にわたしを連れて行こうとしたのよ」
「僕らに罪はありません。どうしてそんな、嘘をいうのですか。僕らがなにをしたというのですか」
「嘘じゃないってば、だいたいあんたは何者よ」
「僕はあっちの車のドライヴァーです。僕はなにもしてません!」
「誰も、あなたが何かしたなんて、言ってないじゃない。だいたい自分、基本、関係ないでしょ! そもそも、わたし、あなたなんか知らないし、告発もしてないし。なに勝手に巻き込まれてんの?!」
「マダム、リラックスして。」
「リラックスできるかい! あんたがイライラさせてんじゃん!」
通気性の悪い、実に不毛な会話を続けている我々の周囲に、いつしかどんどん野次馬が集まってくる。暇そうで悪そうムードな客引きが主だ。
「見せ物じゃないんだからね!」
と言いつつも、この際、シャウトする。
「あんたたちはね! 外国人と見ると、すぐにだまそうとするでしょ。特に日本人がおとなしいと思って、すぐに鴨にしようとするでしょ! わたしは絶対に許さないからね!」
まあ、わたしに怒鳴られたところで、奴らにとっては痛くもかゆくもないのだが、言うだけ言って、到着したタクシーに乗り込んだ。
乗ったら乗ったで今度はそのドライヴァーが……と、書き続けるエネルギーも絶えた。
久しぶりに、冷静さを欠く事態に陥る状況であった。インドだもの。
とまあ、かように「荒れ果てた気分」でのムンバイ入りだった。が、「オアシス」のようなホテルに足を踏み入れれば、芳しいアロマの香りに包まれて、生き返る気分だ。
部屋はアップグレードされてより快適だし、カクテルタイムにラウンジでサーヴィスを受けられるしで、たちまちご機嫌。
明日からの数日。大切に過ごそうと思う。