新空港は、無事に開港したようだ。目立ったトラブルはなかったようだ。開港にあたり、空港への道路がまだ完備されていないことなどを懸念して、地元メディアはこぞってネガティヴなレポートを繰り返していたが、ともあれ一安心だ。
旧空港は我が家から30分程度だったが、新空港までは、道路が完成するまでは2時間近くかかる。距離は35キロ程度と大したことがないのだが、なにしろ道がなければたどりつけない。
いつもは月曜の早朝便でムンバイへ赴くアルヴィンドだが、月曜午前中に重要なミーティングがあるとのことで、明日、日曜の午後に出発することにした。わたしも彼の「お見送り」を兼ねて、新空港へ見学に行こうと思う。
ちなみに新空港。飛行機の搭乗客だけでなく「観光客」がかなり多いとか。つい先日オープンしたハイダラバードの新空港も、空港内のレストランやモールを利用するべく見物客が押し寄せているらしい。しかも、「着飾って」いる人が多い様子。
空港周辺の長閑な村に暮らす人々にとっては、突然現れた近代的な建築物とその内部は、物珍しいのである。「ハレの日」の意気込みで、空港へ見学に行くのだろう。それは高度経済成長期の日本とも似ている。
デパートへ家族揃っておめかしをして出かける。最上階のレストランで食事をしたり、屋上の遊園地で遊んだり、ソフトクリームを食べるのが「ハイカラ」だったあのころ。今のインドは、いくつもの時代が渾然一体と溶け合って同時進行している。
●空から降るスマイル
我が家の最上階に住む少年が、テラスでボール遊びをよくしているようだ。勢いがつきすぎたボールは塀を越えて、我が家の庭へ降って来る。少年が取りに来たときには、その都度、手渡していた。
今日、物置を片付けていて、ビニル袋に入った7つものボールを見つけた。庭師が拾って集めていたらしい。こんなにも、落ちていたとは。
それにしても。普通のボールなら、なんとも思わないところだが、スマイルが描かれているだけで、なんだか「悪くないものが落ちて来た」気分にさせられるから面白い。しかもわたしの好きな黄色。
また近々、少年が取りに来るだろう。そのときに、まとめて渡そうと思う。
今夜は久しぶりにヴァラダラジャン宅へ。
IIS(インド科学大学)のキャンパス内は、緑が鬱蒼と茂っていて、広大な公園のようである。
ことに、雨のあとの夜は、空気がひんやりと心地よい。
雨に濡れた緑が、空気を清浄してくれているかのようで、だから車の窓を大きく開いて、キャンパス内を走る。
さまざまな種類の樹々や植物が、目に飛び込んで来る。
「ここは南国の高原なのだ」と、改めて思う。
そんな場所に住めていることが、とても愉快だと、ふと思い出したように思われ、小さなうれしさが込み上げて来る。
さて、ヴァラダラジャン宅。
ラグヴァンの教授仲間がカリフォルニア土産にくれたというナパのカベルネ・ソーヴィニョンを開けてくれる。やっぱり、わたしはカリフォルニアワインも好きだなあと、またしても幸せな気分になる。久しぶりに、ワイナリー巡りをしたくなる。
■ナパ ワイナリー巡りの記録 (1)
■ナパ ワイナリー巡りの記録 (2)
今日もまた、義姉スジャータが手料理を用意してくれていた。
今日のメイン、キーシュ・ローレンヌ (Quiche lorraine)は格別だった。バターの風味がほどよい香ばしい生地。ベーコンの味わいも、とてもよい。スジャータは明らかに料理の腕前を上げつつあると思う。
以前はインド料理の頻度が高かったが、このごろは、以前のブイヤベースのときにも書いたが、ジュリア・チャイルド(フランス料理を米国に広めた料理家)のレシピなどを活用して、欧米の料理を積極的に作っている。
昨年訪れたギリシャで気に入ったというフェタチーズ入りのサラダなども、彼女はしばしば作って我が家に持って来てくれる。
どれも、とてもおいしいのだ。
今日はこのキッシュをはじめ、インゲンのソテー、アヴォカドとトマトのサラダ(ワカモレ)、ハム、そしてスクオッシュのスープ。デザートにはプラムケーキが用意されていた。
わたしもいい加減、独走料理、いや独創料理でお茶を濁すのではなく、レシピなどを活用して未知なる料理に挑戦してみたいものだと、ちょっと思わされた。
ところで写真右の怪しい人物は、ゴルゴ13のTシャツを着用し、ポーズを決めているつもりのハニー。
背後に立つのは星一徹の姉、明子。ではなく、弟の不審な行動を呆れて見ているスジャータ。
何がどう、彼の心の琴線に触れたのか、ゴルゴ13を気に入ってしまったらしい。
その濃すぎる眉、顔に、シンパシー(共感)を覚えたのか。
お出かけ時にいそいそと着用しているので、「部屋着にするんじゃなかったの?」と、口を挟もうと思ったが、まあ家族に会いに行くのだからいいか、と思いとどまった次第。
折しもラグヴァンは、現在、大学院の新入生(Ph.D) 選考のインタヴュー(面接)を、そしてアルヴィンドは新しいスタッフのインタヴューを行っている。
二人して、面接を通して、望む人材を得ることの難しさについて語り合っている。その際、M氏の話となった。元インド軍の高官だった人物で、このときにもあれこれと話を聞いて感嘆した記憶がある。
ラグヴァン曰く、彼から軍隊の採用面接の厳しさについて聞かされたことがあるという。志望者が、いかにストレスに強い人間かを試すためのさまざまなプログラムがあるらしい。おなじ面接でも、大学院入学や就職活動とは桁違いの緊張度が、そこにはあるのだろう。
どういう面接が行われているのか知りたいものだと、みな異口同音に。
インドはパキスタンや中国と国境を接し、緊張状態が高い地域が少なくないのに加え、国内でも宗教間の争い、テロなどが頻発している。決して平穏とはいえない国の治安を守るため、軍隊の教育はひときわ厳しいのは当然のことだろう。