5月とは思えない、冷たい雨が降るマンハッタンに別れを告げて、12日の午後、JFK国際空港へ向かった。
そして、数えるのも嫌になるほどの、長い時間を経てバンガロールに到着した13日火曜日の深夜。
新国際空港は、近々開港するだろう。
そうすれば、もう、このおんぼろ国際空港に到着することはないかもしれない。
そう思うと名残惜しい……わけもなく。
待てど暮らせど流れて来ない荷物を待ち続けて、やれやれ疲労倍増効果のある手荷物受取所。
出発時の倍ほどにも増えた荷物を、車に積み込み、夜の街を走る。夜のバンガロールは、昼間のそれとはうってかわっての静寂。緑と埃っぽさの入り交じった匂いのする風。ここが、わたしの住んでいる場所。
玄関を開ける。ひんやりとした空気。きれいに片付いた家に戻って来る心地よさ。ドライヴァーのラヴィが荷物を家に運び入れてくれている間にも、わたしは真っ先に庭へ出る。
庭もまた、きれいに手入れされていて、わたしたちを出迎えてくれる。
半月。夜風。虫の声。
腹の底から、ほっとする。
ガネイシャ像の前に、白檀のお線香を焚いて、二人でただいまと、無事の旅の感謝をこめて、お祈り。わたしたちは、敬虔な、なんの信者でもないけれど、特に長く家を空ける前と、帰宅した後は、こうして小さくお祈りをするのだ。
思い返せば米国時代。旅行のあとの片付けがたいへんだった。けれどインドに暮らしていて本当にうれしいのは、すべてを自分でやらなくてよいこと。
ドライヴァーが迎えに来てくれ、荷物を運びいれてくれる。不在の家は、メイドのプレシラが片付けをしておいてくれ、庭師も庭の手入れをしてくれている。もちろん、荷解きなどは自分でやるし、料理もわたしがするけれど、掃除や洗濯物干しなどを任せられる人がいるというだけで、本当に楽である。
さて、帰宅したのは午前1時半。就寝したのは午前4時。メイドと庭師の来訪で、午前10時に一度は起きたものの、しかし再びベッドに倒れ込んで、目覚めたのは正午過ぎ。
洗濯物を仕分けたり、大量購入した日本の食材や、衣類その他を片付ける。アルヴィンドは書斎で仕事をしている。妻は夕方になり、再び1時間ほど仮眠。まったく使い物にならない。
思えばニューヨークでは時差ボケがまったくなく、二人して元気だった。メラトニンを飲んだからか。今は疲れてはいるけれど、時差ボケというのではなさそうだ。
それでも時差ボケには日光浴がいいからと、朝食後、庭へ出て、木陰で太陽の光をかすかに受けながら、舞い飛ぶチョウを惚けたように眺めたのだった。
食料の調達にも出かけられなかったので、夕飯は、フランクフルト空港で大量購入して来ていた「フランクフルトソーセージ」を早速。しかし、野菜がなにもない。本当になにもない。これとパンだけではあんまりだ。
出発の数日前、Namdhari'sで買っておいたオーガニックの大豆を茹でることにする。数時間、水に浸した後、圧力鍋を使い速攻で水煮する。その後、昆布を加え、和風味をつけて出来上がり。
フランクフルトソーセージ。粒マスタード。赤ワイン。大豆の昆布煮。パン。
すばらしくちぐはぐな食卓ではあるが、美味ソーセージの尽力により、「おいしいね!」と、夫も大喜びの夕餉となった。
ところで、You Tube。ニューヨーク行きの数日前にアップロードしてみたのだが、なかなかに面白い。たくさんの方から、個人的に感想をいただいて、それでまた、動く画に対する好奇心が少々、沸いて来た。音楽の問い合わせも少なからずあったので、紹介文のところに追加しておいた。
ニューヨークでも一度だけ、デジタルカメラで撮影してみた。
そもそも、撮影しながらしゃべるのが、難しい。その上、データが重くなり過ぎたり、うまく編集できなかったり、なんだかわけのわからないものが出来上がった。それでも、「場の雰囲気」は、写真とは違う形で伝わるのではないかと思う。
Muse India's You Tube