ホテルを出て、海辺を歩く。
足場の悪い、汚れた歩道を歩く。
垂れ込める灰色の雲。
鉛色の海。
岩肌の岸。
どんよりとやわらかな、灰色の連なりに浮かび上がる、
人間の服の赤ピンク青緑その他。
野良犬の茶色。
カラスの鈍色。
霧雨吹き付ける、平日の、昼間の、海辺で。
足を濡らしながら、茫洋の大洋を、軽やかに見つめる人々。
貧富の共存が、街の随所で、それはそれははっきりと、目に見えるムンバイ。この地もまたあからさまに。高級住宅が立ち並ぶこのバンドラで、しかし海辺にはスラムが連なり、海水で、下水で、洗い物をする人々。
上の写真の、右から3番目のビルディングの、下の部分。木々の陰になっている赤茶色の屋根の建物は、ボリウッドの人気俳優、シャールク・カーンの自宅の一つ。
超富裕の人々も、ムンバイにいる限り、混沌のライフスタイルは免れない。シャールク・カーンは英国にも自宅を持つというが、推して知るべしというところか。
「ムンバイが好きだ」と言い切るムンバイカーは多い。
なぜそんなにも、屈託なく、言い切れるのだろうと。
住めば都。
この街に2年間暮らし、その後も行き来を繰り返しているわたしもまた、この街への愛着はある。バンガロールにはない、あらゆる、さまざまを、「ムンバイではね……」と語ってしまうことはしばしばで。
しかしながら、目を閉じたくても閉じられない、あまりにも顕著な貧富。貧しき人々の、野良犬に近い場所で暮らす人々の、有り様を目にすると、何度見ても、何度考えても、何が何だか、わからなくなるのだ。
……などとしんみりしてしまうのは、束の間のこと。雨の路傍で感傷に浸ろうもんなら、足が泥水に浸ってしまうというものである。
さて今日は、雨の降る中ご苦労にも、南ムンバイのロウアーパレルにあるショッピングモールへ。ここでもしばしば紹介しているところの、ムンバイのサグラダファミリアことハイストリート・フェニックスである。
いくつかのモールが共存するショッピング・コンプレックス。富裕層向けのパラディアムが誕生したことは以前も記した。
開店当初は歯抜け状態だったのが、徐々に店舗を増やしている。1カ月半前にはなかったZARAやバーバリー、DKNYなどもオープンしていた。
個人的な嗜好を優先してコメントすれば、なぜ世界的に、ZARAがそんなに人気なのか、よくわからなかった。
しかし店内をうろうろと歩いていると、なんとなくわかる。
というか、自分も一応、買い物をしたことはある。
最初は今から約20年前(古っ)。
取材でスペインを訪れたとき、バルセロナのZARAにて。
ベージュ地にカラフルな、しかしアースカラーで落ち着いた大柄の花模様がプリントされたデニムのミニ丈ジャケットと、ミニスカート(!)
わたしが持っていた数少ない、しかし今思えば相当にミニなミニだった。たくましき脚を惜しげもなく(恥ずかしげもなく)出して歩いていたものだ。
値札に、数カ国の国旗と、その国の通貨による値段が書いてあるのが、興味深かった。
次は今から14年前。ニューヨークへ移り住んでまもないころにも、一度買い物をした。白いサファリジャケットと、伸縮性のあるやはり白いパンツ。気に入っていた。
などといった、わたしのZARA回想はさておき、2フロアに分かれての広大な売り場面積。メンズ、キッズのコーナーもある。ZARAにキッズがあるとは知らなかった。
数年前までは、知り合いに子どもが生まれても、プレゼントする服を探すのに苦労したものだが、最近はもう、お子様向けの店が次々に誕生していて、選択肢豊富である。
さて、いくつかの店舗を訪れ、少々買い物をし、ランチをすませて、本日の目的地であるブックストアへ。
前回の記録(←Click!)に残していた、パラディアム地下にある新しいブックストアだ。雨の日だからこそ、ここでゆっくり過ごしたいと、わざわざ南下してきたのだ。
にも関わらず!
エスカレータで地下に下りている途中から、鼻に突く異臭。下りるほどに強まるその匂い。な、なにごと? しかし世間の人々は、平然とした顔をして働いている。買い物をしている。
く、臭くないのか?
そら、わたしは人並み以上に嗅覚が鋭い。だからって、この匂いは、平均的嗅覚保持者でも耐えられん匂いやろ!
店内の随所で、床のモップがけをしている人がいる。ひょっとして……。ハンカチで鼻を押さえつつ、店員の一人をつかまえて、尋ねる。
「ねえ、この店、すごく臭くないですか? 何の匂いなの?」
「実は昨日、床下から下水があふれて、店内が水浸しになったんですよ」
げ、下水って……。
ど、どんな下水……?
尋ねることさえ、恐ろしい。ふと、店員の視線の先をみると、そこには、大きな床のタイル(約50センチ四方)をはがし、あらわになった土砂を掘り起こしてパイプの点検をしているおじさんがいる。
いくら地下とはいえ、タイルを一枚ペロンと剥がしたら、下が土砂状になっているというのも、すごい。さすがインド。モンスーンシーズンで地盤がもろもろになっているのかもしれない。
しかし一皮はがせば、魑魅魍魎の世界である。
「ちみもうりょう」と読むのである。
正確な表現ではないのはわかっている。
しかしながらもう、下水の匂いもなにもかも、妖怪の仕業としか思えん。
もっとも日本でも、二子玉川園の髙島屋が、長年、トイレの汚水を川に垂れ流していたことに気がつかなかったという事件が以前あったくらいだから、まあ、インドばかりを責めている場合でもないのだろうが、しかし。
ああ。図らずも、今日の話題は、なんだか汚い。
しかしキレイなこともあったのだ。キレイなことは、キレイなブログに書いている。これからも書く。なので、お口直しはそちらを見ていただければと思う。
インド発、元気なキレイを目指す日々(第二の坂田ブログ)(←Click)