このところ、HIGH STREET PHOENIXと呼ばれるショッピングモールを訪れる機会が数回あった。
南ムンバイのロウアーパレルにある複合型のコンプレックスなのだが、それぞれのモールが、それぞれのスピードで工事を進めているため、こっちができ上がったかと思ったら、あっちが工事中、あっちができ上がったと思ったら、そっちが改装中……。
という具合に、万年、落ち着きがなく、雑然としている。ここを初めて訪れたのは4年前のことだが、当時こそ部分的に「新品な感じ」が漂っていたものの、今や全部ができ上がる前に、古びた感じが見て取れる。
延々に工事が続く、それはバルセロナのサグラダ・ファミリア(聖母教会)状態である。ということは以前も書いた気がするが。
さて、先日訪れたところ、古びた感じの中にも新しい "PALLADIUM' と呼ばれるモールが誕生していた。が、入り口のあたりには、まだ工事の足場などが組まれていて、ちっともウェルカムな状態ではない。
ソフトオープニング、といえば聞こえはよいが、つまりはそのような状況である。
外から見るに、とても営業しているとは思えないムード満点のなか、頭上を気にしながらモール内に入れば、一応お客は徘徊しているし、BMWが展示されていたりもする。しかし、開店しているテナントは、半分に満たない。
MOVENPIKのアイスクリーム専門店(イートイン)がある。売れるんだろうか。すぐにつぶれてしまいそうで、オープン直後からすでに心配だ。
すぐにつぶれるといえば、以前、ここでも紹介した、マラドのINORBIT内にオープンしていた高級スーパーマーケットGOURMET CITYも、早くも消えたらしい。
他のモールに比べて「高級路線を打ち出している感じ」は、そこはかとなく伝わってくるものの、チェンソーのけたたましい音が響き渡り、高級感を楽しめない。
それでも一応は、視察的気分で館内を巡る。
●カシミール地方の工芸品店で、サルワール・カミーズの布を買う。
と、インドではありがちな、カシミール地方の工芸品店を見つけた。パシュミナやらカーペットやら刺繍製品など、カシミール地方の手工芸品を扱う店である。
先進諸国においては、「手作り」「手織り」「手彫り」「手刺繍」と、人間の手が作り上げた商品は、手間がかかり、人件費が高い分、「高級な物」と認識されがちだ。
しかし、インドは違う。ということはこれまで幾度も記したが、人手過剰なインドでは、未だ手工芸品が廉価で入手できるのだ。労働時間と技術を考えるに、この値段では職人の貧困間違いなしと思われる商品が、出回っている。
インドのカジュアルな民族衣裳であるところのサルワール・カミーズ。トップとボトム(ズボン)を作るための布である。
胸元と袖口の部分の刺繍が施された、厚めのウール的コットン。肌触りもよく、刺繍の質感も悪くない。これをテイラーに持って行き、自分の好みのデザインで、自分に合ったサイズの服を作ってもらうわけだ。
デザインは、インド的にせずとも、もちろん自由にアレンジできる。
このような素材が、あまり書きたくはないのだが、しかし書かねばわからないので書くが、日本円にして2000円〜3000円で買えるのだ。
縫製も高くて1000円程度。ローカルの店であれば、500円未満でも作ってもらえる。もちろん、シルク地になると値段はあがるし、逆に刺繍のクオリティが低ければ、もっと安いものも見つけられる。
このような、カラフルで派手なサルワール・カミーズのマテリアルが売られている光景を、あちこちで目にする。
メイドなどの低所得者層であれ、おしゃれにカラフルなサルワール・カミーズを着こなしているが、彼らが日常的に着ている物は、布と縫製代を含めて500円前後のものである。
世帯月収が1万〜2万円の彼らにとっては、決して安くないが、みな衣裳持ちである。
インド人女性のおしゃれに関する情熱は、貧富の差を問わず、かなり強い。みなカラフルに着飾っている。毎日同じような、地味な服を着る人は、見たことがない。
さて、わたしはこのマテリアルをどのようなデザインに仕上げてもらおうか、ムンバイ宅ご近所のテイラーで相談したうえで、頼もうと思う。
●やはり、インドはバター不足、乳製品不足なのだった。
さて、本日の午後もまたHIGH STREET PHOENIXを訪れたのだが、目的は「映画鑑賞」であった。上映まで少し時間があったので、リサーチを兼ねてBIG BAZAARというスーパーマーケットへ足を運んだ。
乳製品のコーナーを見ていたところ、やはり、おかしい、と確信した。
バターがないのだ。マーガリンしかないのだ。インドにバターがないなんて、どう考えてもおかしすぎる。先日のバンガロールのバター不足は一過性のものだと判断していたが、どうもそうではないような気がする。
家に戻って調べてみたところ、ここ数カ月のインドでは、全国的に乳製品不足で、しかもバターとチーズが品薄らしい。
ムンバイでは、小規模商店から大手スーパーマーケットに至るまで、8月からバターが欠品しているとのこと。もっとも、ギーやヨーグルト、牛乳などは出回っているが、値上がりしている商品も多いようだ。
ムンバイのあるマハラシュトラ州以外にも、コルカタのある西ベンガル州などいくつかの州において、バターが劇的に不足しているとのこと。
バターの原材料となる牛乳不足の原因は、モンスーンにあるらしいが、しかしモンスーンが明けた今なお、バターが不足しているその原因は、インド乳製品大手のAMULにあるらしい。
あの、ユニークな広告でおなじみのAMULである。
記事によると、インドで製造されるバターの、なんと80〜90%はAMUL製なのだとか。この乳製品王国において、なんという独占市場!
そのAMUL。牛乳が少ないとはいえ、バターやチーズは大量に生産しており、しかしそれらを米国や中東に力一杯輸出しているらしい。もちろん、輸出した方が利益率が高いからだろうが、国内をおろそかにして輸出とは……。
しかし、乳製品に限らず、輸出を優先するのは、インドでは珍しくない趨勢である。
このところ、インド製の「美味チーズ」をいくつか発見して、そのことを書こうと思っていた矢先。
チーズについては、また別の機会に記したい。
ちなみに我が家(ムンバイ宅)では、PARSI DAIRYのフレッシュバター(賞味期限30日の新鮮バター)を使用しており、これは問題なく入手できる。
左の写真、下部がそれである。
あっさりとしていて、インドのバターにしては風味は浅いが、新鮮でおいしいバターだ。
AMULのバターが入手できないことから、他のブランドのバターも買い尽くされているに違いない。
インド人の食生活には不可欠な乳製品。
特に低所得者層の人々にとっては、わたしたちには小さいと思える値上げですら、家計に大きく響く値上げである。
AMUL、時流にのった広告はもういいから、早く、なんとかしてほしい。
●待望の『ジュリー&ジュリア』を見た。楽しい映画だった。
今日はこの映画のことを、あれこれと書きたかったのだ。
なのに、サルワール・カミーズやバター不足の話題が図らずも長くなってしまった。
ともあれ、見たかったこの映画を見に、HIGH STREET PHOENIXを訪れたのだった。
週末に夫とともに行こうと思っていたのだが、先週末は二人して、込み合うモール内のシアターに行く気力がなく、やめた。
そもそもわたしが特に見たいと思っていた映画だったので、一人で行くことにしたのだった。
案の定、映画館は空いていて、ゆっくりと見ることができた。
米国にフランス料理を広めたジュリア・チャイルド。
彼女のレシピブックに基づいて、1年間、毎日料理を作り続けてブログに記録を書き留めたライター志望のジュリー。
実話に基づいた映画である。
2002年。30歳を目前にして、不本意な仕事を続けていることにジレンマのあるジュリー。ライターを志望しているものの、最初の一歩を踏み出せない。そんな中、夫のアドヴァイスを受け、自分にプロジェクトを課した。それは、500を超えるジュリア・チャイルドのレシピを1年間ですべて作ってみることだった。
一方、50年前のパリ。夫の赴任に伴い、パリに駐在するジュリア。しかし他の駐在員夫人たちのように、帽子作りやブリッジを楽しめない。食べることが大好きな彼女は、料理学校に通い始める。おっとりマイペースだが、一方で強い情熱を持つ彼女。紆余曲折の末、米国で初めての、フランス料理のレシピブックを出版するに至る。
この映画は、二人の女性が織りなす、食と仕事と人生を巡る物語だ。
ジュリーも、ジュリアも、何かを探している。それを見つけ出そうとあがいている。そばでは、伴侶が力を添えてくれている。
食べることが好きな人は、山ほどいる。
料理をするのが好きな人も、大勢いる。
自分のレシピを公開している人も、たくさんいる。
しかし、その先のヴィジョンが見えていて、そこに向かって走り通せる人はあまりいない。
走り通した果てに、稀少な果実をつかみ取れる人は、ほとんどいない。
つかみとった稀有の果実は、しかし咀嚼され、やがて、次を欲する。
普遍的で、かけがえのない「食事」をテーマに、やさしく、しかし力強いメッセージがちりばめられた、楽しい映画だった。もっと料理をしたくなった。
もっといろいろと書きたいことがあったのだが、ともあれ。興味のある方は、こちらのサイトをどうぞ。