明日月曜から数日間、日本から視察旅行に訪れるクライアントのアテンドだ。今回はバンガロールのみで、わたしは他都市へ移動する必要がない。
猛暑らしき東京から訪れる人に、「バンガロールは涼しいですよ」と言っても、なかなかピンと来ては、もらえないだろう。高原とはいえ、南インド。南インドという響きだけで、「暑そう!」と思われてしまうものである。
ここしばらくのバンガロールは、尋常ならぬ涼しさだ。カルナタカ州南部の上空に、低気圧が停滞しているらしく、厚い雲が日射を遮り、空気が冷たい。今日は風も強く、わたしは長袖のシャツに靴下まではいている。
信用ならぬといいながらも、毎日目を通しているタブロイド紙 Bangalore Mirrorの、天気に関する記事。
English weather in Bangaloreという見出し。
Why go to London? Stay here. The weather is exactly same.
またしても、突っ込みたくなる記事である。
ロンドンとバンガロールでは、気候が同じでも、それ以外のすべてが違うやろ!
ともあれ、これから数日、まだ涼しさ(肌寒さ)は続く見込みだ。健康管理を心がけたい。
さて、今回のクライアントは、インド他都市の訪問経験はあるものの、バンガロールが初めてだとのこと。
世間ではIT都市と呼ばれており、確かにテックパークも数カ所に点在し、世界各国のIT企業がこの地を拠点にはしているものの……。
道路で迷い子牛がモォーモォーと盛大に鳴いていたり、突然ヤギの群れが路傍に現れたり、立ち小便の男衆が風景を彩り、馬車や牛車が通り過ぎて行ったりする様子を見て、
「やっぱり、インドはインド……」
と思われるに違いないことであろう。
中心街を走る限りにおいては、
「ここの、どこが、IT都市?」
と、問いかけたくなることしきり、の街だもの。インドだもの。
ところで。ニューヨークで仕事をしていたときも、今と同様、取材や視察旅行のコーディネーションを行って来た。
クライアントと直接やりとりをし、わたし自身がアポイントメントを入れるなど、前準備も含めての仕事が大半だった。
取材や視察の内容にもよるが、3週間から1カ月前に話が来て、2週間前くらいからアポイントメントを入れ始め、1週間前には予定がフィックスしている、というのが理想的な流れであった。
それは確かに、簡単な作業とは言い切れない。クライアントの滞在期間が短ければ短いほど、スケジュールは詰まり、1つの変更があちこちに波及、作業がふりだしに戻ることもある。
それでも、対応すべきであり、対応して来れた。それもまた、仕事のうちだと当然のように思っていた。
アポイントメントを入れずに、わたしが適当に街をご案内する、という仕事であれば、ノープロブレム。
もちろん下調べは自分でやれる。自分が作業をして、それが即ち成果(知識)になり、アテンドの中で知る限りの情報を提供する。知らないことは、あとで調べ直すこともできる。
自分自身の努力で解決することであれば、時間も労力も読める。しかし、他者が介入するとたちまち、そこは魑魅魍魎の世界、いや、操縦不能な世界となるのだ。
インドにおけるスケジュール調整。それは、日本はもちろん、ニューヨークのそれの、何倍もの労力を要する。いや、精神力(忍耐力、根気強さ)といってもいいだろう。それがどんな業種の人であれ。
仕事以外の、たとえば日常生活においても、業者その他とアポイントメントを取るということは、ひとつの「賭け」のようなところがある。
予定通りに事が運んだら、それは驚きであり感動だ。
だからこそ、なんにつけても「疑り深い性分」になってしまう。
"confirm"という響きが、限りなく頼りない。
"100% sure"という返事が、むしろ怪しくも哀しい。
"I'll be there 10 o'clock sharp!" との断言が、期待するなと警戒させる。
たとえば会社を経営していて、セキュレタリーを抱えており、アポイントメントを取る専門のスタッフをやとっていれば、その人間に調整を任せることも、できるだろう。
しかし、わたしの場合、インドにおいては現在のところフリーランスで、その仕事を任せる人はいない。自分でやれないこともないが、やりたくない。たとえギャラが少なくなったとしても、だ。
そこで時間を費やすなら、違うところでエネルギーを使いたい。そう思えるくらいに、それは一筋縄ではいかないことなのだ。
幸い、今回の仕事は、わたしとクライアントを結ぶ、わたしにとっては直接のクライアント(インド拠点)が存在し、そこから仕事を請け負っている。
彼らがアポイントメントをいれてくれているので、その点は楽である。あくまでも、その点においては。
しつこいようだが、インドにおける、アポイントメントを取りつける作業。それは、なんと表現すればいいのだろう……。
トンネルを抜けたら、そこは雪国でも、ましてや春の野原でもない。すぐさまトンネルが出てくる。で、抜けたかと思ったらまたトンネル。出た、あ、またトンネル。
いったいこの先、どれほどのトンネルをくぐり抜ければならないのか、それは誰にもわからない。もう、目的地がどこかさえ、わからなくなってしまうこともある。
といった感じか。そして、繰り返される同じような会話。それはまるで、デジャヴのごとき世界。
「だから、その話はさっきしましたよね!!」
と、ついシャウトしたくなるような展開。
映画『Groundhog Day』のようでもある。今、邦題を調べたら、『恋はデジャ・ブ』であった。そのまんまである。
そんなインドでも、もちろん「いい点」はたくさんある。それがたとえ、努力して思い出さなければならない種類のものだったとしても。
たとえば、仕事関係の人たちはみな、「プライヴァシーの侵害」などを意に介さない世界に生きているらしく、公私混同は当たり前。即ち個人の携帯電話の番号を、気軽に公開してくれるのだ。
店の広告、看板、名刺その他に、自分の携帯電話番号を明記するのは一般的。だから「営業時間内に、急いでやりとりをせねば」という心配はない。
米国時代は9時5時きっかり、それからあとは、コンタクトを取るのが不可能というケースが多数だった。それを思えば、その気になれば深夜でも捕まえられるところがすごい。
我が夫。コンピュータを購入した際、店のシステム担当の男性の携帯電話番号を聞いていた。以来、コンピュータの不具合が生じるたび、それが夜の10時だろうがなんだろうが「試しに、かけてみる」といって電話をする。
「夜遅くに悪いんだけど……」と夫がいえば、先方も相手になってくれ、電話越しにトラブルシューティングの指示をしてくれるのだ。あり得ん。
その男性の対応は非常に的確で、100%復旧する。彼自身は、もちろんコンピュータに向かっているわけでもない。ひょっとすると友だちと遊んでいる最中かもしれない。片手にビール瓶を持っているかもしれない。
にも関わらず、その親切さは驚きに値する。
ちなみに、たいていの場合、「アポイントメントがぎりぎりまでとれない」という状況だが、だからといってクライアントが手持ち無沙汰な状況になったり、収穫のない視察旅行になることは、決してない。きっと。多分。願わくば。
その場その場の「臨機応変な対応」でなんとかなることの方が、多いと思われる。
インドで仕事をする上で、あると便利なものの例を挙げるとするならば、
柔軟性。機転。代替案。丈夫な胃腸。決断力。忍耐力。寛容の心。平常心……。といったところだろうか。
もちろん、専門的な知識なども必要だろうが、それはインドに限らずどこの地においでも、である。なんだかまとまりなく書いているな。この辺にしておこう。
話は変わるが、今週もまた注文したところのERA ORGANICの「ふぞろいな野菜たち」。この山盛り野菜が800円程度というのは、本当にありがたい。
ありがたいなどと言えるのは、しかし、この国においては、ピラミッドの上位に暮らしている立場だからこそ。
右写真の記事は、2008年から2009年、2009年から2010年にかけての、野菜卸売価格の上昇率を示している。
記事にある通り、「ORDINARY PEOPLE」、つまりこの国のピラミッドの、幅広く土台の部分を占める庶民にとっては、ここ数年の野菜の高騰は、死活問題だ。
貧富の差は、目に見えて、拡大している。
最近ではBOPビジネス(Base/ Bottom of the Pyramid。すなわち貧困層向けのビジネス)に注目が集まっていて、それに関連する記事その他、目にする機会が少なくない。
しかしこの貧富の差の問題は、ビジネスという側面から割り切って取り組むことで、果たして「正しい実り」があるのだろうか、という漠然とした疑問が残る。
マイクロファイナンスに関する国内銀行の広告なども、このごろはよく目にするようになった。フェアトレードにしてもしかり。
などとあれこれ書くには、わたし自身の情報があまりにも少な過ぎる。この辺にしておこう。
ところで夫に、BOPビジネスについてを尋ねようとしたら、書棚から一冊の本を取り出して、「これを読みなさい」と言われた。
さすが、仕事に関しては反応の早い男である。
などと感心している場合ではない。
パラパラと、めくればたちまち、読む気をなくし。
などと、七五調で語っている場合でもない。
ま、こういう本があるんだよ、ということで。
さて、今日はまた、夫の好物である「大根と豚肉の煮付け」を作ろう。いんげんの炒め物も添えて。
ちなみに夕べはまた、夫の好物であるカボチャを炊いた。喜んで食べ尽くしていた。夫の味覚が柔軟なお陰で、すっかり「日本人化」してくれたことは、本当にありがたいことである。
さらには、おいしい野菜をたっぷりと食べられることに、感謝。
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