母が用意してくれていた爽やかな日本酒を飲みつつ、福岡第一夜は更けてゆく。
空から眺める市街は、多分いつもと変わらぬ明るさ。着陸直前に目に飛び込む、しかし、「パチンコ・マルハン」のまばゆいネオン。あれは、少し控えてもいいのでは? と思えるほどに目立つ。
東京では、タクシー移動のたび、運転手さんと話をした。景気のこと。街の様子のこと。
震災直後に比べると、一時盛り返したが、また再び落ち込み始めた、と言う人。
六本木辺りを走っているときに、その「静かさ」に驚いたわたしが「ちょっと寂しいですよね」と言ったら、すかさず、「すごく、寂しいです」と言った人。
普段、路傍にあふれる人や牛や野良犬に見慣れているわたしが、整然と静かな町並みを寂しいと思うのは当然。
日本にずっといれば、特に寂しい訳ではない普通の光景だろうと思おうとしていたのだが、やはり、寂しいのか、としんみりする。
一方の福岡。
昨日、軽く天神あたりを歩いたが、1年前と様子は変わりなく、元気で、豊かそうにみえる。
豊かさ。
この国は、つくづく、すごいな。と、今回は、しみじみと、思う。
バブル経済崩壊以降、久しく「不景気」と言い続けてきながら、しかし、こんなにも「物質面においては」豊かそうに、いや、豊かにみえるではないか。
なにもかもが、きちん、きちんとしてをり。
と、この話題については、また別の機会に譲るとして。
一昨日は、朝、昼と、実家で日本の食事。健康志向かつよく食べる母の手料理でもてなされ。
10カ月ぶりに会う母は、肌の色つやもよく、元気そうだ。
昨年、アーユルヴェーダの治療でずいぶんと好転した膝の調子も、好調に維持しているようで、手術以外に治癒の方法がない、と日本の医師に言われていたことが嘘のようである。
自然食品の個人宅配を行っている「九州産直クラブ」というサーヴィスを利用している母。
これがまた、母の元気の源なのだろうと実感する。
食品だけでなく、生活用品もさまざまあり、安心できる品質だとの印象を受ける。産直の素材を用いた料理は、いずれも非常においしい。
さて、午後は、妹の運営するパソコンスクール『アポロ福岡』へ。
前回の帰国時同様、今回も受講生の方々へのレクチャーを依頼されたので、赴いた次第。
という以外は、特にテーマに関する要望がなかったので、ひとまず、湯のみとお揃いのサリーを(嘘)。
偶然、湯のみと同じ色のサリーであった。
さて、パワーポイントの資料は、東京のクライアントでのプレゼンで使用したものを流用。
だからといって、手を抜いたわけでは、もちろんない。
話の内容は、かなり異なる。
クライアントでは、インドに詳しい方、すでに訪れたことのある方も少なくない。
ビジネスに結びつくような情報も、織り交ぜる必要がある。
一方、パソコンスクールの受講生の方々は、年齢、性別、職業の幅が広く、インドに関する予備知識はほとんどお持ちでないはず。
同じテーマの同じ内容を説明するにしても、切り口を変える必要がある。加えて、説明の速度を落とし気味にする必要もある。
東京では「インドの衣食住美」を1時間半で語ったところを、福岡では、「美」を削除して「インドの衣食住」を、2時間かけて、話した。
約100ページに亘るパワーポイントには、主に写真を載せている。それらを見て、イメージを膨らましてもらいながら、実態を語る。
意外だったのは、東京でも、福岡でも、テキスタイルの紹介で、男性の方々もかなり真剣に、サンプルでお持ちしたサリーや布の手作業に見入ってくださったこと。
ファッションとしての側面ではなく、伝統工芸、手工芸、ガンディのカーディ(手紡ぎ、手織りによる衣類)の理念、また独立運動との関係、機械化に対する抵抗……といった歴史的背景も説明。
単に「衣類としての布」を超えた要素が、そこに詰まっていることを、感じていただけたのだと思う。
2時間、間断なく語りしあとは、サリーの着付けを実演。そもそも、5メートルのサリーの布を、どど〜んと広げて見せるだけで、「うわ〜っ!」と声があがるというもの。
さらにはそこに、細かな刺繍や精緻な織りが施してあるとなると。
驚きもひときわ、のプレゼンテーションだ。
特に、見るからに「作業、たいへんそう!」がすぐにわかるチカンカリの刺繍は、みなさんの感嘆を集める。
もっと多くの人に、このインドテキスタイル、サリーの魅力を楽しんでいただきたいとの思いを強くする。
というわけで、福岡にて「インドの衣食住講座」ご希望の方(団体)、今月16日まで福岡におりますので、ご一報ください。夜の予定はいっぱいですが、昼間なら、参上いたします。
ということを、もっと早めに営業すべきだったな。
そして夜。帰国時には必ず訪れる新宮の寿司や「大政寿司」へ。父の存命中、わたしのニューヨーク在住時より、帰国のたび、訪れていた。
アルヴィンドも数回、来たことがある。
ともかく新鮮で、たまらんごと美味な寿司刺身が、リーズナブルに味わえるのだ。刺身の盛り合わせでまずは始まり、その後、好みの寿司や刺身を少しずつ注文し、味わう。
寿司刺身大好きなマイハニーにも、食べさせてやりたいというものである。ちなみに、一人外食苦手。ヘルシー食を希望する我が夫。
出発前の妻には当然「作り置き」を希望していたため、昼夜20食分もの主菜を準備して冷凍しておいたのだが!
ハニーはここぞとばかり、出張を入れ続け、現在時点で2食分しか消費していないらしい。
で、今日は、「ローカルフード探検隊」のU-KO隊員一家とともに、例の日本料理店「EDO」にて、寿司刺身三昧なサンデーブランチを楽しんでいるらしい。
で、来週はムンバイ出張で、3、4日、不在らしい。
そんなこったろうと思ったよ。
さて、土曜の昨日は、初めての「洋服」による、外出だ。午後、天神へ赴き、界隈を散策したあと、インドでのビジネスを準備している方(青年)にお会いする。
またしても、インドを語る2時間足らず。
海外を目指す若い人たちが減り始めている、という話を聞いているだけに、インドで活路を見出そうという好奇心旺盛な人を見ると、つい、がんばってほしいと思わざるを得ない。
今回、日本に帰国し、さまざまを見るにつけ、若い人たちの野心が徐々に損なわれても、それは仕方がないことなのかもしれない、と感じた。
「ゆとり教育云々」もよく耳にするが、それだけではなく、諸々の時代背景が、今日の日本の若者の、精神構造を育んでいるわけであり、それをして否定的に語ることは、なんだか気の毒なことだとさえ、思えるのだ。
ということについては、また改めて、綴りたい。
ところで、土曜日のランチ。「熟考の末」、約10年ぶりに「一蘭」のとんこつラーメンを。今のところ、わたしの好みは、「ニューヨークの」一風堂。
福岡の一風堂よりも、ニューヨークの方が好みなので、今回は、一蘭にした次第。正直なところ、仕切りのある狭苦しいレイアウトは好みではないのだが、ま、ひとりだし、いいやろ。
「ただ、味わうことだけに集中できるように」とのことらしいし。
基本、薄めの味がいいかとも思ったが、なにしろ10年も食べていないからそもそも、基本の味がわからない。というわけで、「基本」を重視。
人と会う前なのに、ニンニクを少々いれてしまった。ま、いいやろ。
これがね〜。かなり美味だった! 味が濃かったので、次回は薄味系だな。が、ともあれ、おいしかった。
本気で「替え玉」に行きたかったが、その後、待ち合わせているカフェ(新天町の「典」)のお菓子がおいしいとの情報を得ていたため、ここでは我慢して、スウィーツ用のスペースを確保することにした。
ちなみにこの「典」では、季節のお菓子ということで、モンブランとコーヒーのセットを注文したのだが、モンブラン、おいしかった〜〜。
で、お土産にと、その青年からいただいたシュークリームがおいしかった〜〜。厳選された良質の素材が用いられているらしき、やさしき菓子。という感じである。
昔から、デパートと言えば、「岩田屋」。というわけで、福岡では必ず立ち寄る、岩田屋。そして訪れるたびに、日本の豊かさを痛感するデパ地下。
今回ばかりは、いつものような「過剰?」という意識を超えた。
やっぱり、この国って、すごいな。
という感嘆の心の方が、強かった。日本。国民一人一人の底力、のようなものに支えられ、規律正しく美しく、整然と丁寧に。
このすごさが普通になっていて、ここにありがたみを感じず、また満足しないというところに多分、あるとするならば、悲劇があるのかもしれない。
常に向上せずともいいではないか。現状維持でもいいではないか。品種改良だの新製品だのを、創出し続ける必要はないではないか。
ゆっくり、この豊かなしあわせを、噛み締めようよ。
と、思うのだ。
さて、土曜の夜は、やはり福岡帰省時には外せない、「大東園」。焼き肉屋だ。ここもまた、父が存命時からよく訪れており、アルヴィンドもやはり、数回、来ている。
先の「大政寿司」とこの「大東園」。この2軒をおさえれば、わが福岡での食はとりあえず、満足。ほんと、おいしいよ。
写真の掲載はこの辺にしておくが、ともかく、食べた。飲んだ。幸せな夜であった。
いくら牛肉が手に入るとはいえ、これほど美味な焼き肉をインドで作るのは、当然ながら不可能。
いろいろな牛肉の食べ方があるけれど、わたしは韓国風がやっぱり好きだなあ。と改めて。赤ワインともよく合うし。
というわけで、ワンダフルに、福岡滞在は幕を開けたのだった。
ところで、福岡。蒸し暑い。バンガロールを遥かにしのぐ、ムンバイ的蒸し暑さ。少し涼しくなるだろうと、長袖の服を多めに持って来ているのだが、さほど着る機会はなさそうだ。
さ、スクワット&ボクササイズ、がんばらな。
夫に言ったら、「壁、ぶち破らないようにね!」と注意された。確かに。日本の家、基本、狭いからね。