所用でバンガロール市街の西側へ。久しぶりに、「レインツリー」と呼ばれるブティックを擁したバンガローを訪れた。ここはインド移住当初からお気に入りの場所。
バンガロールがまだ「ガーデンシティ」と呼ばれていたころ。今から20年余り前までは、街全体が樹木に覆われ、だから夏の最中でも、涼しい歩道を歩くことができたという。
街を行き交う車は少なく、ゆえに信号も要らず、高層ビルディングはほとんどなく、英国統治時代の面影を残す「バンガロー(平屋一戸建ての邸宅)」が、この街の住まいを象徴していた。
広々とした敷地に佇む白やクリーム色の上品な建物。「モンキートップ」と呼ばれる、窓の上のレースを思わせる装飾が特徴だ。これは、雨季には雨水を避け、夏季には太陽光を和らげる役割を果たしている。
今では、風情のあるバンガローは悉く消えてしまったが、商業施設としては、先日訪れたホテルのTaj West End、Raintree、やはりブティックを擁するCinnamonやHatworks Boulevard、パーティ会場として使われているBungalow 7などがある。
喧騒の通りを離れ、これらの建物に入った瞬間、懐かしい心持ちにさせられる。今日訪れたレインツリーは、広大な敷地に大きなレインツリーと呼ばれる木があることから、そう呼ばれている。仰げば、自ずと深呼吸してしまう。
特に買い物をする当てはなかったが、衣服や小物、アクセサリーなどを眺める。以前はしばしば、ここで買いものをし、カフェでコーヒーを飲み、くつろいだものだ。バンガローの魅力の一つは、タイルの美しさ。それぞれの部屋に、異なるタイルが敷き詰められていて、それがとても味わい深い。
レインツリーを一巡したあと、マレシュワラムへ。ここは昔ながらのバンガロールの面影が残るエリア。日本人も多く住むブリゲード・ゲートウェイという複合施設や、マントリ・スクエアモールという巨大なショッピングモールができてからは、少しばかり様子が変わったものの、目抜通りのサンピゲ・ロード (Sampige Road) は、昔ながらの雑然とした喧騒に満ちている。
さまざまな小売店が軒を連ねるこのエリアは、地元の人々に人気の、おいしいドサやイディリを出す、南インドローカルフード店もそこここに点在している。かつて、ローカルフード探検隊を結成していたころ、よく訪れたものだ。
一隅で、祠の神像に何かを塗りつけているおじさんがいる。問えば「米のペーストを塗りつけている」とのこと。今日は何かの祝祭らしく、米のペーストを塗ったあと、花でデコレーションするらしい。
久しぶりにフラワーマーケットに立ち寄る。ジャスミンのなんともいい香りが立ち込める。これらの花は、儀礼(プジャー)に使われるなど、神に捧げられたり、女性たちの髪を飾ったりする。
このあたりはまた、南インドの定食(ミールス)で皿代わりに使うところのバナナの葉がたくさん売られている。拙宅で大人数のパーティのときに使う使い捨ての皿は、乾燥した葉っぱをプレスして作られたもの。今ではエコロジカルな商品として、あちこちのスーパーマーケットで入手できるが、初めて購入したのは、ここだった。
軒先の子猫に和みつつ、ブドウなどを買い求め、花屋の前で「写真を撮ってもいいですか?」と尋ねながら、色とりどりの花を眺めていたら、店のお姉さんが、黄色い花を2輪、手渡してくれた。なんとも言えぬ、いい香り!! 返そうとしたら、「持って帰っていいから」とゼスチャー。
ありがたくいただく。車を呼び、小さな旅を終えた気分で、帰路につく。と、ドライヴァーのアンソニーが言う。
「マダム、花を買われたのですか? いい香りですね!」
「買ったんじゃなく、もらったの。これ、なんの花か知ってる?」
「それは、サンパンギです。木の花です」
フラワーマーケットのあった通り、Sampige Roadは、カンナダ語でサンピゲ、テルグ語でサンパンギと発音するようだ。帰宅して調べてみたところ、それは、わたしの好きなマグノリア(モクレン)科の花だった。6月から9月にかけて、花をつけるらしい。あの通りには、サンパンギ(サンピゲ)の木が、今でもあるのだろうか。次に訪れたときには、注意してみてみよう。