ロックダウン9日目。軟禁生活13日目。友人から送られてきたメッセージ。「2019年:ネガティヴな人とは距離を置こう」「2020年:ポジティヴな人とは距離を置こう」の言葉が、残念ながら言い得て妙だ。
昨日の記録を書く前に、今朝のことを。朝、モディ首相が国民にメッセージを送り、国民の協調を願ったことは記した通りだ。一方、インド人である我が夫は「モディの話? もう聞くに値しない」と吐き捨てて書斎へ。
「非科学的なこと言う前に、具体的な対策を出すべきだ」と、ロックダウンに入った直後からモディ首相の方針に不満を炸裂させていた夫。それはわかる。わかるが一筋縄ではいかんことも察せられる。夕飯のときは、モディ爺さんを庇う妻と、批判する夫との間で、何度も口論が起こった。
「非科学的? 地球を荒らしまくってる現在の人間は、そんなに偉いんですか?!」
「13億人よ、13億人。計画練ってたら、あっという間に全国ウイルス蔓延するわ!」
「モディ爺さん、今年70歳よ! 爺さんが倒れそうで心配よ!」
免疫力を落とさぬようにと断酒している夫。
「ミホは酔っ払って感情的になっている!」
と言われると、ぐうの音も出ない。
と、夫からWhatsAppが流れてきた。マレーシア政府が、女性たちに向けて発したメッセージ。
「ロックダウンの間は、夫にうるさく小言を言うのをやめなさい」
むかつく。むしろむかつく。記事は、深刻な夫婦間の問題に言及しているので笑えないが。
ロックダウンから10日間。夫は日々、世界各地の研究機関、専門家らとの、COVID-19世界における状況分析や情報交換に時間を費やしている。加えて株価のリサーチ、本業の対応など。ときどき猫と遊んだり食事をする以外は、1日の大半を書斎で過ごしている。
そんな彼と、昨日は二人で近所の八百屋と小さなマーケットへ買い物に行った。本来は買い出しは一家に一人と、ご近所コミュニティでルール決めされているが、超近距離につき。マスク、手袋で防備して出かける。1カ月前までは、こんな事態が日常になろうとは想像しなかった。3月1日時点、インドでの感染者は3名、死者0名。「コロナビールでコロナを飲み干そう」などと言っていたころが遠い昔。
1カ月前どころか、数週間前までは、世界各国の専門家たちでさえ、その多数がこの事態を予測していなかった。先日も記したIIS教授の義兄。ワクチン研究をしている彼でさえ、発症者が出たビルディングなどは閉鎖してしかるべきだが、すべてをキャンセルするほどのことではない。毎年もっと多くの人がインフルエンザに罹患し、死者は多いと話していた。3月10日のことだ。
しかしその直後、イタリアやイランでの死者が急増したころから雲行きが変わる。SNSでCOVID-19の感染力の強さに関する情報が飛び交い始めた。大人数での行動を控えるべく風潮となったことから、3月13日(金)のSTUDIO MUSEをキャンセル、3月15日の慈善団体訪問も大人数での訪問を取りやめた。そのころ、米国の感染者はまだ74名。死者1名だった。
インドがロックダウンを開始した3月23日、感染者は415名、死者7名。ロックダウンをしていてなお、現在感染者2301名、死亡56名に増えている。ちなみに米国では、現段階で24万人以上が感染し、6000人近くが死亡している。検査基準その他、国によってばらつきがある以上、正確な比較ができないが、「医療の現場が対応できるかどうか」が肝なわけで、そこに余裕のないインドでは、とにかく感染しては、させては、ならない。
インドでは、英語が第二言語で理解する国民も多い。ゆえに、感染拡大地での現状を伝える英文記事を瞬時に入手しシェアできる。加えて世界各地に散らばるNRI(Non Resident Indian)のネットワークの強さ。海外に暮らす身内からの情報が、リアルに拡散され、時に過度な恐怖心、ときに適切な警戒心を伴って周囲に広がる。無論、情報の真偽については、注意を払う必要がある。今ではCOVID-19に関するSNSでの転送、シェアは控えるようお達しが出ており、少なくはなっている。
海外にコネクションを持つ都市部の人たちは、使用人を抱える家庭が大半。彼らが使用人にさまざまな情報を与えることによっても、英語が話せないローカルの人たちにも、現状は伝わる。もちろん、ローカル言語のニュースソースでも、この事態は逐一、提供されている。無論、広大な国土につき、農村部などの状況は知る術もないが……。
今回の件で、日本が、諸々の遅れをとっている理由を挙げるとするならば、地理的な問題だけでなく、英語のニュースソースをライヴで追う人が圧倒的に少なく、日本のメディアに翻訳された偏った記事だけが、海外情報を知る窓口になっているというのも一因だろう。一刻も早い行動制限を。
もう時間がない。