ロックダウン14日目。軟禁生活18日目。あくまでも、「オフラインにして周囲のことを考えず」「自分のことだけ」を考えて言うならば、この時間が止まったかのような、宙に浮かんだ日々の蓄積は心地よい。
当初は、生活インフラと食料供給の心配はないにせよ、「3週間、自宅から一歩も出られない」という現実を前にして、どうなることかと思った。しかし、ロックダウン数日後から、如実に感じられた空気の清澄、緑の輝き、生き物たちの息吹……。
毎朝、鳥の歌で目覚める。爽やかな空気に包まれながら、草を踏みしめて体操をする。中空でトンビが旋回する。猫らに餌をやる。庭に水をまき、部屋を清め、衣類を洗い、シャワーを浴びる。朝食の準備をする。漂うコーヒーの香りにさえ、幸福感を覚える。
メイドに頼んでいた仕事をするのは、確かに手間だ。しかし、インド生活以前は自分でやっていたこと。自分のことは自分でやることは、面倒でも尊いことだったかもしれない。
庭の小道を往復しながら、久しき人間の奢りに思いを馳せる。遍く地球環境への敬意を喪い、人間の利便性や快適を追求し続けた挙句、果たしてわたしたちの心身は健全や安寧を得られてきたのか? 個人規模と地球規模のテーマが、今まで以上に著しい速度で行ったり来たりの日々でもある。
尤も、当初の懸念は自分自身のことより「夫と二人きりで過ごすこと」であった。確かに、相変わらず意思の疎通が図れず、口論になることはある。しかし普段よりも圧倒的に、バトルが減った。各々別の部屋で過ごしており交流する時間が短いということもあるが、「あれをやらねば」「これをやらねば」という諸々が、劇的に減ったからだろう。
そんな中、昨日は別の波風が立った。少なからず、ミューズ・クリエイションのメンバーたちが、12日から14日に出される日本航空のバンガロール発成田行き臨時便で帰国される。
昨年の11月。機内誌『SKYWARD』の取材をしていたときには、まさか記念すべき直行便の就航が、日本からの乗客を乗せず、インドから日本へ帰る人だけを乗せる便になろうとは、思いもよらなかった。
この時期、すでに帰任が決まっていた人だけでは、もちろんない。会社側から任期を短くさせられた人もいる。夫婦揃っての帰国ならまだしも、妻子、あるいは妻だけを強制的に帰任させる会社もある。帰国希望をしているならまだしも、夫婦で一緒に残りたいという人さえも、会社命令が出ているという事態の理不尽さには、言葉がない。
こんなときこそ、本人が望むのであれば、夫婦や家族が一緒にいるべきではないのか?
「こんな形で、みなを見送ることになるなんて……」
と思いつつ、昨夜、お気に入りの音楽を聴きながら食器を洗っていた。そして、つい2カ月前のことを思い出していた。ジャパン・ハッバでお店を出したり、ピンクレディを踊ったり、パプリカ歌ったりしたことを思い出したら、泣けてきた。茶碗を洗い終わっても涙が止まらず、ステンレスをゴシゴシと磨き始めた。
そうしたら、20代の一人暮らしのころ、辛いことがあるたびに、泣きながらステンレスを磨いたことを思い出した。古いアパートの台所のステンレスは、いつもピカピカだった。ついでにそんな若かりし自分の過去を思い出して、泣きに拍車がかかっていたところ、夫がやってきた。
「ナンデスカ?!」
と言いながら、音楽をぶちっと切る。気持ちの盛り上がりが断絶されて我に返る。いや、今いい気分で泣いてたんですけど。
泣いている理由を聞くので説明する。と、
「今どき、Zoomもあるし、別にいいじゃない。コロナが収束したら、またみんな帰ってくるんでしょ? そんなに心配すること?」
自分のことは、些細なことでも一大事、わたしのこととなると限りなく軽く取り扱う男。心の機微を説明するのも面倒になり、ステンレスの泡を洗い流して手を洗う。彼にしてみれば、そこまで嘆くほどのこともないだろうという思いやりなのだということにしよう。
泣いたら非常にすっきりした。思い切り泣くのはストレス解消になると言われているが、確かにその効果は高そうだ。検索してみたら、いろいろ出てくる。泣いてストレスを解消する「涙活」ってのもある。なんじゃそりゃ。ともあれ、今、ストレスがたまっている方、涙活、結構おすすめです。
https://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/feature/130226/index.html
本日の猫写真&動画は、長男ROCKYと次女CANDY。2匹とも小顔デブ。ROCKYは、しばしば「猫背のおやじ」や「草履温め藤吉郎」と化す。動画では、CANDYのジャイ子っぷりが捉えられている。ほんと、誰にでも突っかかっていく。悪い。保護した時には、今にも死にそうで弱々しかったのに。猫被ってたのか。猫だけに。