ロックダウン15日目。軟禁生活19日目。煌々と、闇夜を照らす、満月の光を浴びながら、極東の故国を思う。たとえ四半世紀以上、異国で暮らしていたとしても、わたしは日本人だ。改めて、書いておきたい。
2月ごろの新型コロナウイルスと、現在の新型コロナウイルスとでは、すでに、諸々の認識が違う。
咳やくしゃみや濃厚接触がなくとも感染するとされている。ゆえに、急激な患者増加によって医療現場が混乱し受け入れ不能になることが問題となっている。
「三密」を避け、マスク着用や手洗いを励行するだけでは不完全。それらはあくまでも「最低限すべきこと」だ。三密をアピールすることが、逆に「三密さえ避けていればいい」という誤解を生んでいる気さえする。
ウイルスは、ダンボールの上で1日程度、プラスチックやステンレスの表面では2〜3日も生き延びるとの研究結果が出ている。つまり、無人の場所でも、感染者が触れたところを触ったら、感染する。
たとえば、感染者がコンビニに行ったとする。買い物かごを持って冷蔵庫へ向かう。ドアをあける。ビールを買おうとキリンを手に取る。やっぱりやめたと棚に戻してアサヒを手に取る。……やっぱり今日はエビスにしようと、エビスを取る。他にもあれこれ商品を吟味する。レジで支払う。カゴを戻す。店を出る。
直後に別の人が同じカゴを手にする。そこで感染。
別の人が手ぶらで冷蔵庫へ向かう。ドアの取っ手を触る。そこで感染。
別の人がキリンを買う。感染。
別の人がアサヒを買う。感染。
この程度で、感染の可能性があるのだ。大半の人は感染しても発症しないが、人にうつしてしまう。
この感染度に関する記事をご覧いただきたい。
https://www.afpbb.com/articles/-/3277051
この事実を知った時、「世界は、こんなところまで来てしまったのか……」と暗澹たる思いがした。しかし家にいて、極力、他者との交流を防げば、感染機会はほぼない。
欧米での急速な感染拡大に伴う新たな情報を基に、即断されたインドのロックダウン。外出禁止令が出て、モディ首相からロックダウンの実施声明が出た直前の3月22日、インドの感染者数は283人、死者数は4人だった。その段階で、すでにロックダウンが決定されたのは、ほかでもない、インドの人口が日本の10倍の13億人もいて、衛生環境も悪く、医療の環境も不十分だからだ。
ここで感染が広がったら、国は壊滅的な打撃を受ける。多様性の極みのこの国にあって、宗教やコミュニティの別なく、今は協力し合わなければ、共倒れになるということを、我々はわかっている。
必要最低限の職種とサーヴィス(詳細は即時通告)を除き、市民は自宅待機である。当初こそ反発もトラブルもあったが、随時、善処されている。今ではロックダウンを予定どおり1週間後に終了することを懸念する声も、市民らの間に広がっている。多分、すぐに元通りの暮らしに戻ることはないだろう。
州ごとに法律が異なる環境の中、しかしそれぞれに徹底した感染防止策が取られており、国民らも、自らのコミュニティを守るために、助け合いながら暮らしている。
・ソーシャル・ディスタンス(人と人との距離を1.5〜2メートル)を保つ。
・できる限り家にいる。
・外部と触れたら、手を洗う。
たったこれだけのことで、感染は防げる。
参考までに、2週間前にロックダウンが開始された翌日、住んでいるコミュニティの役員から流れてきたメッセージをシェアする。
「インド全土で外出禁止令が出されましたが、食料や薬など、生活必需品を買うための外出は許可されます。以下の注意事項に従ってください。
・1人だけ:一家から大人が一人だけ、外出できます。
・1着だけ:外出時は極力、全身を覆う同じ服を着用。
・財布は1つ:出かけるたびに財布を変えたり、他の紙幣やコイン、カードなどを混ぜない。
・買い物袋は1種:買い物の時には、毎回同じ買い物袋を使う。
・車は1台:同じ車、同じ鍵を使って外出。公共交通機関は使えない。
・1回ですませる:何度も出かけない。当面必要な買い物は、極力1回ですませる。
・人混みを避け、買い物がすんだら速やかに帰宅する。
・帰宅したら、外出時に持参した財布や鍵、バッグ、衣類などすべてを一つのバッグに入れて、他のものと混ざらないようにする。
・家の中のものを触る前に、顔と手をしっかり洗う。
・携帯電話の表面をサニタイザーで拭く。
わたしたちは、感染を避けることはできないが、感染を減らすことはできるということを、忘れないでください。」
……近所に感染者がいるわけでもないのに、ここまでするのだ。
今、生きている人間が経験したことのない、地球規模の、未曾有の危機的状況に陥っている現在。「前例のない事態」に、「前例がないから」と、対応を躊躇していいものか。
「コロナ後の世界」を見据え、未来の負担を最小限にとどめねば。大多数の人は、たとえ感染しても命に別条はない。しかし、弱者は落命する。そのことをも、わたしたちは心しておくべきだ。