「日本の医師が3Dプリントできる人工呼吸器のデータを無償提供 世界的プロジェクトへ」という下記リンクとともに「Arvindさんの友人で3Dプリンタを持っている人はいない」かという主旨のメッセージが、デリー在住の繁田奈歩女史から届いたのは、この記事が書かれた3月21日。
3Dプリンターを持っている関係者は、わたしも知っている。英語版の企画書を送付して欲しいと返信した。
3月23日。手元に企画書が届いた直後に、夫に転送して事情を説明。彼は、あっという間に、3Dプリントが可能で信頼できると関係者を確保。WhatsAppに3D Printing Ventilator-1から5まで、5つのグループができた。わたしも、それぞれのチームに入れてもらい、進捗状況を見ている。
翌日24日。インド全土でブロックダウンに入ったその日から、早速、試作パーツがプリントアウトされはじめた。最初は肝となるパーツ1つのプリント(製造)。チームごとにばらつきはあるものの、とにかく反応が早い。数日後には、他のパーツのデータも送られ、出力される。ロックダウンで身動き取りにくいはずなのに、次々と進捗が届く。
バンガロールで学校経営をしている友人(インド人女性)のチームは、最も精力的に取り組んでおり、周辺機器も準備可能。コストなどの計算もあっというま。日本からのゴーサインが出れば、すぐにも商品化できるところまできている。
夫は、製造だけなく、「出来上がったら大量に購入する」という購入先もいくつか確保。本来であれば、諸々の手続きを踏むべき機器であることは重々承知だ。しかし、COVID-19の爆発的な感染により、人口呼吸器が圧倒的に不足していることは、地球規模での認識事項。
今この瞬間にも、呼吸器があれば助かっていた命の火が、次々に消えている。今すぐにも、製造に着手でき、1分でも、1秒でも早く、多くの病院が人工呼吸器を確保できることを切望してやまない。
世間からは温和な印象の夫が、日々、繁田女史にぐいぐいと圧をかけている。普段の「猫おじさん」とのギャップが激しすぎて申し訳ないくらいだ。諸々の速度が異なる日本とインドを結び、情報を行き来させている彼女のたいへんさは、察するに余りある。
夫は現在、この件だけでなく、ワクチン開発をしている義兄のサポートもしている。生物物理学者であり、IIS(インド科学大学院)の教授でもある義兄は、これまでHIVやインフルエンザのワクチン開発に取り組んでおり、SARSのワクチン研究も行ってきた。彼曰く、COVID-19のワクチンは、SARSワクチンを応用できるとのことで、動物実験にかかっている。夫は彼が実験に必要な材料を調達できるよう、関係者にあたっている。
ブロックダウンになってから1週間あまり。本業をさておいて、今、彼は世界各地の友人知人らとコンタクトし、さまざなまオンライン会議に参加している。最も身近な例として、夫のやっていることを記したが、彼のように「先を見て」、自分ができることに尽力しているインド人はたくさんいる。
わたしの友人知人らは、モディ首相が立ち上げたCOVID-19の支援ファンドに、企業から、個人から、多額の寄付をしている。また慈善活動、ファンドの立ち上げ……公私の枠を超え、民間と政治の垣根を超えて、知恵を出し合い、この事態を乗り越えるべく尽力をしている人が大勢いる。そういう、人間の叡智や協調が、この危機から世界を救うと信じたい。
石北医師のFacebook記事、ぜひ目を通していただければと思う。