昨日、タイムズ・オブ・インディアに掲載されていた、日印共同の月探査プロジェクトの記事をFacebookでシェアした。
そんな矢先、今朝、日本のメディアから飛び込んできた堀江貴文氏ロケット打ち上げ「失敗」のニュース。新聞紙面に踊る「打ち上げ失敗」という文字見て、去年、インドが月面着陸に「成功しなかった」ときのモディ首相のことばを思い出した。
「月面は、遠かった。でも、失敗ではない。」
2019年7月に、月面着陸を目指して打ち上げられた「チャンドラヤーン(ヒンディー語で「月への乗り物」)2号」。探査機から送り出された着陸機、ヴィクラムは、2カ月の旅を経て、しかし月面まであと数キロ、というところで消息を絶った。国を挙げて、歴史的瞬間を見守ろうと盛り上がっていただけに、落胆は大きかったが、肩を落とす科学者たちを励ますモディ首相の演説やゼスチャーには、胸を打たれた。
海外ではほとんど知られていないが、インドの宇宙産業の進展ぶりはすさまじい。ここでも幾度か言及してきたが、わたしは過去数年に亘り、日本のクライアントからの仕事で、インドの過去30年近くに亘る時事問題をテーマごとにまとめる「トレンド年表」の制作を手掛けてきた。
政治、経済、外交、通信、メディア、……など15項目に亘るこの国の変化を調査してきたが、中でも感銘を受け続けていたテーマのひとつは、航空宇宙産業だ。
1960年代から70年代の黎明期には、自転車や牛車でロケットのパーツを運んでいたこの国が、世界トップクラスの宇宙産業大国に成長する過程には驚嘆させられる。
インドはなぜ宇宙開発事業に力を入れているのか。貧しい国なのだから、お金を別のインフラ整備などに使うべきではないか。国内でも賛否両論ある。しかし、宇宙産業の背景には、さまざまなニーズがある。無論、軍事偵察衛星なども含まれるが、ポジティヴな側面の大きさを、知っておくべきだ。
まず、インドは気象衛星を飛ばすことによって、ここ数年、大洪水による人的被害を抑えることに成功してきた。早いうちにハリケーンの到来を予測し、大勢の人々を避難に導くには、気象衛星が必要だ。衛星から農地の土壌を検証、農業に反映させる動きも見られ始めて久しい。
➡︎https://www.isro.gov.in/earth-observation/agriculture-and-soils
また、極軌道打ち上げロケットに、何基もの衛星を搭載しているが、その大半は、欧米、日本を含む世界各国のものだ。自国でロケットを開発して打ち上げるよりも、インドに頼んだ方が安上がりだからだ。
2017年には、人工衛星「104基」を載せたロケットPSLVを打ち上げ、すべての衛星を軌道に投入することに成功した。一度のロケット打ち上げで軌道に投入した衛星の数では、世界最多記録だ。その映像を見たが、宇宙空間に次々と発射される衛星は、まるで打ち上げ花火のようであった。
そのニュースをして、インドのメディアなどでは、「車両を押しつぶさんばかりの荷物を積んだトラック」や、「人間がドアから溢れ出る列車」などのイラストなどを添えて、「インドは過積載が得意だから!」と、自虐ネタを載せているところもあった。
ちなみにこの104基の内訳は、米国の96基をはじめ、イスラエル、カザフスタン、オランダ、スイスなど、他国のものばかりだ。NASAで打ち上げるよりもぐっと廉価で衛星が打ち上げられる。メディカルツーリズム同様の原理が、ここでも働いている。
「我々はロケット打ち上げに関するあらゆるコストを最小限に抑え、最大限の効果を生み出すよう努力をしている」と、インドの宇宙産業に関わる人たちは言う。インドは宇宙産業においても、アウトソーシングの受け皿があるのだ。
🚀1枚目の写真にあるこの自転車に乗っている人物は、インド人ならば知らない人はいない、国民に敬愛された故カラム元大統領だ。インドミサイル(ロケット)の父と呼ばれたカラム元大統領が2015年に他界した際、ブログに記事を書いた。インドに関わり合いのある人には、ぜひともお読みいただきたい。
先日、夫が母校(マサチューセッツ工科大学)のオンライン・リユニオンに参加した。今年は卒業年に応じて5年に一度開催される盛大な同窓会の年(夫は1995年卒業)だったため、毎年恒例のニューヨークほか、ボストンにも訪れる予定だったが、COVID-19で叶わず。
世界各国の卒業生が一堂に会したがオンライン同窓会を終えて夕食時。夫が最も感銘を受けたのは、10歳年上の卒業生、クリス・キャシディ氏のスピーチだった。彼は宇宙飛行士で、国際宇宙ステーションから同窓生に語りかけた。
幸いにも、その時の動画がシェアされているので、関心のある方、ご覧いただければと思う。クリスの話は、32分45秒あたりから。宇宙から見る地球の麗しさ。地球には、当たり前ながら、国境などなく……。見入れば、ついつい泣けてくる。
●MIT's Virtual Commencement 2020
先日、わたしがアップロードした動画(Channel Muse/ インド発、世界★051)でも熱く語ったが、COVID-19を地球規模で、宇宙からの視点で眺めれば、異なる捉え方ができるも、改めて思う。
以下、参考までに、インドの宇宙産業の大雑把な流れを抜粋しておく。
◎1992年/1980年代より開発されていた小型ロケット、ASLVの打ち上げにようやく成功。
◎1994年/極軌道打ち上げロケットPSLVの打ち上げに成功。
◎1999年/ドイツと韓国の衛星を搭載したPSLVの打ち上げに成功。商業飛行として初の成功となる。
◎2001年/欧州宇宙機関とドイツの衛星(偵察衛星)を搭載したPSLVの打ち上げに成功。
◎2008年/日本、カナダ、ドイツ、オランダなどの人工衛星10基を積んだPSLVの打ち上げに成功。一度に10衛星を軌道投入、インドの45年に亘る宇宙開発計画にとって画期的な成功。
◎2008年/インド初の無人月探査機「チャンドラヤーン1号」を搭載したPSLV-XLの打ち上げに成功。
◎2012年/日本とフランスの衛星を搭載したPSLVの打ち上げに成功。インド宇宙研究機関初の、完全な商業打ち上げ。
◎2014年/2013年11月5日に打ち上げたアジア初の火星探査機「マンガルヤーン」が9月、火星周回軌道に入る。
◎2016年/衛星20基を搭載したロケットPSLVの打ち上げに成功。20基には、自国の地球観測衛星(EOS)のほか、米国、カナダ、ドイツなど海外の衛星17基が含まれている。
◎2017年/人工衛星104基を載せたロケットPSLVを打ち上げ、すべての衛星を軌道に投入することに成功。一度のロケット打ち上げで軌道に投入した衛星の数で世界最多記録を樹立。
いろいろな意味で、多くの人たちに、「空の彼方を見つめ、思いを馳せる」機会を与えてくれるプロジェクトは、「失敗」のひと言では終わらない、挑戦した人だけが掴み取れる有意義だ。