8月31日の朝だ。無事に、58歳の誕生日を迎えることができた。何の因果か、このようなインドの聖地で新たに歳を重ねることを、面白く思う。
叡智の丘、とも呼ばれて来たアルナーチャラ。日本語では「霊山」と表現するのがふさわしいであろう、山の麓にて。わたしと夫が、こんな風に、わたしの誕生日を祝する日が来ることになろうとは、4、5年前には想像もしなかった。
すでに記したが、今回、ここティルヴァナンマライでの5泊6日は「計画を立てず、心の赴くままに過ごす」と決めていた。だから、到着翌日に14㎞の巡礼「ギリ・プラダクシナ (Giri Pradakshina)」を行ったことも、翌日にArunachaleshwar寺院を訪れたことも、そして昨日、山の中を歩いたことも、すべては、本能(のようなもの)に導かれてのことだった。
🌕ランチを終えてホテルに戻り、シャワーを浴びてベッドに横たわる。満月の今夜、無数の巡礼者が各地から訪れる……と思いを巡らすうちに、「もう一度、ギリ・プラダクシナをやろう」と閃いた。人混みの中を歩くなど、普段のわたしならば極力避けたい行いだが、「歩きたい」という気持ちが優った。
身体は疲れているにも関わらず。
わたしが歩くのなら、僕も歩く。と、夫。
本来ならば月が昇る時刻に歩き始めるのがいいらしいが、人が多くなりすぎる前がいい。それに、雨が降り出す気がする。まだ日が高い5時過ぎに歩き始めた。
前回はビルケンシュトックのサンダルで歩いたが、今回は寺院に立ち寄らないと決めていたので、アシックスのスニーカーで歩く。これがもう、ふわふわと歩きやすくて夢のよう。靴底大事、と、改めて思う。
すでに一度歩いているから、道の状況はわかる。人が少ない最初は極力飛ばして歩くことにする。今日ばかりは夫もわたしの背後にしっかり付いてきてくれる。
🌕喧騒。雑踏。Om Namah Shivaya という、シヴァ神を讃えるマントラが響き渡る中、ひたすらに歩く。沿道は縁日のような賑わいで、我々は曼荼羅の周囲を歩く人生ゲームの駒のごとく。やがて日が沈み、夜の帳(とばり)が下りる。
黙々と、歩く。途中、1度目で気に入っていた静寂の寺院には、靴を脱いで立ち寄った。山は常に右手にあった。
神に捧げる炎。煙にまみれる。牛に触る。無数のバイクがかすめ走る。途中のカフェで軽食を取った。外に出たら、満月が昇っていた。
無料のビリヤニの人だかり。1つ買ったら2つ目は無料のアイスクリームの宣伝大音響。裸足で平気で歩く人々。
……喧騒の中の瞑想。
🌕満月を眺めながら、2018年4月30日、仏陀聖誕祭の満月の夜を思い出していた。インドの中心ナーグプルにて。佐々井秀嶺上人に密着行動させていただいた1日だ。
あの旅を決めたのも、「数字の符合」に引き寄せられたから。佐々井秀嶺上人の半生を描いた『破天』を読んでいる最中、いくつかの数字に惹きつけられた。佐々井上人が日本を離れたのが、わたしの生まれた年、1965年。彼の誕生日は、8月30日。わたしの誕生日の30年と1日前。88歳、おめでとうございます。
そのほか、いくつかの符号に引き寄せられ、連絡先を確認し、ナーグプルを訪れることができたのは、奇しくも仏陀生誕祭の満月の日を挟んでいたのだった。
あの日の満月と、この喧騒の満月が、シンクロナイズする。この国の極まれる混沌。理不尽、不条理の渦。そういう一切合切、清濁併せ吞むすさまじさを、教えられている。身を以て、体験させられている。
そう。この国はすさまじい。
わたしは、何をしているのか。これから先のわたしは、何をするのか。わたしの中に問い続ける。ここに導かれたもご縁。静かに、確かに、自分の経験を消化しながら、この先も歩め。
🌕 数時間の行脚を終え、ホテルに到着。汗と埃にまみれた身体を、熱いシャワーで洗い流せる極楽。いい香りのシャンプーが楽園。天井で回るファンが涅槃。少し痛む膝に、「お疲れさま」と言いながら、お気に入りの効果絶大CBDオイルを刷り込む。
そうしているうちにも、雷光、風が起こり、雨が降り出した。。なんというタイミングか。無論、雨の中を歩く無数の巡礼者たちへ、「ご安全に」と、思いを馳せつつ、たちまち眠りについたのだった。
以下、Sri Ramanasramamのサイト「アルナーチャラ」の項より一部抜粋
「この丘を巡ることは良いことだ。「プラ・ダクシナ」という言葉には特別な意味がある。『プラ』はあらゆる罪を拭い去るという意味があり、『ダ』にはすべての望みをかなえるという意味がある。『クシ』とは再生からの解放を意味している。『ナ』とはジュニャーナによる解脱の保証を意味している。」
🙏インド国憲法草案者アンベードカルとインド仏教。そして日本人僧侶、佐々井秀嶺上人を巡る記録(『深海ライブラリ』ブログ)
https://museindia.typepad.jp/library/2021/12/unity.html
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