昨日、インド財務相のニルマラ・シタラマン氏の話を間近に聞く機会を得られた。半年前、デリーで開催された日本とインドの外交フォーラムに出席した際にも(後半の写真)、短時間ながらも彼女の話を聞き、その怜悧で鋭い言葉に引き込まれた。再び、彼女の話を聞ける好機が到来。イヴェントの案内が届いて直後、申し込んだのだった。
1959年、タミル・ナドゥ州に生まれたシタラマン氏。同州で経済学の学士を取得後、1984年にデリーのジャワハルラール・ネルー大学へ進学、経済学修士号などを取得した。その後、インド・欧州貿易に焦点を当てた経済学の博士課程に入学するも、夫の英国赴任が決まったことから中退。ロンドンへ移住する。
シタラマン氏がBJP(インド人民党/現在の与党)に入党したのは2008年。以降、2014年までは党の全国報道官を務め、同年ナレンドラ・モディ内閣が発足した際に、次官として入閣した。その後、国防大臣(2017〜2019)に。2019年2月インド空軍はカシミール地方、パキスタン北東部のバラコットにあるテロ組織の拠点を空爆したが、その指揮をとったのは当時、国防相だった彼女だ。
2019年5月、モディ首相が、次期財務相にニルマラ・シタラマン氏を指名した際、予想外との声もあがった。当時、他の有力候補者がいたことも背景の一つ。果たしてモディ内閣で最も高位の女性閣僚となったシタラマン氏。経済学の造詣も深い彼女は、年々、その存在感を強め、女性たちのロールモデルとしても関心を集める存在だ。
なお、政治家以前の彼女のキャリアも興味深い。ロンドン在住時には、英国で有名なインテリアショップ、Habitatの販売員をしたり、PWCのシニア・マネージャーや、短期間ながらBBCワールドサーヴィスにも勤務経験があるという。
YPOバンガロール支部の主催による今回の催し。モデレーターの質問に答える形で、約1時間ほど、彼女の話を聞くことができた。その後30分ほどは、参加者からの質問に回答。実質90分ほどながら、淀みなく的確な言葉が次々に発せられることから、非常に学びの多いひとときだった。
個人的なライフや暮らしの話。日常生活において指針としていること。今日にいたるキャリア構築に至るエピソード。国防大臣と財務大臣と仕事に取り組む際の相違点。自分自身のロールモデル。仕事をする上で心がけていること……など、個人的な話が端緒。フレンドリーで気さくな人柄を窺わせる話しぶりだ。
自分の人生をして「みなさんが期待するようなドラマティックな物語はない」と前置きしつつ、「好き嫌いはさておいて、与えられた仕事を一生懸命やる。根気よく続けていれば、それはやがて自分の習慣になり、自分の能力が向上する」という。その言葉に共感する。
また、彼女が普段から例えとして使っているというティーバッグの話も印象に残った。熱い湯(苦境)に浸してこそ、味わいや香りが滲み出る。ライフとは、ティーバッグのようなものでもある……と。家族の支え、読書の習慣、料理、信仰、そして何より音楽は、彼女をときに奮い立たせ、ときに魂をリラックスさせる。ジャンルを問わず、音楽はよく聞くのだという。
国家予算に関しては、話題は多岐に亘る。モディ政権の積極的な外交政策や斬新な試み(ここではその善し悪しを問わない。世界は白黒つけられないことのほうが多いのだ)。個人的には、COVID-19のパンデミック以降、モディ首相のリーダーシップはよりアグレッシヴに発揮されていると感じる。特に地球規模でのテクノロジーの劇的進化、それに伴うデジタルのアップデート。
かつてなく価値観の転倒が起こり、頻繁な仕組みの見直しが望まれる世界にあって、全方向にアンテナを張り、情報収集をし、吟味し判断することが、どれだけたいへんか、わずか90分、話を聞いているだけでも、気が遠くなるような思いだ。ざっと書き出してみるに……
・政府によるスタートアップ支援
・世界のAIハブを実現するべく財政支援
・AI(コンピュータ)と人間の棲み分けと共生
・インド独自開発による5Gの普及
・農業とロジスティクスの課題
・ヘルスケア、医療とメディカルツーリズム
・宗教やカースト、女性の地位や貧困、農民の暮らし
・食の安全と農薬の管理
・農村部におけるエコシステム確立と都市部との比較
・太陽光発電や自家発電の普及
・マテリアルサイエンス(材料工学)の未来
・航空宇宙産業と各種産業との連携
・サステナビリティの具現化
・子供の将来を見据えた新教育制度
・2017年7月より導入された新税制GST (Goods and Services Tax)の成功事例
・地方からの出稼ぎ人の困窮問題
・道路交通、ゴミ処理、公害などのインフラ不全に伴う社会問題等々……
投げられるあらゆる質問に、即返答。参加者は比較的「節度のある質問」をしており、それに対して、「財務相として」「個人として」の立場を分けつつ、時にユーモアを交えつつの直球の返答には感嘆した。
わたしたち夫婦は2005年、米国からバンガロールに移住した。わたしは2003年終盤から、「インド移住を見越して(望んで)」この国の趨勢を見つめてきた。過去20年のインドの変貌を、リサーチなどの各種ビジネスを通して、あるいは日常生活を通してつぶさに経験してきた。それらを脳裏で回想しつつ、納得することも多々あり。非常にいい勉強になった。
1947年のインド・パキスタン分離独立から100年後の2047年に、先進国となるべくあらゆる分野での試みが起こっているインド。82歳まで生きて、この日のことを思い出したい。そのときにまた、ニルマラ・シタラマン氏にお会いしたいな……😸
🌳わたしと一緒に写っている男性は、我がお気に入りのショップ The Purple Turtle(インテリア)とBeruru(ガーデン用品)を経営するRadeesh。イヴェントの後のティータイムで初めてお会いしたのだが、Instagramを拝見したところ、アーティストとしての活動も活発にされており、新空港の内装にも関わられるなど、非常に興味深いプロジェクトを手掛けられている。近々、お話を伺う予定。
🇮🇳🇯🇵INDIA JAPAN FORUM 日本とインドの外交フォーラムに出席②夫も登壇。12年前の「日印グローバル・パートナーシップ・サミット」を回想
https://museindia.typepad.jp/2023/2023/07/ji2.html
🇮🇳🇯🇵INDIA JAPAN FORUM 日本とインドの外交フォーラムに出席③先週、デリーでお会いした松川るい氏について
https://museindia.typepad.jp/2023/2023/08/delhi.html
🇮🇳UNION BUDGET(インド政府の予算案ポータルサイト)
https://www.indiabudget.gov.in
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