ここ数日、日本のメディア等で、松川るい氏率いる自民党女性局のパリ視察が取り沙汰されている。わたしは、先週デリーで開催された日印フォーラムにて松川氏とお会いし、短時間ながらも言葉を交わした。彼女の力強いプレゼンテーションに、夫のArvindともども感銘を受けたことは、先日の記録②でも言及した通りだ。
もしも、デリーで彼女とお会いしていなければ、わたしも多くの人と同様、彼女に対しネガティヴな印象を持ってしまったかもしれない。彼女のライフを何も知らないにも関わらず、だ。確かにあの写真が引き起こす反応を予測できなかったと言う点において、大いに問題があったと思う。ただ、その件だけをして、審判を下す世の趨勢に対しても、個人的に、危機感を覚える。
今回の件は、自分の心の動きや言動に対しても、示唆と教訓を与えられたがゆえ、以下、彼女のデリーにおける「仕事ぶり」の片鱗を残しておく。
7月28日と29日の2日間に亘って開催された日本とインドの外交フォーラム。先日の記録①で記した通り、Arvindが所属する米国のグローバル組織「アスペン・インスティテュート」のインドにおける関連組織「アナンタ・センター」が、インド政府外務省との共催で開催された。「日印の協力を強化すべく、意見を交換し、相互信頼を築き、将来の協力のための共同アジェンダを策定すること」が目的だ。
インドのジャイシャンカル外務大臣や日本の林芳正外務大臣をはじめ、両国の政治、外交、ビジネス、シンクタンクなどのエグゼクティヴ、メディア関係者や国際機関のゲストなど、約70名ほどの限られた人たちが参加するクローズドの催しだった。そんな中、わたしが参加できたのは、Arvindが主催者側であり、7つのセッションのうちの1つにて、彼がモデレータを務めることから、わたしもインドで活動するライター/NGO主宰者として招待された。
わたしは普段から、仕事その他でお会いする方のバックグラウンドをあらかじめ調べる。こちらが取材する相手についてはもちろんのこと、先方から会いたいと依頼される場合においてもだ。お会いして相手に自己紹介をしてもらうよりも、あらかじめ略歴や活動内容を知っておいたほうが、お互いに「限られた時間」を有効に使える。そもそも相手の背景を知らずに面会を申し込むのも失礼な話だ。
さて、今回も、フォーラムに登壇される日本からの参加者について、ざっとではあるが予習をしておいた。中でも、松川るい氏の経歴は印象的だった。東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。米国ワシントンD.C.にあるジョージタウン大学で国際関係大学院修士号を取得。外交、安全保障、防衛、女性活躍、経済、教育、福祉など、多岐にわたる活動をされている。
防衛大臣政務官として、彼女の提案により作成されたという子ども向けの「はじめての防衛白書」が、極めてわかりやすく、勉強になった。ホームページからダウンロードして、ざっと目を通したが、今、日本が置かれている軍事的背景がわかりやすく説明されている。
そんな次第で、彼女のTwitter (X) を早速フォロー。ゆえに、彼女が直前までパリにいたことは知っていた。
彼女のセッションは2日目の29日に予定されていたが、1日目の午後、会場にいらした。ご挨拶をしたところ、京友禅サリーの美しさを褒めてくださる。松川さんご自身、何枚かのサリーをお持ちだとか。わたしもかつてワシントンD.C.に住んでいて、ジョージタウン大学の「語学学校」に通ったのだという話をした。
デリーへは、パリから直接いらしたとばかり思っていた。しかし聞けば、一旦、日本へ戻り、その直後にデリーへ飛び、そのまま会場入りされたとのこと。「なんとタフな!」と驚く。彼女はお若く見えるが52歳。パリ滞在も3泊5日の弾丸ゆえ、お疲れだろうと察するが、そんな様子は見受けられない。セッションの合間のティーブレイクには、積極的に日印双方の参加者と会話をされている。
さて、2日目の朝9時ちょうどに開始された「防衛ネットワークの強化と侵略の抑止」のセッションに登壇された松川氏。10分にも満たない短時間に、しかし極めて的確にわかりやすく、日本の防衛備品の輸出に関する課題などをプレゼンされた。流暢で聞き取りやすい英語であることはもちろんのこと、堂々としていて怜悧。質問にも淀みなく返答されている。
彼女の話を聞きながら、背景をより深く理解したくなったので、目立たぬようさりげなく、スマートフォンで関連情報を検索。さっと目を通して、なるほどと理解した。
スクリーンに映し出されている彼女の写真は、インド財務大臣のNirmala Sitharamanに質問をされている場面だ。
「外交」とは、一言では語れぬ、多くの会得すべき事柄がある。異国の社会や文化、歴史に対する知識と理解、各国間の関係性……。そして、異なる世界への敬意。さらには、相手と親交を深めるための社交性と行動力。直接、お会いして、積極的に言葉を交わすことは、非常に重要だ。
わたしは、米国で約10年、インドで約18年暮らす間に、夫の仕事関係も含め、多くの社交の場に参席する機会を得てきた。あくまでもわたしの知る限りにおいてだが、海外において日本人の社交性が高いかといえば、決してそうではない。プレゼンテーションが苦手な人も多い。どんなにご本人の頭脳が優秀でも、優れた内容でも、言わんとすることが他者に伝わらなければ、成果を上げるのは困難だ。
わたし自身、米国移住当初は、今よりも更に英語力が低く、社交の場で相手の話していることがよくわからず、情けない思いを重ねた。緊張したり失敗したりを繰り返した経験があるからこそ、コミュニケーション能力の重要性は身を以って実感している。
今でこそ、年の功も手伝って、臆することはなくなったが、中途半端な英語力に甘んじている自分を、好きではない。勉強を続けていない自分にも感心しない。実は今回、松川氏の説得力ある話しぶりに触発され、わたしは改めて英語の勉強をすべきだとの思いに駆られた。個人的にも、彼女にお会いできたことはいい刺激になった。
松川氏のポリシーやご活動の内容について、軽く賛同の意を表することができるほど、わたしは彼女のことをよく知らない。ただ、彼女のご様子を間近に拝見した者として、今回、ここにその印象を残しておく。昨今、長文が忌避されるのは百も承知。しかし、短文で伝えられる内容ではない。ここまでお読みくださった方だけにでも、わたしの書き残す意図をご理解いただければ幸いだ。🙏
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