バンガロール近郊、マイソールへ向かう途中に、チャンナパトナ (Channapatna)という村がある。ここは、木工玩具の故郷で、いくつかの工房がある。その一つであるマヤ・オーガニックは、ミューズ・クリエイションが毎年、ミューズ・チャリティバザールを実施していた時代に、何度か出店してもらったことがある。100%自然素材を使い、職人によって一点一点手作りされた安全な玩具として、日本でも販売されている。
今回ご紹介するのは、ミューズ・クリエイションと同じ2012年に創業したVarnam Craft。先月、イヴェントの帰りにインディラナガール店に立ち寄った。この店には、チャンナパトナの玩具やアクセサリー、小物類などのほか、天然素材の衣類なども販売されている。
木工玩具は、100%天然の木材を用い、ターメリックやインディゴなどの天然染料を用いて一つずつ、手作りされている。艶やかな表面は、ニスを使用しているのではなく、葉っぱで丹念に磨き上げてツヤを出す。非常にクオリティの高い商品ながら、手頃な価格帯で販売されている。先日のモルディヴで、わたしが身につけていた赤いネックレスとブレスレットは、Varnam Craftで買ったもの。軽くて付け心地がよい。
チャンナパトナの木工玩具の歴史は18世紀に遡る。マイソール王国の支配者、ティプー・スルターンが、ペルシャから職人を呼び寄せ、チャンナパトナの職人に技術を伝承させたというのが起源だ……ということは、以前、マヤ・オーガニックを招いて実演・展示即売会をしたときに学んでいた。
さらには今回、Varnam Craftの店頭で新たな事実を知った。会計を待つ間、店内に貼られていたチャンナパトナの歴史を伝えるイラストを眺めていたところ……その1枚に、「1904年、マイソールのマハラジャが、漆加工の技術を学ばせるべく、地元の職人Mian Bavasmiaを日本に送った……という記述があったのだ。一瞬「万里の長城?」「中国?」なイラストだが、どうやら日本である。
びっくりして、店の人に声をかけたところ、日本の人形に着想を得た人形もあるのだとのこと。「手足がないのが特徴なんですよ……」と、見せてもらったところ……。こけし?! 日本とインドの関係史を語る資料に、また新たなネタが増えてしまった。つい、こけし風のカップル(王と妃)を購入した
Mian Bavasmiaは、日本で学んだ技術を、帰国後、チャンナパトナの工房の現場に反映させたとのこと。彼はきっと、1893年に綿貿易を目的に就航したボンベイ=神戸の航路(日本郵船)を利用して日本へ行ったのだろうな。インドの産業の父、ジャムシェトジー・タタと、日本の資本主義の父、渋沢栄一との間で取り決められ、就航した航路。神戸発、香港、シンガポール、コロンボ、ボンベイ……。夏目漱石も、ロンドンへ行くときに利用したはずの航路。
だめだ、話が長くなる。
ロンドンといえば、わたしがロンドンに行くたびに立ち寄る場所のひとつにV&A (Victoria and Albert Museum)がある。ここは、インドや日本など、アジア各地の歴史を辿れる展示物も豊かなのだ。このミュージアムには、チャンナパトナで作られた「ティプーのトラ」が展示されている。写真は、2017年、ピンク・フロイド展が開催されていたときに訪れたときのもの。
18世紀、英国がインド侵攻を進める中、ここ南インドのマイソール王国の支配者だったティプー・スルターンは、生涯をかけて、英国に徹底抗戦した。他の藩主たちが英国統治を受け入れる中、最後まで英国に妥協することなく、戦い抜いて殉死した英雄として知られている。彼をして、「マイソールのトラ」と呼ぶ。
「ティプーのトラ」とは、すなわち、ティプー・スルターンのことである。トラが欧州人に襲いかかる姿を模した大きな自動楽器で、動かすと、虎が唸り、男が悲鳴を上げるらしい。側面はパイプオルガンになっている。英国が戦利品として持ち帰ったとのこと。
大英博物館にせよ、ロンドン塔にせよ、このV&Aにせよ……どれだけの財宝や芸術品を、英国はじめ欧州人は、勝手に持ち去ったことか……と、話がまた長くなる。
ティプー・スルターンの生き様は非常に興味深い。Wikipediaに日本語でも大まかな生涯が記されているのでリンクを貼っておく。
🌸職人技が生きるフェアトレードの天然木工玩具★マヤ・オーガニックを招いて。(2018年4月)
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