◉昨日は母と妹と三人で天神へお出かけ。わが日本家族がしばしば利用してきたホテル・ニューオータニのチャイニーズレストラン「大観苑」へ。ここの五目あんかけ焼きそばを、数十年ぶりに食す。「カレー?」を思わせるソースポットに具沢山のあんかけ。豚肉に魚介類もたっぷりと、食べ応えのある美味ランチであった。
ランチの後は「大丸」へ。福岡でのデパートといえば「岩田屋」が定番だが、過去10数年、わたしは、大丸にも必ず寄っている。地下の婦人靴コーナー、歩きやすい靴のブランドが充実しているからだ。特に最近は 「ビューフォート」がお気に入り。
◉今回の大丸はしかし、靴だけが目的ではなかった。折しも10月29日から11月5日まで、久留米絣の催し「ハク、マトウ。MONPE X HAORI」のアンテナショップが出ていることをInstagramで知り、行かねばと思っていたのだ。
1500年以上前のインドを源とする絣(かすり)。福岡県南部の筑後地方、久留米周辺で200年以上にわたって織られている久留米絣は、日本の無形文化財でもある。
木綿の糸を束ね、柄を作るべく紐でくくる。それを天然の藍(インディゴ)をはじめとする染料に浸す。色づいた木綿の束の、紐を解けば、染まっていない白い部分が浮かび上がる。その糸を織機に張って、織るのである。
何が何だかわからないと思われるだろうが、ともかく、高度な職人技が要されるのだ。
その起源は「数千年前」に遡る。東南アジアや中央アジア、インドなどで、類似の技術が独自で育まれたという説も見られる。なお、絣の中でも、経糸と緯糸、両方を束ねて染めて織り上げる「経緯絣(たてよこがすり)Double Ikat」は、インドとインドネシアのバリ島、そしてこの久留米など、世界でも極めて限られた場所においてのみ技術が継承されているとのこと。
だめだ。絞り染めや絣の話になると尽きない。
わたしが子供のころは、祖母の着物や「モンペ」に代表される久留米絣をして、田舎っぽい和装の印象があった。しかし、インドに移住して絣の歴史を知り、2011年に西日本新聞の連載『激変するインド』に記事を書くべく「久留米絣のふるさと」を訪れたのを契機に、絣に対する印象が変わった。
わたしが久留米絣の衣類を初めて買ったのは2017年。この大丸にてアンテナショップを出されていた「丸亀絣織物」で、椿柄のジャケットを購入。そのときに5代目の丸山重俊氏と写真撮影をし、丸亀絣織物のInstagramをフォローし始めたのだった。
軽くて着心地がよい。冬暖かく夏は涼しい。洗濯しても痛まない。色落ちしない。丈夫……。その魅力にすっかり引き込まれた。
今回は、久留米絣のふるさと、広川町の工房から、丸亀絣織物はじめ池田絣工房、野村織物、坂田織物……と、4つの工房が共同で展開されている。7年前に比べると、格段にデザイン性が向上していて、魅力的な商品がたっぷりだ。
藍以外のカラフルな色柄も加わり、伝統柄とモダンの融合がなんともいえずいい。我が座右の銘、「不易流行」が、ここにも具現化されている。多少、値段が高くても、着心地よく、長く着られて、愛着を感じられるものは尊いということを、歳を重ねるにつけ、実感する。
とくに、一年前から着物に目覚めて、中古の着物を眺めることが増えたわたしは、そのことを痛感する。もちろん、カジュアルなファッションも好きで、ついつい体育会系Adidasなどを好んで買ってしまうが、本質は、天然素材で、伝統が生きていて、人々の技術が活かされた衣類が、心身にとって滋養になると考える。
こうして若い世代が家業を踏襲し、試行錯誤されながら新たな衣の世界を育まれていることを、すばらしいと思う。ちなみにわたしの絣ジャケットは、インドの友人たちにも非常に好評だ。サイズ展開などに課題があるだろうが、モンペやジャケット、トップ……といずれも、インド富裕層マーケットに訴求できるクオリティだと思う。
昨日は、母の買い物に集中すべく、自分の試着をゆっくりできなかったので、期間中にまた、再訪する予定だ。
母に買ったパンツ、そしてトップ。しっかりとした風合いながらも、重さを感じず、とにかくかわいい! そしてこれからの季節によいコート。これは母のために買ったが、わたしにも似合うかどうか、確認。一時帰国のとき、わたしも着られるように。
母も大喜びで、帰宅後は試着会。
「これは一生ものねえ……」と母86歳。お好きなだけ、長生きされたし。その後はもちろん、わたしが愛用し続ける。
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