基本「即決型」のわたしが、今回は数日、迷った。自分の持つサリーの中では最も高価だし、渋めの色合いが、自分に本当に似合うのかどうか、今ひとつ、確信が持てなかった。
夫に詳細を説明し、写真を見せたところ、「欲しいなら、買えば?」と言う。
あんなにサリーを「古くさい」と嫌っていた夫が、古くさい極み、つまりこてこてに伝統的なサリーを見て「買えば」と言っている。
正味な話、お金の問題ではない。
っていうか、たいそう大げさに書いているが、高級ブランドの服やバッグを買うのと変わらない程度だ。ただなぜか、サリーとなると、妙に緊張する。
それは多分、これがインドテキスタイル省からの受賞作品であり、職人である彼が、1年半もかけて作ったという、そらもう、思い入れと情熱の籠った作品であることが、理由だろう。
大切な作品を、大切に購入し、大切に着たい。その覚悟が必要だ、と思えたのだ。同じ値段でも、機械製品とはまた違う、「気持ち」が入る。
だから、お金の問題ではない。
彼は今、27歳になったばかりだという。17歳の時に、織りの仕事を始めたとのことで、今年が10年目なのだという。
3年前に受賞した、このマスターピース。彼とともに、あちこちの地で、展示されて来たのだろう。
虫干しせんとな。
じゃなくて、彼の思いもまた、詰まっていることだろう。
彼の両親もまた、職人。ともに、賞を受賞している。両親の工房には25名の職人がいて、彼らが一般的なサリーを制作しているという。
すでに買うつもりでいたのだが、改めて、広げて見せて。と頼んだ。
初日は大雨だったからかなわなかったが、今回はもちろん、身にまとってみた。身にまとったとき、「脱ぎたくない!」と思えた。
「これ、買います」
と言ったときの、彼の表情。一瞬、硬直していた。しばらく話をして、写真を撮った。少し、笑顔を見せてくれた。
お金を支払って、商品を受け取るとき。彼はわたしに向かって、手を差し出した。
握手をした瞬間、なんとも言えぬ、やさしい笑顔を見せてくれた。
大切に、いろんな場所で、このサリーを着よう、と思った。
それに加え、このサリーのモチーフになっているオリッサの3つの寺院のことについても、ちゃんと調べようと思った。
このサリーに、わたしに買われてよかった、と思ってもらえるように。
お金があるから買う。というのではなく、気持ちを込めて、買わせていただく。
ということを、インドに来て、教わっているような気がする。