瞬く間に時が流れて、早くも今夜、再びロンドン経由でバンガロールへと戻る。
毎度毎度、この街に降り立つと思う。インドでの10年間もの自分が、しかし幻のようだと。同時進行する二つの世界、パラレルワールドに、それぞれの自分が、息づいているような気がする。
それはまた、胡蝶の夢、のようでもある。
どちらが本当なのか。
そのような感覚は、歳を重ねるごとに強くなる。たとえば、ホテルの目の前にあるというのに、今年は立ち入らなかったリンカーンセンター。最後に訪れたのは去年のことなのに、それがつい先日、のような気さえする。同じ季節に来ているからこそ、尚更時間の伸縮が自在だ。
整然と、歪んでいるこの時間の伸縮を、どう理解すればいいのだろう。記憶は鮮明、精神は未達で、しかし肉体は確実に、老いてゆく。
服を買うとき。試着室の大きな鏡に映る自分の姿が、まざまざと時間の経過を物語る。歳月の流れを、まるで儀式のように、この街に来ると突きつけられる。
インドでの生活で、試着室に入ることはある。大きな鏡に自分を映すことはある。でも、インドでは見えない姿。この街の鏡に映る自分は、インドの日常に連なる自分に非ず、一年に一度の、自分。
旅の前半と同じホテルにチェックイン。今回もセミスイートにアップグレードを頼んだ。これまでこのホテルを何度か利用して来たが、予約の手違いでいつものやや広めの部屋が空いておらず。しかしスタンダードルームでは狭すぎる。
前半はもちろん、追加料金を支払った上でのアップグレードだったが、今回は無料でアップグレードしてもらえた。ブロードウェイやセントラルパークを見下ろせる、眺めのいい部屋。
古くからの我がブログの読者はご記憶かと思うが、我々夫婦、あっちこっちでアップグレード運がいい。フライトにしても然り。夫のさりげない交渉が効いていることもあるが、何をせずとも、というときの方が多い。
ニューヨークのホテル事情は、決してよいとは言えない。高いばかりで狭い部屋、設備も古かったりというホテルが少なくない。しかも今はハイシーズン。理想的なホテルを、となると、よりいっそう高くなる。
ベッドの寝心地のよさ、部屋の適度な広さ、地の利のよさ。そのあたりを優先して考えるに、かつての住まいに近いこのホテルが、今のところ一番のお気に入りだ。今回で3年連続で滞在している。
■THE EMPIRE HOTEL (←CLICK!)
先ほど、荷造りをすませた。4つのスーツケースがもう、いっぱいいっぱい。夫は今日もセントラルパークへジョギングに出かけた。この滞在は、彼にとっても、非常にいい気分転換だ。
さて、チェックアウトをしてランチに出かけるまでの時間のあいまに、ここ数日の写真をアップロードしておこう。
ロックフェラーセンターから眺めるサックス・フィフスアヴェニュー。
ロックフェラーセンターに咲いていたマグノリアの花があまりにも美しくて感激。マグノリア、泰山木(タイザンボク)の花はまた、大好きな花のひとつ。間近に見られて、本当によかった。
インドに移住した当初は、インドのデザイナーズファッションが気に入って、カラフルなあれこれを買い求めたものだ。尤も、インドの伝統的な刺繍や織り、染めなどがモダンに反映された服が好きで、化繊はほとんど、着なくなった。
シルクや木綿、リネン(麻)など、天然の素材が豊かなインドにあっては、化繊を受け付けなくなってしまったのだ。
なにしろ、暑い気候。肌にやさしく、涼しいのは、天然素材である。ゆえに、パーティ用のドレスなどを除いての日常着はほとんど絹か綿。
今年のニューヨークはしかし、さまざまなブランドが、リネンの衣類を扱っていた。シンプルな、白、ブルー(藍)、生成りの麻の服がたくさん。その製造国の多くが、インドでもあり。リネンのニットなど、肌触り、着心地のいいものも多く、今年は日常着をたくさん買い求めた。
日本ではサイズが合う「気に入った服」がなかなか見つからないが、米国ではわたしのサイズ(8号あたり)がスタンダード。気に入った服の在庫がない、ということもあまりなく、とても買い物がしやすい。この「自分の欲しい服のサイズがそろっている」という件に関しては、精神面を含めて長々と綴れるくらい、意味のあることなのであるが、長々と綴っていられないので、次に進む。
夜は夫とタイムズスクエアへ。今回の旅、2本目のミュージカルを観に。前回はまだ、デング熱の余韻が残っていて、照明がまばゆく、目を開けていられなかった。つまり、ほとんど寝ていた。
今回のミュージカルは、ストーリーこそ「?」、だったが、バレエダンサーたちによるパフォーマンスが魅力的。艶やかな踊りが楽しく心躍り、舞台や照明、衣装がそれはそれは美しく、引き込まれた。
歌える、踊れるって、なんとすばらしいことだろうと、躍動感あふれるステージを間近にすると、本当に、そう思う。心が沸き立つ。
今回はリンカーンセンターのオペラもバレエもシーズンではなかったのが残念だが、ともあれバレエとミュージカルをまとめて見られた気がして、とても幸せなひとときであった。
シアターの入り口の前で記念撮影。思えばパリにも、久しく訪れていない。欧州旅にも、出かけたい。
折しも我々の滞在中、30年以上『レイトショー』の司会を務めたデイヴィット・レターマンが番組を降板するとのことで、話題になっていた。その最終回を、見ようと言いながら、見逃してしまった我々。このスタジオの写真は、その翌日のもの。
ホテルの部屋から眺める夜景もまた麗しい。中央に走っているのはブロードウェイ。左がリンカーンセンター。右側のビルディングには、かつてBARNES & NOBLEがあり、我々は、そこのスターバックスカフェで出会った。
元バンガロール在住、ローカルフード探検隊員でもあったU-KOさんからいただいた特注による「肉球」Tシャツを屈託なく着て走りに出かける夫。セントラルパークで、日本人に会いませんように……。
ニューヨーク滞在中、夫はニューヨーク本社を尋ねたり、他の仕事関係者や親戚に会いに行ったりと、それなりに多忙だったが、昨日は終日、フリー。ランチのあと、ダウンタウンへ出かけることにした。
我々の、マンハッタンにおける拠点、コロンバスサークル。ここに暮らし始めた19年前とは、街の様子がすっかり変わってしまったが、それでもなじみのある場所には違いなく。
今日のランチは軽めにサンドイッチかサラダにでもしようと、メソン・カイザーへ。
わずか10日余りの間に、デング熱によるやつれ感が一掃されてしまった我。
おいしそうなパンやお菓子に目が奪われるが、まずはランチランチ。
軽めの料理をと思っていたのだが、人様が召し上がっている料理に目が釘付け。
「わたし、あれが食べたい」的に、ビーフシチューは即決。
これは、インドに帰ってから作ろうと思った一品。このビーフはどちらかというと、ゴツゴツとタフな感じだったが、インドの柔らかなフィレ肉を使うと、優しい触感で作れそうである。オーガニックの野菜もこのごろは豊富に手に入るから、そこそこのものができる気がする。要研究だ。
一方のサーモンはあっさりとした味付けで、それが素材の味を引き立てて美味であった。米国在住時は魚と言えばサーモン。食べ飽きるほどサーモンを食べていたものだ。
ランチをすませたあとは、メトロでダウンタウンへ。West 4thで降り、ブリーカーストリートを歩きつつ、SOHOを目指す。
ウエストブロードウェイ。かつて、ワールドトレードセンターが立っていた場所に、再び高層ビルが建てられるとは思いもしなかった。
あの場所へは、テロの直後、まだ焼けこげたビルの残骸が残っているときに、夫と訪れた。正視に堪え難い光景が広がっていた。見ておかなければ、という気持ちがあったからこそ、訪れたのだが、見ていられなかった。とてもカメラを向ける気などなれず。
あの日以来、14年。一度もあのエリアを訪れてはいない。これからも、訪れることはないだろう。
SOHOからイーストヴィレッジへ。ダウンタウンを訪れるときには、昔から、このルートをたどっている。しかしながら、いつもと違う角で曲がったら、初めて見る光景。こんなところに教会が。
ふと立ち寄ったお店は日本人のデザイナーによる革製品の店だった。シンプルなバッグが魅力的。
ニューデリーのDASTKARのバザールで購入していたお気に入りの革のバッグ。その形とほとんど同じものが売られていたので、思わず購入。この形、ちょっとした外出にとても便利なのだ。これも使用頻度が高くなりそうな予感。
夕暮れ時のコロンバスサークル。WHOLE FOOD MARKETで買い物をして、ホテルへ戻る道すがら……。
60丁目の交差点に、夕日が溢れていた。写真ではとても捉えられない、それはそれは、美しい夕日だった。この写真の左側の高層ビルが、かつて住んでいたアパートメント。124W 60TH STREET。
何度も何度も通ったこの道。しかし、こんなにも麗しい夕日を見たのは、数えるほどしかない。
夜は、マーケットで買い求めて来たサラダやハマス、バゲット、スモークサーモン、アヴォカドなどで、ワインを飲みつつ軽めの夕食。
しみじみと、今回の旅、最後の夜。
最終日の明日もまた、大切に過ごそう。