物件探しを始めた初日、気に入った物件を見つけてはいたが、同じアパートメントビルディング内に、まだいくつか空室があるとのことを別の不動産会社を通して知った故、昨日再び下見に出かけたのだった。けれどやはり、初日の部屋が、いちばんいい。だから、今日中になんとしても契約をすませようと、夕べ夫及び義父と相談したのだ。
夫と義父は、今朝、知り合いの弁護士に契約書を見てもらい、3人はそのまま、大家夫妻と不動産業者と打ち合わせ。ホテルのカフェで延々と数時間、契約内容をすりあわせる。その間、わたしは部屋でブログを作ったりなどして、久々の休憩。
夕方、改めて物件を見に行き、関係者総出でアパートメント内をチェック。部屋の掃除はもちろん、シャワーヘッドや蛇口の取り替え、トイレの便座の交換、痛んだ箇所の修繕など、引っ越し前にやってもらうべきことを、大家に伝える。
10カ月分の家賃を前払いの上、彼らの提示額をほぼのんだ形だから、こちらも直してもらえる限りは直してもらおうという状況。それにしても、大家夫人はとても押しが強いが協力的で、仕事も早い。何が何でも契約をとっとと成立させたいらしく、携帯電話をじゃんじゃんかけては、その場で修理人を呼びつけて直させる。
ともかくは、占星術によれば、満月から3日間の今日、それからあさって金曜日が「いい日」らしいから、なんとしても今日には契約書にサインをさせたい模様。わたしたちにしても、早くまとめたいから異存はない。
一旦ホテルに戻り、ラウンジで、改めて書類を交わし合う。大家夫人は、サイババ信者でもあり、だから部屋の一画に、サイババの写真が飾られていたのかと納得する。
わたしはサイババに関して詳しくはないし、ましてや信者でもないけれど、がらんとした部屋の壁に貼られた、手を掲げたサイババの写真を見たとき、「わ、呼ばれてる!」と思ったのだ。
大家夫人曰く、吉兆を招きたいがゆえ、敢えて写真を貼ったままにしておいたのだという。
ともかくは、夜。すべての契約書にサインをし終え、小切手を切り、米国とは著しくことなる粘着的な経緯を経て、しかし極めて速やかに、契約成立と相成った。
大家夫人曰く、金曜日の、特に午前7時半から9時までが「いい時間」らしいので、その間、アパートメントを訪れ、「ミルク」を供えて、ちょっとした「お祈り」をしてくれるのだという。もしもわたしたちが来られるなら、ほんの少しでもいいから、何らか「引っ越す」という意味合いを込めて、スーツケースなどの荷物を持って来てほしいとのこと。
大家夫人と長年付き合っているという不動産会社の担当者は、わたしたちを気遣ってか、「無理に彼女たちに合わせることはないからね」とこっそり耳打ちしてくれる。が、郷に入れば郷に従え。別段、困ることが起こる訳ではないから、お祈りにつきあおうと思う。
ちなみに彼女は、家具や家電の買い物にも案内してくれるとか。ありがたく、手伝ってもらうことにした。そんなわけで、明日からはショッピングである。
なんだかよくわからないけれど、夫がなんと言おうと、わたしはここに来るべくして来ているという気がしてならない。
●物件探しをはじめて4日目にして、「住みたい!」と思った部屋に住めることになった。バンガロアの中心地。だけれど緑が豊かな一画。ご近所のことは、また改めて少しずつ、レポートしたい。
●大家夫人。見かけはあか抜けた雰囲気だけれど、異邦人であるわたしの手前でもまったく容赦なく、自らの信心路線を爆走する。契約書を受け取るときは、両手で。それからサインをするまえに、なにやらマントラのような言葉をメモ帳に数回記す。それから、黙祷。で、ようやく、恭しくサイン。小切手を受け取るときも丁寧に両手で。そしてテーブルの上に……。
●ハンドバッグから取り出した金色の小さなガネイシャ神の像をポンと載せた。「ガネイシャ神に立会人になってもらいます」と、微笑みながら彼女。なんかもう、笑いがこみ上げてくるが、笑っちゃ失礼だから我慢する。でも、彼らがわたしたちの引っ越しを、丁寧に受け止め、祝福を望んでくれている証でもあるわけで(多分)、妙に和むのであった。