今日、月曜日は新居にあらゆるものを搬入する、事実上「引っ越しの日」である。と同時に、夫のボス及び関係者が米国からやってくる日でもあり、お互いにそれぞれ忙しい。夫を見送ったあと、THE TAJ WEST ENDをチェックアウトする準備。3度目、2週間あまりも滞在し、すっかり愛着のあるホテルとも今日でお別れだ。とはいえここはご近所だし、またナターシャとの打ち合わせもあるから、しばしば訪れることになるだろう。
1時以降、各業者が来ることになっているので、12時にホテルを出てアパートメントに向かう。アパートメントコンプレックスのゲートには、つねに3〜5人のガードマンが常駐しており、セキュリティがしっかりしているのがいい。彼らに、今日、我が家を訪れる業者のリストをわたし、スムースに中に通してもらうよう依頼する。
アパートメントに入り、クローゼットを拭いたり、キッチンを整えたりとあれこれ下準備。ニューデリーの使用人が来るまでは、日雇いの使用人を使ったら?、とスジャータにアドヴァイスされてはいたけれど、今日のところはひとりでやろうと思う。
ほどなくして、玄関のドアを開けて空気を入れ替えようと、ドアを開けようとしたところ、鍵が開かない。何度やっても、鍵が中で膠着した感じで、開かないのだ。つまり部屋に閉じ込められた状態となった。やれやれ。あと20分もしたら誰かが来るのに。
内線でガードマンを呼び、合鍵を持っているかを確認すると同時に、大家夫妻の携帯に電話を入れる。5分ほど経過したのち、「ドアの下から鍵を渡して!」と、外から声が聞こえる。その他、やんややんやと複数の声が聞こえる。ドアの小窓(?)から外をみると、なんだか無闇にたくさんの人がいる。
ちなみに鍵は、外からなら問題なくあいた。
ドアを開ければそこには、ガードマンが数名、大家夫妻が経営する会社の社員(会社はすぐ近所らしい)が3名、それから使いっ走りボーイズが数名ずらりと参上している。いくら人口が多いからって、そんなにたくさんの人が来なくたっていいと思うのだが、なんかこう、これがインド的なのね。
みなが「ああでもない」「こうでもない」と言い合いながら、のろのろと作業を進めて行く。それがインド。それを「あ〜もう、じれったい〜!」と、一刀両断せねば気が済まないのが、ちょっぴり短気なわたし。
鍵は、外から開けたあと、鍵を引き抜く際に、鍵穴と水平に引き抜けば問題ないのだが、ちょっと回転させると中で何かが詰まって、中から開けることができなくなるらしい。「これは最新式ですから」「水平に抜けばいいんです」と、また皆が好き勝手にやんややんやいう。
「わたしは絶対に、この鍵はいやです。新しい物にとりかえてください! そう大家夫妻にも伝えてください!」
もともと声が大きいわたしであるが、普段にもまして大声だ。だって、不器用なハニー(夫)が、毎度そんな器用に鍵を引き抜けるとも思えないし、ぐずぐず検討している時間もないし。
結局、大家夫人の手下(というか片腕)氏に、本日交換を依頼するよう確約する。その他、取り替えてもらったはずのシャワーヘッドの不具合や、便座カバーの取り付け不具合も直してもらう。
そうこうしているうちにも、電話会社の人が来るはずだ。今日は人の出入りが多い日だから、貴重品はクローゼットの中に入れておこう。と、ハンドバッグなどをまとめて入れ、鍵を閉めた瞬間、いやな予感。
開かない。また開かないよ!!
他のクローゼットは全部開け閉めスムースなのに、なぜかわたしが使ったそこだけ、開かない! またしても、大家夫人の手下、というか片腕氏を携帯で呼び出し。彼は1時間ほども、あちこちの鍵を試していたけれど、ついには業を煮やして鍵を壊した。わたしだったら、5分後に壊していたね。
●最初に到着したのは電話会社のAirtelの社員2名。二人は英語を話せず、身振り手振りにて、交流。まずは家庭の電話線を設置。電話器も付いている。電話が開通したところで、同じ会社のインターネット接続担当者3名が登場。こちらはみな、英語が話せる。うち一人がもう、超キュートな青年。なのでみぽりん(わたしだ)、超親切。なことはどうでもいいか。ワイヤレスのインターネット接続の設定をしてもらう。またしても、みなでやんややんや言いながら、作業をしている。わたしのコンピュータは日本語と英語が交じっているので、わたしも床にしゃがみ込み、ここでもない、あそこでもないとあちこち設定画面を開いたり閉じたりしながらの作業。1時間ほどのち、無事にインターネットも開通。
●インターネットの接続をやっている最中にカーテン屋さん2名登場。店のマネージャー自らの参上だ。窓を採寸して、最終的な見積もりを出してくれる。わたしの予算のぎりぎり範囲以内に収まっていてお見事。仕上がりは木曜日に届けてくれるそうだ。すばやくていい。
●そうこうしているうちに、マットレスも到着。これが「背骨にいいマットレス」。ちょっと怪しげだけど、寝転んでみると、いい感じなのよ〜。隣に寝てる人が寝返りを打ってもまったく気にならない感じ。我々愛用の形状記憶なテンピュール枕と同じような作り。でも、テンピュールのマットレスよりも、もんのすごく安い。
なんだかんだで4時を過ぎ、ランチを食べ損ね、こんなこともあろうかと、ホテルの部屋から持って帰って来ていたリンゴやなし、みかんなどを食べつつ、掃除などをしつつ、家電店が登場するのを待つ。玄関を開け放ちて作業していたら、日本語が聞こえて来た。大家さんから噂に聞いていたが、お向かいさんは日本人駐在員ご一家なのだ。
お子様3名と奥様がいらしたので、ご挨拶。先方はいきなり日本語で声をかけられて、ちょっと驚いていた様子。簡単な自己紹介などをし合い、しばらく立ち話。すでに3年半、バンガロアに滞在していらっしゃるとかで、来年はご帰国の予定だとか。
「ちょっと、ご覧になります?」と、お宅へ通してくださったので、厚かましくも一瞬、おじゃまする。入り口の棚に、日本のTV番組のヴィデオがずら〜〜〜っと並んでいるのに驚く。日本の会社から支給されるらしい。すごい。目を丸くしているわたしに、「お貸ししますよ」。
落ち着いたらまた、ご一緒に、お茶でもさせていただこうと思う。
●さて、家電店の配達員2名が到着。英語可能なおにいさんと、不可なムスリムのおじいさん。バンガロアではヒンディー語がほとんど通じないとはいえ、せめてヒンディー語は習得せねばと思う。そうそう、ニューデリーから来る使用人は英語ができないから、なんとしても勉強せねばならんのだった。
●カリフォルニア時代、TVなしの生活だったから、かれこれ半年ぶりだ。ケーブルを引く手配をしなければ。DVDとヴィデオプレイヤーは米国から送っているが、変圧器使用でうまく見られるかどうか。
●冷蔵庫、TV、電子レンジ、そして洗濯機、すべて韓国のサムソン製でまとめた。メーカーの人が、後日デモンストレーションに来るらしい。インドじゃ家電などを購入すると「メーカーが後日ご家庭を訪問してデモンストレーションをする」のがどうやら常識らしい。このあいだブレンダーを買ったときも、「メーカーに電話をして来てもらってください」と言われた。人と人との交流が密なのね。
当初は4時から6時の間に来るはずだった家具店からあらかじめ電話が入り、6時以降になるとのこと。塗り替えを要していたため後日配送の予定だったTVスタンドも、まもなく乾燥して仕上がるからすべて一緒に納品するとのこと。「うちの社員、総出で向かいますから!」とオーナー。いずれにしても、待つしかない。
またしても米国話だが、米国で家具などを注文しても、配送予定時間に来ることなどまずなく、人を待たせた挙げ句、「明日になる」などと言われるようなこと、かつてはしばしばだった。ここ数年、サーヴィスも向上したが、ともかく、ひどいのが常識だから、あらかじめ電話で遅くなると連絡が入るだけで、もう満足してしまう。
そして本日のメインイヴェントである家具店の到着。総出とはいったい何人だろう。長身のマネージャ男性を筆頭に、一人、二人、三人……。合計10名の、そろいもそろって小柄な男衆だ。彼らが次々に、家具のパーツや椅子などを、部屋に運んでくる。マネージャと10人の小人、という感じの、まるで漫画でも見ているような光景である。
それにしても、部屋が家具で満たされて行くにつれ、言いようのない、感動がこみ上げてくる。思えば人生40年目にして、はじめて「まともな家具をひとそろえ」購入したのである。それも「100年、150年は持ちますよ!」と、言われるようなものを。うちは子供もいないし、そんなに長持ちしてくれなくてもいいのだけれど、まあとりあえず。
何もかもをおきざって来て、遊牧民みたいな暮らしを続けていて、けれどあの日、偶然にもこの店にであって、一生使えそうな家具に出会えたことは、本当に幸運だったと思う。何が幸運だったって、やっぱり、もんのすごく、お手頃価格だったことである。
●ダイニングテーブルを組み立てる。どっしりとした脚の感じがすてき。水平が完璧ではないけれど、まあそういうのも、ご愛嬌ね。
●キングサイズのベッドフレーム。4人がかりで組み立てます。あっというまに仕上がって行く。
●どこか、傷がついたところはありませんか〜? 絵筆と塗料を持って、部屋をうろうろする「塗り担当者」一名。汚れや傷を、その場で補修していく。
家具店が到着したころ、大家夫人の片腕プラスもう一名の片腕、計2名が、玄関の鍵の付け替えを終えた。片腕氏は、家具店の男衆に「ゴミはまとめて片付けるように」とか、「床を傷つけないように」などと、指示を出している。英語じゃないからよくわからないが、多分、そういうことを言っている。頼りがいがある感じ! とちょっとうれしい。
家具の組み立てその他が完了し、部屋の片付けを終えた頃には8時を過ぎていた。組み立てほやほやのダイニングテーブルに座り、マネージャと納品リストを確認し合い、差額分の支払いなどを計算して渡す。
8時をすぎ、ようやく一人になった。家具が入り、呼吸をはじめた部屋のなかで、はじめてのお湯をわかし、はじめてのお茶を飲む。長い一日だった……。と感無量である。が、いつまでもここで感慨に浸っている場合ではない。
明日から約2週間の、夫の出張用スーツケースを準備して、わたしも2泊分の荷物を用意して、今夜の宿、LEELAへ向かわねば。第一、昼食抜きでおなかがぺこぺこなのだ。タクシーを呼び、荷をまとめ、部屋を出る。すでに時計は9時をさしていた。