明日のデリー行きを控え、今日は一日多忙の予感。別に、旅行から戻って作業をしてもいいのだけれど、できることならできるだけ、整った家に帰って来たい。それに、がらんとした部屋しかしらない夫に、「どうだ!」という感じで、成果を見せてやりたい。このようなことに関し、夫がさほど感激しないことは予測され、結果的にはわたしの自己満足のためになるのだが。
さて、午前中に、大家のチャヤと片腕(手下)のヴァスがやってきて、取り替えを要請していた便座カヴァーを付け替えてもらうことになっていた。それから、プロパンガスの設置や、水漏れ箇所の修繕などなど。
その作業が終わって午後、昨日調達しきれなかった日用品、フォークやスプーンなどのユーテンシル類、最低限の食器や鍋などを買いに行く予定にしていた。夕方には、カーテン店が取り付けにやってくるし、一部不具合のあった家具を修繕しに、家具店も来ることになっている。
ところが、何度電話をしても、「今すぐ行くから」と言いつつ、来ないチャヤとヴァス。結局、他の用事が優先されているらしく、昼過ぎになるとのこと。
「時間を守ってもらわないと、わたし一人で切り盛りしてるからたいへんなんです!」
と、ついつい声を荒げてしまう。だって、本当なんですもの。こんなことなら、午前中に買い物に出かければよかった。お腹も空いた。早くも非常食用のカップヌードルをあける。
本当はランチは外で食べるつもりだったのに。と思いつつ、お湯を注いで3分。蓋をあけると、ん? 汁気がほとんどない。ついでに、箸もフォークもない。しまった。まだ何も買っていないんだった。部屋を見回す。なにもない。いくらインドだからって、カップヌードルを手づかみで食べるのは辛い。だからって、ボールペンを箸代わりに? まさかね。
と、コーヒーメーカーについていた計量スプーンを発見。これしかない。極めて情けない状態でラーメンを混ぜ、すくう。ん? 麵がむやみやたらと柔らかい。アメリカのダイナーのスパゲッティも真っ青の柔らかさだ。
見た目はカップ焼きそば。味としてはカレーうどん。こしのまったくない麵。非常に投げやりな味である。日清がインドに於けるカップヌードル販売戦略で苦心したとの記事を以前読んだ。で、改良を重ねたとのことだったが、これが改良品なのか。インド人にはこれがうまいのか。嗜好品というよりも、「非常食」的な要素をアピールして販売したら、意外と売れるんじゃないか。などと余計なことを考えつつ、食す。
空腹時にはなんでもおいしく感じるはずである。ということで平らげる。
そうこうしているうちに、チャヤとヴァスが、ようやく登場。ついでにマネージャーオフィスから「一日お掃除部隊」を派遣してもらう。彼らのサーヴァント(使用人)を、数時間借りて、部屋の拭き掃除などをしてもらうのだ。
自分一人でなにもかも、やってられないからね。それに、暇のある彼らに仕事を与えることで、彼らの収入にもなるわけだし。ちなみに、「急ぎお願いしたい」ということで、一気に5人、来てもらい、窓拭きだの床拭きだのをしてもらう。
料金は1人50ルピー(1ドルちょっと)でいいとのこと。それ以上渡しても、相場が崩れるのでよくないとのこと。
それから、サムソンの営業マンもやって来た。インドでは家電などを買うと、メーカーの人がいちいちご家庭に訪問し、使用方法などを伝授してくれるのだ。日本も昔はそういう感じだった気がするな。米国ではありえなかったけれど。で、サムソンの営業マンは、すでに知ってはいるのだけれど、洗濯機の使い方を教えてくれた。そして洗濯機カヴァーとスタンドをくれた。いや、正確には「売って」くれた。
電子レンジの使い方、冷蔵庫の使い方も教わる。「ここは、チーズなどをいれる場所です」「ここは野菜室です」などと、一つ一つ丁寧に説明してくれるので、「わかってる!」などと言わずに辛抱強く説明を聞く。あと、TVの操作方法も教わった。これは、わたしはよく知らないので、一応、ためになった。
さて、掃除も終わり、ようやく買い物に出られるころには4時となっていた。カーテン店と家具店には夜7時以降に来てくれと頼んでおいたのだが、それにしてもあと3時間しかない。なにしろ夕方の街は渋滞がひどいから、いったいどれほどの買い物ができることか。
渋滞の街。タクシーを呼ぶも、アパートメントに到着するまでに30分以上もかかる。もう、オートリクショーで出かけようかしらんと外に出たところで、タクシーもやってきた。
まずはMGロード、それからブリゲイドロードの日用品店、雑貨店などを巡るが今ひとつの商品しか見つからない。仕方ない。ちょっと離れたショッピングモール「ガルーダ」まで出かけよう。その中にあるWEST SIDEというデパートには、ちょっとした食器などがあったはず。
と、行ってはみるが、やはり品揃えがぱっとしない。ユーテンシルセットとコーヒー豆を入れる缶など、なんだか中途半端なものを中途半端に買って店を出る。ああ。BED BATH AND BEYONDが恋しい。SUR LA TABLEが懐かしい。MACY'Sの半額セールが偲ばれる。
あきらめの境地でモールを出て、車を呼ぼうと、ふと斜向いのビルディングを見ると「HOME STOP」という看板が見える。ついこのあいだまで工事中だったビルディングだ。名前からして、なんだか家庭用品店ぽいではないか。しかも、店内が明るく人の気配がある。オープンしているようだ。こりゃ、行くしかあるまい。
道路を横切り、ビルディングに入ってびっくり。これはまた、うるわしきインテリアショップ! お皿やら調理器具やら、インテリア雑貨や、ベッドリネンなんかがいっぱいある。うわ〜。ブレンダーもフィリップス製がある〜! おもちゃっぽくない、本物っぽいものが!! ああもう、土曜のBIG BAZAARなんかで、気を失いそうになりながら、ちゃちなブレンダー、買うんじゃなかった!
うわ、フォークもナイフも、おしゃれなのがあるじゃん! わたしの好きな「木製」というか「竹製」のスプーンやフォークもある!! いやだ〜。さっき適当な物買ったばっかりなのに〜。ともかく、買ってないもの、栓抜きだのワインオープナーだのを買うぞ。そういう類いは、いずれ米国から届くにせよ、待っていられないからね。
早く帰宅せねばと気が急くが、最低限は今日、買っておきたい。なにしろ、夕べ、栓抜きがなくてビールを空けられなかったしね。
店員のお兄さんに、「ショッピングカートかバッグ、くれる?」と頼んだところが、事態を理解してくれない。もう、あんまり時間がないんだから、早く何か、商品を入れる物をちょうだいよ! と思うのだが、数人の店員がやって来ても、まだ埒があかない。
ちょっと! ショッピングカートのない店ってなんなの? どうやって買うわけ? わたしの英語が通じてないわけ? と何度もゼスチャーまじりで説明するのだが、なぜかみんなおたおたしている。
そこへ、マネージャーらしき女性がやってきて、「商品はわたしたちがお持ちしますから、お買い物を続けてください」と言う。
いや、なにもあなた方に持ってもらわなくても、自分で持つから、自由に買い物をさせてくださいよ。ともかく、カートか籠はないんですか? と尋ねると、
「実は、新規開店したばかりで、まだ準備が整っていないんです」
「開店したばっかりって、いつ?」
「ほんの、30分ほど前に。多分、あなたが第一番目のお客様になるでしょう」
あらま〜。確かに、店には何人かお客がいるものの、わたしのように積極的に「買うぞ!」という情熱をみなぎらせている人はいない。なんてこったい。
この店は、全印に支店を持つSHOPPERS STOPというデパートメントストアの系列らしく、このようなインテリアショップはここが第一号店なのだという。
必要な物だけを急ぎ選び、食器などは後日時間のあるときにゆっくりと選ぶことにして、レジに立った。と、奥から、また別のマネージャーらしき男性が出て来た。
「ご来店ありがとうございます。栄えある当店の一人目のお客様へ、これは記念のプレゼントです!」
と、中国的なミニチュア竹を渡してくれる。ちょっと地味なプレゼントね。と思いながらも笑顔で受け取る。店内の四方八方にちらばった店員全員より拍手がわきおこる。メディアのカメラマンからは写真撮影を所望される。なんだかわからんが、無闇やたらにめでたいムードだ。
昨日のラッセルマーケットと比べると、雲泥の差だ。なんだか振り子の端から端をぶんぶん行き来している感じ。なんと、味噌汁茶碗まで売ってるのよ! もうどうしましょう。とはいえ、インドに味噌は、多分売ってないけどね。で、右の写真は、何かの間違いじゃなく、一瞬、停電したときの様子。インドじゃ、こういう停電は日常茶飯事なのでね。一応記念に、撮影しておいた。
大いに歓待され、めでたい気分で店を出て、再び渋滞の海の中へ。家に到着したのはちょうど業者一行が訪れる直前だった。ヴァスが昼間、調達し損ねたプロパンガスを持参し、キッチンに設置している間、カーテン店の若者がやってくる。途中で布地が足りなくなったため、リヴィングルームの窓、一つ分が後日配送となったが、まあ、クッションと一緒に届けてもらえばいいだろう。
カーテンが下がったら、急に部屋が暖かみを帯びて、HOMEらしくなった。リヴィングのピンクのカーテンは、ちょっと華やかすぎかしら、と思っていたけれど、とてもいい感じ。ソファーの色ともいい調和で、ちょっぴりヴェルサイユ宮殿風? などと図に乗る。
こうなってくると、早くワシントンDCのストレージルームに眠っている荷物を輸送し、タペストリーなどを壁にかけたいものだという欲求が沸き起こる。来週手配するにしても、到着は2カ月後だろうな。
カーテン取り付け、それから家具の修繕。どちらもとても丁寧にやってくれているため、とても時間がかかる。お腹がすいた。時計を見るとすでに9時。明日は朝早いし、これから外食に出かけるのも辛い。
キッチンでビスケットを数枚、食べてはみたものの、それは火に油を注ぐ結果となった。またしても、カップヌードルの登場である。もう。カップヌードルを食べるなんて、数年ぶりのことなのに、一日に二つも食べることになるとは! でも、今回はフォークがあるから、まだ気分的に優雅だ。
家具屋さんがコンコン・カンカンやっているのを、ご近所迷惑だろうなあと気にしつつも、キッチンで湯を沸かし、カップヌードルを立ち食いする。今回、麵がのびないように、早めに食べたつもりだが、やはり麵はやわやわだった。でも、買っててよかった。カップヌードル。