モハンが我が家にやってきて以来、ヴェジタリアン料理続きである。なぜなら、肉類の調達先をまだ、確定していないからである。なるたけ品質のいいものを入手したいことから、義姉スジャータにお勧め店リストをもらっていたのだが、連日、なにかと所用が多く、なかなかモハンと一緒に出かける機会がない。
従って当面は、近所で手に入る野菜や豆、芋類を中心としたインド家庭料理が続いているのだった。
朝はフルーツにミルク粥、たまにトーストや目玉焼きなど。我々のリクエストに応じて、モハンが作ってくれる。
昼夜は、まろやかに味付けされたインド家庭料理。たとえば、トマトと豆の生姜風味スープ(これがおいしい!)にはじまり、ジャガイモとインゲンもしくはピーマンなど緑黄色野菜の煮込み、ニンジンのソテー。ほうれん草とパニール(牛乳風味のさっぱりおいしいチーズ)の煮込み、ダル(豆の煮込み)、トウモロコシの煮込み(わたしがトウモロコシ好きなので)……といった、野菜ばかりとはいえ豊かなメニューが毎日食卓に上る。
「飽きたら自分で料理をしよう」
「醤油風味と日本米が恋しくなったら、播磨(日本料理店)へ直行だ!」
と思っていたが、自分で何もせずにいい楽さがたまらないうえ、まだ自分の使い慣れた調理器具が米国から届いていないこともあり(いいわけ)、料理をしたいという衝動がまだ起こってはいない。
とはいうものの、さすがに毎日ヘルシーな野菜料理ばかりでは、通常肉食の身の上には辛い。あまりに健康的すぎて、身体に障るというものだ。早いところ、肉屋を開拓しなくては。
そう思っていた矢先の数日前。買い物のためにコマーシャルストリートを歩いていたら、ケンタッキーフライドチキンのジャンクな香りが漂ってきた。時は午後4時。ランチはすませていたし、夕食前に何かを食べるのはよくない。なのにそのジャンキーな香りが強烈に食欲をそそる。
今時分にファストフードを食すなど、よくないことだとはわかっていたものの、我が足は自動的に、入り口への階段を上っている。メニューを見る。スパイシーチキン。2ピース。食べたい……。香ばしそう。おいしそう。食べたい!
二つも食べたら夕飯がはいらなくなる。と思いつつも、2ピースがミニマムである。食べられなかったら残せばいい。ええい、食べちゃえ。ついでにダイエットペプシまでも注文してしまう。
「ふむ。なかなかにうまい!」
手をべたべたにしながら、窓の外を眺めながら、黙々と食べる。気づいたら、あららら、すべて平らげてしまっていた。ジャンキーに満たされた心身で、更に買い物を続け、日暮れに帰宅した。
一足先にオフィスから帰っていたアルヴィンドがデスクでコンピュータに向かっている。が、モハンの姿が見当たらない。
「モハンはどこに行ったの?」
「ん? 買い物。ぼく、肉が食べたくなったから、もうどこでもいいから鶏肉でも買って来てって頼んだんだよ。野菜ばっかりじゃ、なんだか力が出なくてさ〜」
ここで黙ってればいいものを、正直にケンタッキーの件を白状する我。
「ミホ! 僕は信じられない。自分だけフライドチキン? 僕にお土産を買ってこようとは思わなかったわけ?」
「だって自分、ファストフード、毛嫌いしてるじゃん。アメリカでもほとんど食べなかったでしょ。そんなの買ってくるのは悪いと思ってさ」
「信じられない! そんな言い訳。KFCは別だよ。たまに食べるとおいしいでしょ! あ〜もう、信じられない。自分ばっかり」
悪かった悪かったよ。一人で肉食べて。でもいいじゃん。モハンが作ってくれるんだからさ。直後、モハンが帰宅。どうやら先日、近所を徘徊したときに発見した店で、「しめられたばかり」の鶏肉を買って来てくれたようだ。
まあ、新鮮と言えば新鮮であるが、あの店、猛烈にハエが飛び交っていたからなあ。今後、買い続けるのはよしたほうがいいよなあ。でもケンタッキーよりはましかもね。第一、インドの鶏は「鳥インフルエンザ」にも無縁な免疫力を持っているしな。それに火を通してるんだから大丈夫だろう。などと思いつつ食べる。
少々、肉がぱさぱさしていたものの、カレーそのものの味付けはおいしく、夫も満足の夕餉であった。
早いところ、肉屋の開拓をせねばな。