ムンバイの、インド門の向かいにそびえ立つ、THE TAJ MAHAL。
華やかな歴史物語を携えた、威風堂々のこのホテルの、しかし、
インド門を見下ろし、集う人々を見下ろし、
アラビア海の水平線望むSEA LOUNGEは、
"intimate(親密な)"と形容するにふさわしい、心休まる場所。
テーブルの上の黄色いバラ。
少し間違いの多い、ピアノの演奏。
"Good afernoon, Madam."
と、物腰の穏やかな、老齢の給仕たち。
午後のひとときを、いつもの窓辺のテーブルで過ごしていた。
あたりが薄暗くなったころ、向かいのテーブルに、
静かな、しかし賑やかな、二人の男性が座った。
二人は音をたてない。
そのかわり、大きな身振りと手振りが、視界の隅に入って来た。
彼らの姿を認めた、給仕の一人がテーブルの傍らに立つや、
彼の諸手は忙しく動き出し、饒舌に語り始めた。
メニューを見ながら、なにかを問う客。なにかを答える給仕。
いつもは、緩慢な動きで、のんびりと注文を尋ねに訪れ、
ゆっくりとポットからティーを注ぐ彼が、
まるで人が変わったように、巧みに全身で語っている。
彼のような給仕がいることもまた、
すばらしきホテルたる所以なのだろう。