●服を買いに町へ出る。タクシードライヴァーに負ける
今夜もまた、Whartonのディナーに参加する運びとなった。しかしながら、パーティーに着て行きたい服がない。昨日は、黒いシャツと黒いパンツに、カラフルな刺繍のカシミアストールでお茶を濁したけれど、同じ服で出かけるのはつまらない。そんなわけで、今日の午後は、買い物に出かけた。
自分の服を買うことだけを目的に出かけるのは、とても久しぶりのことだ。このごろのムンバイは、空港付近のバンドラ地区が「クール」で、新しい店などもたいそうできているようだが、いかんせん遠過ぎる
今日のところはやや近場の、クロスロードというショッピングモールに行こうと思う。タクシーのドライヴァーにその旨を告げると、何を買うのかと問う。服だと返答するに、しきりと他の店を勧めはじめた。
彼らがコミッションをもらっている店へ強引に連れて行かれるのはいやだから、
「行かない」
と言っているのに、しつこい。間口は狭いがデパート並みだとか、品質がいいとか、無闇に勧める。
「行かないってば!」
と半ば怒鳴るように言っているのに、諦めない。しつこいしつこい。
「黙ってクロスロードに行ってよ」
それでも、ひかない。ああもう、なんて鬱陶しい男だ!
「タクシーのドライヴァーはすぐだますから、わたしはいやなのよ!」
とまで言っているのに、
「絶対に、あなたの気に入る服があります!」
と、自信満々に断言するから、こりゃまたびっくり。
おうおう、そこまで言うのか。あなたがわたしの好みを知っているとは、そりゃ初耳。絶対に、あるんだな、わたしの好みの服が。わかった、立ち寄ってやろうじゃん。そのあなたの勧める店ってやつに!
わたしの反撃にも一切ひるまぬドライヴァーに根負けして、彼が断固として勧めるその店へ行った。
タクシーを降り、店のドアを開ける。ん……? なかなかいい感じ……?
あら、このブラウス、素敵かも。でも、ちょっと派手よね。いやいや、ムンバイでこれは地味な部類かしら。あ、こっちのこの黒いブラウスはいいんじゃない? ちょっとスパンコールきついけど、パーティーならいいわよね。
……あるじゃん。わたし好みの服が。
こいつは一本とられたな。ドライヴァーに勧めれたこの店で、結局、ブラウスを買ったのだった。少々派手だが、ま、インドだし。
せっかくだから、今日は服探しを楽しもうと、その後、クロスロードへ行き、それからオベロイホテルのショッピングセンターに行き、更には帰りにコラバ地区の繁華街を歩いたりもしたのだが、「これ」といった服は見つからなかった。
コラバ地区の、裏寂れたハンドバッグ店で、しかし買ったばかりのブラウスと合いそうなバッグを見つけただけに終わった。つまり、今日のショッピングは、「ドライヴァーのお陰」で、達成したといえるだろう。たまにはドライヴァーのいうことも、素直に聞いてみるもんだな。っていうか、全然素直じゃなかったけど。
さて、夜、夫とホテルの部屋で待ち合わせ、今夜の会場であるTaj Mahal Hotelへ向かうことにしていた。一足先にホテルに戻り、着替え終わったところで夫も戻って来た。開口一番、
「ミホ、何それ。ちょっと派手すぎない? あんまり洗練されてないと思うよ、そのファッション。それで行くの? ちょっと後ろ向いて。う〜ん。ちょっと変だけどさ〜。他にないんでしょ? いいよ。好きにすれば」
ずいぶんな、反応である。そんなに派手〜? ここはムンバイだよ。店の中で最も「地味な部類」の服だったんだから。
●今夜もまた、Whartonのディナーパーティーに
また、どうでもいい話題に文字数を割いてしまった。さて、そんな服の話はさておき、イヴェント最終日の、今夜はディナーパーティーである。Taj Mahalのボールルームでの、まずはカクテルパーティーへ。
米国から出張のついでに来た人、わざわざこのイヴェントのためだけに来た人、わたしたちのように米国から移住したばかりの人々、中国、シンガポール、香港、日本など、周辺アジア諸国の人々……。国籍、年齢、職種、さまざまに異なる人たちが、Whartonというキーワードを寄る辺にして、この場所に集っている。
上の写真は、University of Pennsylvania (Wharton)のプレジデントであるAmy Gutmann氏である。今回、ムンバイでのグローバルアラムナイの実現に尽力されていたようで、スピーチの端々からその情熱が伝わってくる。
冒頭で簡単に触れていたが、彼女の父親は、ナチスの手から逃れるために、ムンバイに久しく暮らしていたのだという。父親と母親にとって深い意義を持つこの地を、今回彼女は初めて訪れたとのことだが、ひとかどならぬ思い入れがあるようだ。
先日、INDIA MEDIAに紹介した記事で、「Whartonはインドへ学生を買いにショッピングに来た」と、やや下品な言い回しで表現されていたけれど、彼女らが、今後のアジア経済の発展を期待し、米国とのつながりを密にしていこうと働きかけている様子がつぶさに伝わった。
「あなたが、未来です!」
「ビジネス、経済のグローバリゼーションに、わたしたちは貢献しましょう!」
去年はシンガポールでこのアラムナイが行われた。今年はこのムンバイ、来年は香港が会場になるという。ぜひ、行かなければ。
……いや、わたしは卒業生ではないのだけれどね。
タージマハルパレスのボールルームで、まずはカクテル。すでに顔見知りの人たちもちらほら。ラッフル(抽選)が行われたところ、昨日ツアーでご一緒したマヨさんのご主人が、賞品の一つに当選なさった! ムンバイで最も有名なファッションデザイナー、Tahilianiのギフト券だ。とはいえ、お二人は明朝、日本に帰国。使い道がないからと、なんとわたしにそのギフト券をくださった! いや〜、なんだか申し訳ないけれど、ものすごくうれしい!
カクテルのあとは、隣のボールルームに移動してのディナーパーティー。インド料理とコンチネンタル料理が、多彩に用意されている。デザートもたっぷり。知らずのうちに、赤白ワインが、次々にグラスに注がれていて、夫もわたしも、気がついたらもう、すっかり酔いが回っている。
食事を終えて、記念撮影。背後に立っていらっしゃるのがマヨさんと、ご主人のナカツカさん。わたしの隣は、シンガポールからのカップル。デリー出身のアルヴィンドさんと、中国出身のランさん。
こちらのアルヴィンドさんは、今後バンガロアでビジネス展開をなさるとのこと。来月にも来訪するとのことで、再会を約束。この夕食のあと、一同、ホテルの1階にあるクラブへ。シガーの煙が立ちこめ、騒音みたいな音楽が流れる中、人々としゃべり続けて、すっかり喉が枯れてしまった。
イヴェントを終えてホテルに戻ったら、ドアマンに「グッドモーニング、マダム」と言われた。腕時計を見たら、すでに午前1時を過ぎていた。
酔っぱらい顔でやばいが、これがタクシードライヴァーお勧めの店で買った服だ。クリスマスツリーの装飾ではない(ようやく今頃、クリスマスツリーの撤去作業が行われていた)。
日本的感覚で言うと、ちょっぴり派手かもしれないが、マンハッタンの五番街のヘンリーベンデルあたりだったら、300ドルくらいの値段は軽くつけられそうなクオリティ。ハンドバッグはスパンコール、ビーズきらきらのインド的パッチワーク、ハンドル部分がカラフルな石。ブラウスとバッグを合わせても80ドル以下。リーズナブルでした!