●社交その1:バンガロアに住む異邦女性たちのグループに入会
バンガロア(バンガロール)に移住する前、義姉スジャータに、この組織のことを教わっていた。OWC (Overseas Women's Club of Bangalore)。バンガロアに在住する、外国籍の女性たちのためのクラブだ。移転したらいち早く参加してみたいと思っていた組織だったが、なにかと多忙な日々が続いていたため、今日になってようやく、毎週、開かれているティーパーティーに参加することができた。
会場は、空港近くにあるホテル、Leela Palaceのライブラリーバー。ここで毎週木曜日の10時から12時まで、コーヒーやティーを飲みながらの集まりがあるのだ。入会に必要な申込書とパスポートの写し、写真を携えて出かける。
入会の手続きをしてくれたのは、在印25年余という米国人女性。毎月配られる会報誌"The Rangoli"を開きながら、会の説明をしてくれる。
週に一度のこの会合の他、月に何度か、伴侶を交えての会、また季節や祝日に合わせたイヴェントなども企画されているようで、非常に面白そうだ。
会員は現在400名ほどいるそうだが、主には駐在員夫人とあって、入国、帰国の入れ替わりが激しいようである。本日の参加者は50名程度だっただろうか、主には欧米の白人女性、それからコリアン、インド系米国人の姿が見られた。
現在ホテル住まいで、今アパートメントを探している人、あるいは、数カ月後に移住予定のため下見に来ている人など、未知なるインド生活の足がかりとして、この組織に入会し、情報を得ようとしている人も少なくないようだ。
わたしは、自分の身辺がようやく落ち着いてからの入会だったが、本来なら、先にこのような場所で人々のアドヴァイスを仰ぎ、情報を得て、効率的に買い物などをするべきだったのかしらとも思う。
何名かのメンバーと知り合いになり、連絡先を交換し合う。カリブ出身の女性、インド系米国人女性、自らの仕事で赴任した米国の女性、デンマーク出身の女性、英国人の夫を持つロシア人女性、ニューヨークとバンガロアを行き来している日本人女性……。この小さなライブラリーバーから、地球儀が見えてくる。
ニューヨークやワシントンDCは、バンガロアが遥か及ばぬほど「インターナショナル」ではあったが、それはあまりにも大きな概念となっていて、敢えてその形に触れて確かめてみる、という機会は少なかった。バンガロアでの「インターナショナル」は、米国のそれとは異なる。うまく説明がつかないのだが、インドにおける国際的な場面というのは、端的に言えば、面白い。
また、縁あって、不便な第三世界へ来てしまった人たちが、支え合おうとする真剣さや熱意が感じられる。丁寧に書かれ、編集された会報誌を見ていると、その熱意が伝わってくる。
イヴェントカレンダーをはじめ、生活情報、旅行情報、使用人やドライヴァーの求人、クラシファイド、ヴォランティア情報、育児、教育情報などが、シンプルにまとめられている。年に一度は、生活情報を満載したガイドブックも発行しているとのこと。2月に本年度版が出るらしいので、購入するつもりだ。
来週は、伴侶を招いての会もあるらしい。夫も会報誌を読んで感心していた。今度は二人で一緒に出かけようと思う。
●社交その2:由緒あるバンガロアクラブの(準)メンバーに
上記の会合の帰り道、Bangalore Clubへ会員証を受け取りに行った。こちらのクラブは、誰でもがメンバーになれるわけではない、この地では非常に由緒ある社交クラブである。そのクラブの、正会員である義父ロメイシュの手配で、わたしたちは「準会員(家族会員)」になることができた。
1868年創立、英国統治時代に設立されたクラブで、ウィンストン・チャーチルをはじめ、歴史に名を残す著名人らが会員だったという。現在、正会員になるには、10年待ち、20年待ちという「競争率」の高さで、実はチャヤ夫人でおなじみ我が家の大家、バティヤ夫妻ですら、入会待ちなのだ。
なのに、新参者の我々が、しかもインド人でないわたしまで、準会員とはいえ、出入り自由の身になった。ふふふ。なぜかといえば、それはロメイシュの尽力のお陰である。アルヴィンドがまだ小学生のころ、マルハン一家はこのバンガロアに一時期、住んでいたことがあった。ロメイシュの転勤が理由だ。
そのとき、ロメイシュは、やはり何年かかけて会員になっており、以降20年余り、会員同士のネットワークを広げて来た。わたし自身、これまでも、クラブへはロメイシュと一緒に訪れたことがあった。古くからの読者はご記憶かもしれないが、彼が、
「ミホ、ここにはね。男性しか入れないメンズ・バーがあるんだよ」
と、ものすごく嬉しそうに告白してくれた、あのクラブである。
わたしたちがバンガロア移住を報告した瞬間から、わたしたちが自由にクラブに出入りできるよう、彼は入会のための「同意書集め」を開始してくれた。正会員5名の同意書を得られれば、家族を準会員にできるという仕組みらしい。聞けば簡単そうだが、正会員が同意書を書けるのは1年間に一人だけと定められており、そうたやすいことではなかったようだ。
結局は、すでにインドを離れていた人々(フランスやドバイ、英国など)に資料を送り、同意書を集めてくれたのだとか。いくら時間に余裕のあるリタイアの身とはいえ、わたしたちの便宜を図ってくれたのは、切にうれしい。準会員でも、クラブの施設は自由に使えるし、イヴェントやパーティーにも参加できる。
米国時代とは異なるソーシャルライフを、ここでは楽しめそうである。しかしながら、夫は相変わらず、
「このアパートメントは快適だけど、バンガロアは嫌いだ」
「渋滞はひどいし、言葉は通じないし、故国に帰って来た気がしない」
と、日課のように口にしているので、近い将来、デリーやムンバイに行くことになるかもしれない。わたしとしては、どんなに短くても1年、できれば3年はここで腰を落ち着けたいと思うのだが、人生、思うようにいかないものである。いや、なんとかして、ここでの在住期間が長くなるよう、運命を操る努力をせねばならない。
(どんな?)
正会員のカードはATMカードみたいにしっかりしたものだが、おまけ会員は、この簡素なもの。でも、これで出入りが自由にできるのだから、いいのである。