そこはかとなく、我が敬愛するサルバドール・ダリ的な、朝食のテーブル。
目玉焼きを食べるのは、週に一度か二度。夫は先天的にコレステロール値が高いので、卵は控えている。主にはわたしが食べる。
米国での十年間は、「生卵」から縁遠かった。米国の卵の賞味期限は果てしなく長い。基本的に「生食」は禁じられている。渡米当初、そのことを知らずに生卵で卵かけご飯を食べた日本人学生が、全身蕁麻疹にやられて大変な目に遭ったという噂も聞いた。
わたしはといえば、オーガニックの卵で日付の新しいものは、半熟程度でも食べていた。
たまに日本食料品店で生食OKな卵を仕入れたり、あるいはワシントンDC時代に、郊外の日本人が経営する温泉宿で「生みたての卵」を分けてもらったりして、「卵かけご飯」を堪能したことは数回ある。
いつでも食べられると思うとありがたみなどないのだが、滅多に食べられないわかると、途端、その存在価値が高まる。卵かけご飯は、まさにその筆頭であった。
翻ってインド。やはり、生卵は危険である。とはいえ、半熟程度なら大丈夫だろうと、わたしは柔らかな目玉焼きを常食している。今のところ、体調に異変はない。
ところで、なぜかデリーの卵は黄身が白い。だからデリーの実家で出される目玉焼きはちっともおいしそうに見えないのだが、バンガロアの卵は世界基準で黄色い。昨今の日本の卵のように、過剰なオレンジ黄色ではないが、非常にまっとうな黄色である。
ちなみに我が家では、THOM'Sというベーカリー兼マーケットの卵を購入している。ベーカリーの卵なら「回転」も早そうだし、新鮮ではないかと思われてのことだ。
卵は店の一画に、大きなケースに入って置かれている。自分の好きな分だけ、ビニル袋に入れて買う。昔の日本もそうだった。しかし、ビニル袋に卵を入れるというのは、ちょいと危険が伴う。
昨日のことだ。買い物のあと、卵だけをわたしは大事に手持ちし、あとの荷物はトランクに積んだ。週末のパーティーのために購入した食品やアルコール類を、家政夫モハンとドライヴァーのクマールが手分けをしてエレベータに運び込む。
モハンがエレベータに乗り込もうとしたところで、ドアが閉まりかけた。わたしは咄嗟に、ドアとドアの間に手を伸ばした、その手に握っていたのは卵のビニル袋 Oh my god!!
鈍臭いインドのエレベータはセンサー能力がなく、無情にも、思い切り我が手、我が卵を押しつぶす。いや、鈍臭いのは我か。
10個中、2個をだめにしてしまった。思ったよりは軽症だった。一つはひびが入ったので、「これは明日の朝、目玉焼きにしてね」とモハンに託した。
そして朝。フルーツやミルク粥を用意したあと、フライパンを熱して卵を焼く音が聞こえて来た。キッチンに入ったわたしをみとめるや、モハンは、
"Two! Two!"
と、興奮気味に訴える。何を言っているのかこの男は。いぶかしげに思っていると、フライパンのふたを開けて見せる。おお。双子の卵だ。我らの素朴なコミュニケーション。
ちなみに、目玉焼きは、トーストに載せて食べるのがお気に入り。最近見つけたDAILY BREADというブランドのパンとともに。写真はHealthy Whole Wheat bread。素朴なおいしさ。