今日は、日本人の女性3名をお招きする。「桜会」で知り合った帰国間近の奥様とそのお嬢さん(マリコさん)、その友人の女性。またしても家政夫モハンのランチをふるまう。
マリコさんはこのブログの読者でもあり、かねてからモハンの料理に関心を寄せていた模様。思えば、アルヴィンドの話題よりも、モハンの話題の方に文字数を大きく割いている昨今。図らずもモハンファンを増やしているようである。
今月の下旬、訪れる予定の日本の母曰く、
「ミホ。ヒンディー語の会話の本を買ったから。ちょっと勉強して、モハンさんとお話しなきゃと思って」
お母さん。その心がけはうれしいけど、ヒンディー語よりも先に、英語だと思うのね。モハンとの会話よりも先に、わたしの夫との会話が先だと思うのね。
すっかりマイハニーの影が薄くなってしまっているようで、いけない。でも、当分は、モハンの話題がアルヴィンドの話題を大きく上回ることは避けられそうにない。今はまだ、「出会ったばかり」で、発見の多い時期なのでね。
お母様とご友人が一足先に帰られたあと、マリコさんと二人でしばし話をしたあと、モハン休憩中につき「俺の城」に二人して潜入。そのすっきりと片付けられたキッチンの、ガスコンロを見て、マリコさんが驚嘆の声を上げる。
「顔が映りますよ! 顔が!」
マリコさん、半ば興奮状態。というか、全面的に興奮状態。上の写真がそれである。そうなのだ。朝昼晩、調理したあと、彼はコンロをピカピカに磨き上げるのである。
日本人であれば、これは普通のことであろう。しかしここはインド。お片づけの下手な人が多いインド。使用人で苦労している人たちの話題に事欠かない駐在員家族にあって、やはりモハンの家事能力は群を抜いているようだ。
「ブログで読んだ以上の実力」と、マリコさんの評価。
しかし、惜しむらくは、以前も書いたが「流し台のステンレス部分」に茶渋的汚れが定着していること。インドじゃそんな汚れは普通なのだろうが、日本人としては磨き粉で磨きたいところだ。
彼に磨いて、と頼んでもいいのだが、でも、まあわたしが台所を使う訳じゃないし、彼のいない間に洗剤やタワシでゴシゴシやるのも厭味だから、これまで気づかぬふりでいた。
マリコさんが帰ったあと、しかし急に、台所掃除がしたいという衝動に襲われた。モハンはまだ、あと1時間は戻ってこないはずだ。念のため、キッチンのドアを閉める。先日、帰任間際のお向かいのアンドウさんからいただいていた、日本の「キッチンハイター」を取り出す。
流し台に水を張り、まな板やふきん、マグカップなどを漂白することにした。こうすれば、流し台の汚れそのものも落とせるに違いない。
つけ込んで数十分後、さて、そろそろ水を抜いてもいいだろうか……とキッチンへ立ったところへ、モハンが戻って来た! 一歩早すぎ!
(俺のいない間に、マダムは一体、ここで何を……?)
と言わんばかりの、いぶかしげな顔で、流し台を見つめる。
わたしはキッチンハイターを指差しつつ、ちょっぴりしどろもどろで、
「ジャパニーズ、クレンザー、ベリーグッド!」
更には、「カッティングボード、カップ、タオル、エブリシング、クリーン!」
彼に合わせて英単語の羅列で、事情を説明する。おいおい。彼に気を遣ってどうするんだ。
「テンミニッツ、テンミニッツ」
10分たったら、栓を抜いて洗ってね。でも、手が荒れるから、ビニル手袋使って、しっかり洗ってね、とゼスチャーで伝える。モハン、複雑な笑顔で、わたしから手袋を受け取る。が、彼が手袋を使わないことはわかっている。
本当は、漂白剤を流したあと、流し台を磨けばピカピカになったはずなのだが、あいにく、染みは残ったままだった。ま、いいや。とそのときは思っていた。
そして夜。バスルームの電球が切れたので、モハンに買いに行ってもらったら、ついでになにか、ビニル袋に入った粉を買って来た。それをわたしに示しながら、彼は言った。
「インディアン、クレンザー、ベリーグッド!」
そうしておもむろに封を開け、流しにクレンザーをハラハラとまき、ごしごしと磨き始めるではないか!!
わたしは確かに、まな板、マグカップ、ふきん、漂白したよ。でも一言も、流し台を磨いてほしいとは言っていないし、磨くそぶりも見せてないよ。にも関わらず、この以心伝心っぷり。
マダムの控えめな(いや、あからさまか)、清潔さに対する要求を、彼は速やかに察知したのであろう。
夕飯が終わってからも、彼は流しの横の、皿を置く台のあたりもゴシゴシ磨いていた。かなり時間をかけて、すごく念入りに磨いていた。
そして、いつものように床を掃き、モップと雑巾でくまなく水拭きして、部屋に戻って行った。
彼が戻ったあと、キッチンをのぞく。そこには、まばゆく輝く流し台。
泣けたね。