ここ数日は、米ブッシュ大統領の笑顔がインドメディアを賑わせていた。
1978年のカーター大統領、2000年のクリントン大統領に次いで、今回訪印したブッシュ。
生真面目で知的な印象の印マンモハン・シン首相とは対照的に、旅の疲れも見せず陽気な笑顔のブッシュ。大統領専用機Air Force Oneでデリーに到着後、マンモハン・シン首相の傍らに立ち、晴れやかな表情でスピーチする。
「本日は、我々のために、すばらしい天気を用意しておいてくれてありがとうございます!」
冗談まじりに挨拶するも、マンモハン・シン首相の反応はゼロ。とはいえ、今回の会談の成果は大きかった模様。最大の成果は「原子力協定」実施の合意。平和利用を目的とした原子力技術や核燃料を、米国がインド側へ提供するというもの。
これに伴い、インドは民生用核施設の国際原子力機関(IAEA)による査察を受け入れることになる。加えて、軍事兵器を米国がインドに「販売する」という話も進められたようだ。
また、外国人が米国で働くために必要な一時就労ヴィザ(H1B)の、インド人に対するキャパシティを拡大するとの合意もされたとの記事もあった。
全般に亘り、インドと米国の関係が強化されたことには違いない。
米ブッシュ大統領を、わたしは好きではない。支持してもいない。むしろ嫌いだ。
しかしながら、彼がデリーの、夕闇に麗しく照らし出されたオールドフォートで、朗らかに演説している姿を見て、なぜか胸が熱くなった。
米国とインド。国家と国家の大きなうねりの中に、わたしは厚かましくも、自分たちの人生のうねりを重ねて見ている。
わたしたちは、米国で、それなりに美しい環境の中で、平穏に暮らし続ける道を選ぶことのほうが、楽だったかもしれない。
けれど、夫の祖国であるインドへ、どうしても一度は住みたいと思った。「行こうか」「やっぱりやめようか」とせめぎあいを続けた約2年間。最後にはまるで「無理矢理押し通す」状況で、インドへ来た。
あんなに大変な思いをしてまで(具体的なことはどこにも書いていないけれど、本当に、ものすごく、大変だったのだ!)、どうしてこの国に来たかったのか、自分でもその理由はわからない。根拠がないから、保証もない。
このインド移住が、今後のわたしたちにとってどういう結果をもたらすのか、まだ、誰にもわからない。夫はまだ、過程のただ中にあり、自らを発揮する場所を見定めてはいない。わたしにしても然り。
ただ、ブッシュの演説を聴きながら、強く確信した。もしも、わたしたちがインド移住を断念していて、これを米国で聞いていたら、ひどく無念な思いにかられていたことだろうと。
米国が歩み寄ることによって、インドは更なる成長、変革を遂げることになるだろう。そのただ中に身を置けることは、非常にエキサイティングなことである。
夫には、少しでも早く、自分が納得のいく状況に到達してほしいし、わたしもまた、彼の方向性が見えたときには、自分のライフワークとしての仕事を見極めるために力を尽くしたいと思う。
今しばらくは、勇敢な有閑マダムとして視界を広げ、やがては必ず焦点を。
夫と二人、「やっぱりインドに来てよかったね」と確信を持って言い合える日が来るのが待ち遠しい。