夕べ、母と妹、そして夫と4人で、相変わらず「蚊パラダイス」なバンガロア(バンガロール)国際空港を発ち、シンガポールのチャンギ国際空港へ到着した。
チャンギ国際空港で二人に別れを告げ、わたしと夫は香港行きの便に乗り継ぐ。
先月、ちょうどわたしが母を迎えにシンガポールへ来ていた頃、夫もまた、香港に滞在していた。それは「転職活動」の面接のためだった。その香港に本社をおく会社が、近々インドオフィスを開設するということで、彼がポジションを得たのである。
正式には5月1日より、彼はその会社に勤め始める。無論、インドオフィスの実質的な開設までには数カ月あるゆえ、当面はバンガロアにて準備期間となる模様。準備が整い次第、我々は、多分デリー(もしくはムンバイ)に移転することになるわけだ。
今回の香港来訪は、30日に行われる重要な定例ミーティングに参加するため。今後もしばしば、香港には訪れることになりそうで、つまりはわたしも同行することになりそうで、今回はその序章である。
すでに香港二度目の夫は、実は香港初体験なわたしに、「先輩風」を吹かせながらあれこれと説明してくれる。
空港を出たら電車(エアポートエクスプレス)で市街まで出るのだとか、タクシー代は安いのだとか、今夜は超おいしいガチョウのローストにしようかそれとも寿司にする?とか、香港ドルを7で割ると米ドルだから計算を間違えないでよとか、7の段の九九を暗唱してみろとか(!)、いろいろうるさい。
なにしろ、今回の1カ月旅行が確定したのは十日ほどまえで、チケットなどの手配をはじめたのが1週間前。下調べなどする余裕もなく出て来たゆえ、空港の案内所でもらった日本語の情報誌を電車の中で走り読む。急ぎのときは日本語の方がはるかに吸収度が高いので。
香港駅で電車を降り、今度はタクシーでホテルのあるコーズウェイベイというエリアを目指す。ここに今回宿泊するホテルがあるのだ。日本のデパートメントストアなども点在する、繁華街のようである。
それにしても、だ。香港は、空港といい町といい、なんと清潔感みなぎっていることか。無論、インドから出てくると、どの国のどの町も、おおよそきれいに見えるに違いないのだが、香港はかつて混沌としたアジアの都市という印象があったから、近代的な美しい摩天楼の有様に感嘆する。
97年に返還されて以降も、劇的に成長を続けているであろう様子が、初めて訪れるにも関わらず、感じ取ることができる。
ホテルにチェックインしたあと、まずはホテルのレストランで軽く点心を。それから部屋に戻ってシャワーを浴び、わたしは数時間、深く寝入る。夫は早速仕事を始める。
そして夜。夫に導かれるがままにタクシーに乗り込み、ランカイフォンというエリアへ。ここは外国人の多い繁華街で、日本で言うところの六本木的な場所らしい。久しぶりに見るまばゆい町のネオンに、心が沸き立つ。
さらには、夫が有無を言わさず突き進んでゆく中国料理店へ、わたしもあなたまかせでついてゆく。前回、一人で訪れたとき、一人で食べに来たという店だ。久々の「受け身な行動」が妙に心地よい。
思えば先月末、彼が香港より帰国した翌日、わたしと母もシンガポールからバンガロアに戻って来たのだが、わたしが面接のことを気にして香港の滞在報告を聞き出そうとしているのに、彼は最初の数十分程は満面の笑顔で、香港のグルメレポートを間断なく語り続けたのだった。
義母のウマが「この話聞くの、わたしこれで三回目」と苦笑しながら、夫による点心やジューシーなガチョウのローストの話題に耳を傾けていたものだ。なにしに行ったのだ香港へ。
さて、巨大なネオンサインの看板のふもと、店頭にこんがりと色づいたガチョウが掲げられたその店、YUNG KEEは、観光客と地元の人が混在しているといった風情で、とても込み合っている。しかしながら、すぐに二人席へ通された。
「わお! この間は、ぼく45分も待たされたのに、今日はラッキ〜!」
実にうれしそうに、テーブルに着く夫。ガチョウのローストと野菜炒め、それにチャーハンを頼むことにする。
「ミホは何を飲む? ぼくはプラムワイン(梅酒)がいいな。あるかな」
「わたしは紹興酒にするよ。中国のお酒」
「紹興酒? なにそれ? おいしい? どんな味?」
「ちょっとヘレス(シェリー酒)に似た、風味の強いお酒。おいしいよ」
「じゃ、僕も試してみる」
紹興酒はボトル1本ごとの注文だとのこと。多いとは思ったが、せっかくなので頼んでみた。乾燥した梅干しに粉砂糖をまぶしたようなものを、小さなカップにいれ、そこに温められた紹興酒をついでもらう。おいしい。
「このお酒、ちょっと苦い感じだけどおいしいね。干したプラムもおいしいね。ぼく、プラムワインが飲みたかったから、ちょうどよかった〜」
夫も気に入った様子である。彼はまた、初めて食べるピータンも気に入ったようで、「お通し」で出されているのに追加注文する。
「このパリッとした皮、薄い脂身、堅い身の組み合わせがたまらないんだよね〜」
幸せそうに料理を口に運ぶ夫。紹興酒を注ぎにきたウエイターに向かって、
「僕はこの中国酒、初めて飲むけど、これってシェリー酒の風味に似ているね」
と、いかにもの表情で、得意げに話しかける。だからそれは、わたしのコメントだってば。
気がついたら、ボトルの半分ほども飲んでおり、我々にしては飲み過ぎである。
なんだかとても、酔っぱらいである。半分はお持ち帰りにしてもらった。
さて、明日から夫は主には仕事。わたしは丸5日間を、気ままに過ごそうと思う。
3月26日〜4月2日:香港
4月2日〜4月5日:サンフランシスコ
4月6日〜4月12日:ハワイ(カウアイ島のみ)
4月12日〜4月16日:サンフランシスコ、ナパ
4月16日〜4月22日:ニューヨーク