日曜日。明日の深夜には妹も訪れ、そして来週の日曜日にはもう、母も共に帰る。一年の12分の1が、瞬く間に過ぎて行く。
今日は、ヴァラダラジャン家(義姉スジャータとラグヴァンの家)にてランチ。バーベキューをするとのことで、我が家のモハンは午前中から「出張サーヴィス」に駆り出されている。わたしたちも昼前に、IISc (Indian Institute of Science)のキャンパス内にあるヴァラダラジャン家へ。
まだ、ランチまでには時間があるということで、ラグヴァンがキャンパス内を案内してくれる。わたしたちはすでに、何度か巡ったことはあるのだけれど、今日は初めて訪れる母のために。
カンファレンスが開かれるとのことで、今日はメインビルディングの前庭に、美しい花がデコレーションされていた。目に鮮やかな色とりどりの花々が、夏の日差しをいっぱいに受けて眩い。
銅像は、創設者であるJ.N. Tata。IISが、TATA Instituteと呼ばれる由縁だ。すでに何度も記したが、ラグヴァンはここの研究者であり教授である。
雑木林の広がる、静かなキャンパスを歩き、ラグヴァンの研究室へ。現在は、エイズワクチンの研究をしているとのこと。数年前に訪れたときと同様、研究室の機材などを説明してくれる。
かような場所を訪れるのは初めてとあって、母は少々緊張気味。無理もない。ラグヴァンは相変わらず、「零下30度」とか、「零下60度」とかいった表示のある冷蔵室からシャーレを取り出しては、
「見てご覧。これが、バクテリアだよ」
などと、朗らかに説明するのである。あまり見たくないのである。見てもあまり、楽しくないのである。
それでも半ば好奇心で研究室内を巡る。零下4度の冷蔵室にも連れて行かれる。寒いのである。
「これは、マイクロミリリットルまで計れる器具なんだ」
と言いながら、小さな小さな水の雫を作って、手のひらにぽとんと落としたりもしてくれる。
さて、更にキャンパスを散策してヴァラダラジャン家に戻れば、モハンが日射降り注ぐバルコニーでバーベキューの火をおこしているところだった。なんだかとっても、暑そうである。
今日のゲストはラグヴァンの両親(ドクターとロティカ)、それにラグヴァンの弟、マドヴァンとその妻アナパマ、そしてロティカの旧友夫妻。主には家族そろっての気の置けない集いである。
ラグヴァンがハワイで買ったというアロハを着て、ウォッカベースのカクテル、ハワイアンを作ってくれる。まるで、研究室で実験するかのごとき所作で、作ってくれる。鮮やかなブルーの、甘くて爽やかなカクテル。
しばらくは、おつまみを食べながら、長々と会話。この、食事までの永遠とも思える「助走」に、まだ慣れていない母は、空腹を隠せない様子。インドでは、ランチにせよ、ディナーにせよ、まずはドリンクを飲みながら、スナックをつまみながら、ひと通り会話を楽しんでから、食事に移行する。
従っては、ある程度、何かで胃を満たして挑まなければ、空きっ腹にアルコールで酔ってしまう。
テラスでは、ドライヴァーのクマールも加わって、バーベキューの準備が進められている。チキンにマトン肉、バナナの皮に包んだ白身魚、ピーマン、パニール(チーズ)、タマネギ、マッシュルームにポテト。中でもおいしかったのは、スイートポテト(サツマイモ)のホイル焼き。
ほくほくに蒸し焼かれたそれは、石焼き芋を彷彿とさせる甘みと旨み。わたしと母、つまりは日本勢がほぼ独占状態であった。
クマールとモハン、すでに汗だくである。がんばっておくれ。
食事のあとは、3月のお誕生日の人を祝しつつのデザートタイム。ドクターもアナパマも、そしてロティカの友達も、3月の20日前後生まれとのことで、3回、キャンドルをつけては歌い、祝福を繰り返す。
ところで本日のスイーツは、スジャータ手作りのチョコレートケーキ。このあと、アイスクリームやホイップクリーム、ストロベリーソースも出て来て、みな、何度もおかわりをしながら舌鼓を打っている。
そうして夕方の帰り際。若い衆がバスケットボールをするというので、渋るマイハニーも引き込んで、参加することにする。
実は、ラグヴァンが「バスケットをするから、着替えを持って来ておいて」とアルヴィンドに告げていたのに、「ぼくはやらない」と言ったきり、わたしにも教えてくれていなかったのだ。
ここ数日、なぜかあちこちで、バスケットボールのコートを見る機会があり、わたしがバスケットをやりたがっていたのを知っていたくせに。
ジーンズの裾をまくり、サンダルを脱ぎ捨て、「これはイタリア製なんだから!」と、渋る母に、「ケチケチせんで、貸してよ」と、強引に母の履いていた「金色の」スニーカーを奪い(ちょっと小さいけどなんとか入った)、ウォームアップもそこそこに、コートへ。
ラグヴァン、スジャータ、マドヴァンは、「体操着」に着替えて、本気を見せている。アナパマはサルワールカミーズを姿ながら、スカーフで要所を縛り、裸足でコートに入る。
ちょっと、昔とった杵柄を見せちゃろうやん、とばかりに、コートを駆けてドリブルシュート! 久々の一本は決まり、「おう! ミホはやるじゃん!」と、一瞬、人々の注目を集めたものの、身体ならしに2、3本シュートを決めただけで、ぜいぜいと息が切れる。ばばあにもほどがある。
3対3に分かれて、ハーフコートで試合。頭の中では走りたい、動きたい衝動があるのだが、身体がまったくついていかない。
一方、ラグヴァンやマドヴァンの、身体の軽いこと。ラグヴァンに至っては、足を頭の後ろに回したりするものすごいポーズもできるくらいのヨガ達人者ゆえ、基本的な体力と柔軟性がある。
動きが若々しく、元気はつらつだ。スジャータもまた、毎日数時間のヨガをしているせいか、スポーツマンタイプではないけれど、持久力がある。
一番へこたれているのは我々夫婦。マイハニーは、バスケットの試合(と呼べるのか?)は初体験である。DC時代に、向かいのSt. Alban Schoolの校庭で、ちょっとだけシュートの仕方などを教えたことがあったけれど。コロコロしながらも、それなりに健闘していた。
きゃあきゃあ、わあわあと大騒ぎをしながら、コートを駆け回るまるで歓声だけは若者である。コートの傍らのコンクリートに、クマールとモハンが仲良く腰掛けている。
「よくやるよね〜」ってな様子で、ニコニコしながら、我々を眺めている。彼らがとっても冷静な大人に見える。母もまた、車の中から、我々を見ている。
ぜいぜいと息を切らしながらも、30分ほどは駆け回っていたと思う。やがて限界を覚え、我々夫婦はお先に失礼する。彼らはまだ、2対2を続ける勢いだった。
食べて飲んで、おまけにスポーツまでやっちゃって、実に充実した日曜日であった。
明日以降、発生するであろう筋肉痛が、ちょっぴり心配される。