5月3日、竹内浩三という人のことを知ったことは、当日のブログに書き残しておいた。彼の作品をどうしても読みたくなり、先日、amazon.co.jpにて注文したのだった。
ニューヨーク時代は紀伊國屋書店や旭屋書店があったので、日本で買うよりもかなり割高とはいえ、店頭で買うことが多かった。しかしワシントンDCに移ってからは、郊外に小さな日系書店があったものの、望む本をえられることはなく、このamazon.co.jpをよく利用した。
確かに送料はかかるが、本の単価や一度に送る冊数、配送期間などを調整すると、送料が幾分「割安」になることもあり、便利である。
そんなわけで、今回は、その高価さに少々驚いたものの、まずは竹内浩三の全作品集『日本が見えない』をはじめ、日本で話題の本、かつてから気になっていた本、インド関係の本などを選んだ。
ウェブ上からだと、どういう本が「わたしを呼んでいる」のかが鋭く伝わってこないのが玉に瑕。
思えば去年の2月、インド移住を前に、やはり日本の、amazonからインド関連の書籍を取り寄せたのだった。あれから一年余り。インドの、特に経済に着目した書籍が著しく増えていることに驚いた。
その多くが「インド経済を読み解く」ためのガイドブック的なもので、概要などに目を通す限りでは、どれも似たり寄ったりの気がしてならない。どの本がいいのか、手に取ってぱらぱらとめくり、確認できないのが残念だ。
とはいえ、長々とウェブ上をリサーチする情熱もないので、目に留まったところから数冊を得た。
さて、それらの本が、今日、届いた。一番早い便を頼んでいたのだが、それでも予想よりはやく、週末を挟んで中4日で届いた。
まずは、一番欲しかった本を開く。竹内浩三の、そのユーモアに満ちた漫画や、小説や、その一方で戦地からの本音の、矛先が向かってくる。一篇を、ここに転載したい。
●骨のうたう
戦死やあわれ
兵隊の死ぬるやあわれ
とおい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や
苔いじらしや あわれや兵隊の死ぬるや
こらえきれないさびしさや
なかず 咆えず ひたすら 銃を持つ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかった
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨はチンチン音を立てて粉になった
ああ 戦死やあわれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった。
■竹内浩三全作品集 全1巻より 「骨のうたう(原型)」
(※竹内浩三死後、50年以上が経過しているため、著作権は消滅しており、転載自由とのこと)
終戦前に、戦地で命を落とし、戦後をしらない彼が、この詩をしたためていたことこそに、驚き、胸が潰れた。昭和22年三重県庁の公報によると、1945年4月9日、「陸軍兵長竹内浩三、比島バギオ北方1052高地にて戦死」。23歳だった。
竹内浩三に関するサイト。五月のように 天性の詩人 竹内浩三